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第1回「おい・おい」選外佳作 愛と老い 椎名葵

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おい・おい
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結果発表
<選外佳作>

愛と老い
椎名葵

 身体の老いはわかりやすい。適度なトレーニングや運動習慣のない場合、緩やかに衰え、ふとした瞬間に気付く。私の場合は子どもと一日中公園で遊んだ日や久しぶりのアウトドアの翌日、もしくは翌々日がそれだ。じわじわと身体が痛みを知らせてくる、そのじわじわ加減にすら老いを感じてしまう。しかし、感情の老いは気付きにくい。いつのまにか時代に応じてアップデート出来ずに老いて、ついていけなくなる。
 昔感動したものに感動出来なくなった。社会人を経て親となり、漫画や小説、ドラマの登場人物の当時は受け入れていた設定や行動に共感出来なくなった。恋愛漫画で良くある、主人公もしくは相手の両親がおらず一人暮らしという設定や、先生が生徒と恋に落ちるという設定で進む物語に共感するより先に心配や困惑が勝ってしまい、読み進められなくなってしまった。そして、新しいものへの挑戦もあまりしなくなった。新しい映画やドラマ、小説で感動出来なかったら勿体無いという感覚が芽生え、昔から好きで今も良いと思える作品を見返して満足してしまう。話題になって評価が高く面白いだろう作品を後から見て、もっと早く知っておけば……と悔しく思うことも増えた。いつのまにか凝り固まった思考で楽しめるものの幅が狭まり世の中の流れに遅れを取るようになったように思う。
 しかし、感情の老いと共にわかるようになってきたこともある。子どもの頃、私が好きなものに親が難色を示すことがあった。否定まではいかずとも、話をしても勧めてみても「お母さんはいいや」と取り合ってくれなかった。私は当時、感情の老いとまでは思わなかったが、母は大人だからわからないんだなー位には感じていた。
 だが、今思えば母の難色を示すものは大抵過激な表現があったり陰鬱な描写のあるもの、下品さで笑えるものだった。母が危惧していたのはそれらから私が影響を受けることだったのだと思う。母が本当にそれを好きでなかったかはわからない。私も親となり子どもの見るもの興味を持つものに関わるようになり、幼少期はそれを選択して与えられるのが親だけであることもわかってくると、子どもにどんな影響を与えるかも、ものを見る基準になった。当時私が少しだけ悲しいと思っていたそれは間違いなく母の愛だったのだ。これからも感情は老いていくだろう。その老いにも出来るだけ抗いつつ、それでも、愛と老いだけは間違えないでおきたいと思う。
(了)