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第46回「小説でもどうぞ」選外佳作 試験脳のテレパシー ササキカズト

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小説
小説でもどうぞ
第46回結果発表
課 題

試験

※応募数347編
選外佳作 

試験脳のテレパシー 
ササキカズト

 大学入学試験の本番真っ最中に、それは起きた。
 僕は、最後の一問に苦戦していた。勉強したはずだが思い出せない。参考書の記憶を何とか探ろうと、脳ミソの奥底の迷路をさまよっていた。
 突然、頭の中に声が聞こえた。
〈見つけた〉
 え、何だ? 幻聴か?
〈久しぶりに、繋がる人を見つけたよ〉
 耳ではなくて、頭の中で声が聞こえる。知らない男の声。中年のおじさんっぽい声だ。
〈驚いているね。でも大丈夫。落ち着いて。これはテレパシーなんだ〉
 テ……テレパシー? 超能力の?
〈そう。私は今、君とテレパシーで繋がっていて、君の考えていることがわかる状態なんだよ〉
 そんなバカな。僕は頭がおかしくなったのか? 試験勉強をやりすぎて……いや、やりすぎってほどはやってないけど、追い詰められて頭が変になったのか?
〈君の頭は変になったりしていないよ。君は今、特殊な能力を使えるようになったんだ〉
 信じがたいけど、幻聴とも思えない。ほ……本当なのか、テレパシー。 
 でも何で今? 大事な試験中なんですけど!
〈試験中だからこそ、なのだよ。私はこれを「試験脳」と呼んでいる。大事な試験を受けている緊張感と集中力。脳の活動が研ぎ澄まされている。そして勉強した記憶の断片を探そうとする作業。それが特殊な脳の状態を生みだすんだ。私はそんな状態の脳にアクセスする特殊能力を持っているんだ。もちろん相手……つまり君だが、君にも特殊な能力の才能があったからできることなんだ〉
 あの……。おっしゃることは何となくわかりましたけど、試験中なので、問題に集中したいんですけど。
〈君が今、答えがわからなくて苦しんでいる問題、君を通じて私にも見える。答えを調べて教えてあげるから、ちょっと待っていてくれたまえ〉
 え? 調べて教えるって、どうやって?
〈ネットで検索するんだよ。私は今、パソコンの前にいる。初めは瞑想状態でしか相手と繋がることができなかったけど、今はパソコンを操作しながらでもテレパシーで会話できるようになったんだ。試験中の学生の脳にアクセスして、試験問題を解くのをアシストしてあげる。これが僕の役割。私の特別な能力の活かしかたなのだよ〉
 いやいや。それ、カンニングじゃないですか。やってはいけないことです。
〈カンニング? 今まで何十人という試験中の人と繋がってきたけど、そんなこと言うのは君が初めてだ〉
 今まで誰も断る人いなかったんですか?
〈ああ。感謝しかされてこなかった。これは君が持つ特別な能力を生かして得る答えなのだから、カンニングとはちょっと違うと思わないか?〉
 自分で解けない問題をネットで調べて教えてもらうのは、どう考えてもカンニングです。試験中の脳にしか繋がることができないなんて、カンニング専用超能力じゃないですか。
〈失礼なことを言うね。わかった。じゃあ、こうしよう。今こうして、私が君に繋がることによって、君の試験を邪魔してしまっている。そのぶん一問だけ答えを調べてあげよう。それでプラマイゼロ。どうかな?〉
 なぜそんなに答えを教えたいのかな……。すごく邪魔でしたけど、自分の実力で試験を受けたいのでけっこうです。
〈私は、役に立ちたいだけなんだ〉
 だから、けっこうですって。
〈私にも自尊心っていうものがあってだね、どうしても役に立たなければ納得いかないんだがね〉
 知りません。もう僕に構わないで。これ遮断できないのかな。
〈遮断はさせない。とにかく君が望もうが望むまいが、答えを調べたから伝えるね〉
 知りたくないです! あー! あー! 頭の中の大声で消せないかな。ああ~~~!
〈答えは選択肢Cだ。Cが答え。Cだよ〉
 ああ、くそ! 聞こえちゃった。何これ? 自分が満足したいだけの嫌がらせじゃん。
 ん? Cだって? いや、Cだけはない。Cは引っかけで、答えはAかBのはず。
〈いやいや。だって検索したAIの答えが……。あれ、知恵袋と違うな。ちょっと待てよ。ウィキペ……〉
 もういいです。遮断します。さよなら!
〈あ、待て! 遮断はさせないって言っただろ〉
 ――――――。
 静かになった。遮断できたみたいだ。この能力、コツがわかってきたぞ。脳内のこのイメージをつかまえれば繋がるのか。簡単そうだな。もう一度繋げてみよう。
〈あれ、また繋がった。君のほうから繋げたり、切ったりできるのか。やるな〉
 はい。僕、この能力、けっこうすごいみたいです。あなたよりもずっと力があるって、わかってきました。
〈ははは、今日初めて繋がった素人が何を言うか〉
 じゃあ試してみましょう。僕にはあなたの能力が吸い取れるようです。
〈吸い取れる?〉
 ええ。今後あなたが受験生にカンニングをさせないように、あなたの能力を吸い取っておきます。
〈そんなことできるわけが……〉
 僕は、声の主の力を吸い取った。簡単だった。こんな能力、カンニングがよくないって思わないような人には、ないほうがいい。
 ま、でもちょっとかわいそうだったかな。
 ……あ、そうだ、試験! もうあと三分しかない!
 例の問題の答え、わからない。選択肢AかBのはずなんだけど、もう時間がない。
 ええい! 勘でAだ!

 試験を終えてから答えを調べたら、どうやらAでいいようだ。自己採点では、Aが合っていてギリ合格。勘も実力か?
 それより、あの声の主に頼らなかったということが、自分の中では、何かに合格したような気持ちがしていた。
 おめでとう、僕。
(了)