第1回「おい・おい」佳作 若いねって言われても 山本美和



若いねって言われても
山本美和
最近、職場の後輩たちに「美和さんってホント若くて毎日元気ですよねー」なんて言われた。たぶん褒めてくれているのだろう。でもその日、イスから立ち上がった瞬間に「ゴキッ」と腰が鳴ったとき、私は悟った。「外見」なんて皮一枚で、人間の中身は正直だ。
コンビニでお菓子を手に取ったあと、「いや、糖質……」と戻す。駅の階段を二段飛ばそうとして、足がつりそうになる。寝ても疲れが取れない。テレビを見ながら「あの人誰だったっけ」とスマホで検索するクセもついた。記憶はUSBメモリより心もとない。
一番笑えたのは、スマホの画面が見えづらくて、無意識に腕を伸ばして遠ざけていたとき。気が付けば、そうしている自分を鏡に映して眺めていた。何その動き、完全に“老眼あるある”じゃんって、自分で自分に突っ込んだ。
でも、不思議と暗い気持ちにはならなかった。この「老いの兆し」が、なんだか人間っぽくて愛おしく思えた。
若い頃は、歳をとることに怯えていた。「劣化」だとしか思えなかった。けれど、今は「適応」していく感じに近い。できなくなったことは増えていくかもしれないけれど、それと引き換えに“自分の取扱説明書”はかなり詳しくなってきた。
同級生と久々に会うと、健康診断の話ばかりになる。誰の血圧が高いだの、眼圧がどうだの、医者がイケメンだったなど。それなのに二次会でラーメン食べて「やっぱりこれだよねー」と笑い合う。もう若くはないけど、だからって人生がつまらなくなったわけじゃない。
むしろ、今のほうが肩の力が抜けて楽だ。見栄も競争も、だんだんどうでもよくなってくる。まわりからどう見られるかより、自分がどう心地よく生きられるかを考えるようになった。
最近では、休日の楽しみは朝のラジオ体操だ。はじめは「そんなの年寄りがやるものでしょ」と思っていたのに、やってみると、じんわり気持ちがいい。体は正直で、続けると明らかに調子がいい。朝の光の中で、両手をぐっと伸ばしながら思う。まだまだ捨てたものじゃないな、と。
老いを恐れるよりも、笑える老い方を目指したい。腰は鳴るけど、心の中ではまだ踊れる。それくらいの軽やかさで、これからの人生を歩いていけたらと思う。
(了)