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第1回「おい・おい」選外佳作 「老い」がわからない 比志島國和

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<選外佳作>

「老い」がわからない
比志島國和

 皆様が「老い」を自覚したのはいくつの頃だろうか。この頃、周りの同世代たちの間でも、「もう若くない」というのがお決まりになってきた。
 当方、二十六歳男性、アフロ髪。「老い」がわからない。
 老い知らずの快活男性ということではない。「老い」と自身のいわば「初期不良」との区別ができていないのだ。この文は、自分の「老い」への鈍さに対する警鐘である。
 体力がない。
 というより、あったことがない。せっかく運動盛りであるはずの学生時代も、ただ屋内で苔のむすようなジメッとした生活を送り棒に振った。そして現在に至る。「疲れやすくなった」と言っても何を今さらともう一人の自分が嘲笑うだけである。
 毎日うっすら体調が悪い。
 しかしこれも元からそうであったようにも思う。私はかねてより己の体調に疎く、その日の体調はその日の運で決まると思っている。さすがに野菜を摂取するなどして日々の体調を整えようとした時期もあった。スーパーで手に取った、一日の二分の一の野菜が摂れるサラダ。早速食べようと皿に出したが、深めのカレー皿にこんもりと盛られたそれを見て絶望した。これでまだ二分の一と申すか。厚生労働省はいささか国民に期待しすぎではないだろうか。腹を膨らましながらそれを完食した翌日、普通に中の下ほどの体調を記録した。私は体調について考えるのをやめた。
 髪が抜ける。
 これは最近よく思う。シャワーの度、髪が排水溝に溜まっていくその早さに暗澹たる気分になる。
 しかし、私は生まれつきのアフロ髪なのだ。どうしたってボリュームが出る。そのため、髪が薄くなったなどという実感を得られることはほぼなく、放っておけばボリュームはむしろ増していく一方である。その姿で抜け毛が云々と話したところで説得力は皆無、鼻で笑われるだけである。
 このように、元が元であるせいで、いまいち「老い」を実感できていないのが現状である。しかし、それこそが危険なのではないだろうか。
「老い」はきっと、もう背後まで迫っている。しかしそれに気づかないでいる私は、さながら食虫植物に誘われた虫のようだ。一瞬にして飲み込まれてしまうことだろう。そして気づいた時にはもう、手遅れである。
 そうなってしまう前に誰か、私に潜む「老い」を指摘してくれ。その「老い」を突き付けて、本気で焦らせてほしい。まあ指摘されたらされたで、「ちがうよ、初期不良だから、僕の」とかぬかすんだろうけど。
(了)