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第1回「おい・おい」最優秀賞 「そのうちのぼる」色ロウソク

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おい・おい
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結果発表
最優秀賞

そのうちのぼる
色ロウソク

 あれはもう十年以上前になる。私が二十代の頃、当時の上司と焼肉を食べに行く機会があった。上司はほとんど肉を食べていないのに、私には「どんどん食べな」と美味しいお肉を沢山食べさせてくれた。その上仕事の相談にも乗ってくれ、なんていい人なんだと思ったものである。
 時は流れて現在。私は三十代、もうじき十二年ぶり三回目の年女を迎える。
 先日、老若男女で焼肉の食べ放題に行く機会があった。年齢関係なく食べたいものを自分で注文していたので、各々自由に頼んだ結果、若者の前には沢山の肉が、年配組の前には野菜焼きなどが並んでいた。
 若者組は肉をもりもり食べており、その光景をみた私は頭の中に『いっぱい食べる君が好き♪』という歌が流れだしたのは言うまでもない。
 その一方、年配組は若者組をほほえましく見ながら肉以外を食べていた。そんなときに、若者組の新井君が私たちに肉を勧めてくれた。きっと我々が肉を食べていないことを気にしてくれたのだろう。
 でも違うんだよ、新井君。我々はもうこってりしたものを大量に食べられなくなってしまったんだ。ちなみに、私がカルビを美味しく食べる限界は二枚である。美味しいものを美味しく食べるには少量がよい。それが大人なのだ。新井君は肉をこちらに渡そうとしてくれたが、健康診断が近いから肉は控えていると伝えてその場は収めた。
 かつて、歳を重ねて苦手になる食べ物がある、という話をあまり信じていなかった。私も若かったものだ。今ならかつての上司の気持ちがわかる。あの時、そんなに肉を食べられなかったんだろうな。お元気ですか? その節はありがとうございました。私も今、年長者としてかつてのあなたと同じように振る舞っています。新井君、今のうちに好きなだけカルビもハラミも食べておくといいよ。上司も、私にこう思っていたんだろう。きっと。
 歳をとるということは階段を上ることに似ているのかもしれない。一段一段、生きている限り必ず上る階段。その景色は上ってみるまで分からない。今の私はかつての上司と同じくらいの段にいるのだろう。そしてこれからも色々な変化があって、その度に階段を上っていることを自覚するのだ。
 あ、そうだ新井君、歳をとると筋肉痛が翌々日以降に来るのも本当。だから、私が今日あんまり動かないのはケガとかじゃないから心配しないで! 大人の階段上ってるだけなの。あなたもいつか上る階段をね。
(了)