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12.19更新 VOL.37 賞金1000万円時代とライトノベル 文芸公募百年史

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文芸公募百年史

VOL.37(最終回) 賞金1000万円時代とライトノベル


今回は平成初期から中期の文学状況について解説していきます。

1992年(平成4年)は年間6件の賞金1000万円文学賞が!


平成に入り、出版バブルを背景に賞金1000万円の文学賞が何件も創設されるが、その前に、昭和の時代に開催された賞金1000万円(以上)の文学賞をおさらいしておこう。
散発的ではあるが、約20年間に6件開催されている。

朝日新聞1000万円懸賞小説 1963年(昭和38年) 受賞作は三浦綾子「氷点」。
週刊小説創刊記念 賞金一千万円懸賞小説 1973年(昭和48年)
NETテレビ「二千万円テレビ懸賞小説」 1974年(昭和49年)
集英社創業50周年1000万円懸賞募集 1976年(昭和51年)
徳間文庫発刊記念 総額2000万円懸賞小説募集 1980年(昭和55年)
小説現代創刊20周年記念 講談社一〇〇〇万円長編小説 1984年(昭和59年)


いずれも記念事業、周年事業であり、単年度開催となっている。昭和の頃の高額賞金公募は、大きな節目に会社を挙げたイベント(お祭り)をするといった様相だった。

これが平成に入り、西暦でいうと1990年代になると、定期開催の賞金1000万円文学賞が登場する。これは応募者には喜ばしいトピックとなったが、競合する主催者には脅威だっただろう。有為な新人がみんなそっちにもっていかれてしまうかもしれないからだ。それで賞金を1000万円に増額する既存文学賞もでてきて、賞金1000万円時代となる。
当時、賞金1000万円だった文学賞をリストアップしてみよう。5年間に7件の1000万円文学賞が創設されている。

1988年、第1回FNSミステリー大賞  第2回(1989年)で終了
1989年、第2回日本推理サスペンス大賞 第7回(1994年)で終了
1990年、第1回時代小説大賞 第10回(1999年)で終了
1990年、第10回横溝正史賞 第21回(2001年)から500万円、現在は300万円
1992年、第38回江戸川乱歩賞 第68回(2022年)から500万円
1992年、第10回サントリーミステリー大賞 第20回(2003年)で終了
1992年、具志川市立図書館建設記念1000万円懸賞小説募集


日本推理サスペンス大賞は競合するFNSミステリー大賞が賞金1000万円だったため、第2回から賞金を500万円から1000万円にしている。サントリーミステリー大賞も同様に倍増し、横溝正史賞は賞金50万円をなんと20倍の1000万円にしている。さらに江戸川乱歩賞の褒賞は印税支給という形だったが、それをいきなり1000万円に増額した。これらはほとんどが1992年に行われている。

2006年に史上最高額と同額の賞金2000万円文学賞登場

今、挙げた7件のうち、短命だったFNSミステリー大賞と単発の具志川市1000万円懸賞を除けば、ほかは定期開催だったから、1993年~1999年は1000万円文学賞が常時年間4、5件開催されていた。また小説ではないが、1980年から1999年の第20回まで読売「女性ヒューマン・ドキュメンタリー大賞」というノンフィクションの公募があり、これも賞金1000万円だったから世間の話題をさらい、公募に興味がない人も食指をそそられた。

改めて振り返ると、1990年前後に賞金1000万円時代となり、その後、賞金1000万円文学賞は、出版不況へと移っていった2000年前後にバタバタとなくなるか、または減額して公募が継続されている。
これで高額賞金時代も終わりかと思ったが、そのあと、また小さな波が来る。それが以下の3つの文学賞だ。

2002年、第1回『このミステリーがすごい!』大賞 賞金1200万円
2006年、第1回日経小説大賞 第4回(2012年)から賞金500万円 第15回(2023年)で終了
2006年、第1回ポプラ社小説大賞 賞金2000万円 第5回(2010年)で終了


『このミステリーがすごい!』は当時、公募を継続している文学賞では最高額の賞金1200万円を掲げ、多くの人気作家を送りだした。主な受賞者は以下のとおり。

第4回 海堂尊「チーム・バチスタの崩壊」
第7回 柚月裕子「臨床真理士」
第8回 中山七里「さよならドビュッシー」
第13回辻堂ゆめ(優秀賞)「いなくなった私へ」
第19回新川帆立「元彼の遺言状」


日経小説大賞は賞金1000万円文学賞が少なくなる中で創設され、大きな期待が寄せられたが、賞金を減額したあと、第9回(2017年)のときに赤神諒(受賞作は「大友二階崩れ」)を発掘したぐらいで、大きな成果がないまま第15回をもって終了した。

ポプラ社小説大賞は、史上最高額と同額の賞金2000万円ということで大きな話題となったが、第2回~第4回まで3年連続で該当作なしが続き、やっと受賞者がでたと思った第5回は受賞者の齋藤智裕(受賞作は「KAGEROU」)が俳優の水嶋ヒロだったため、やらせ疑惑が浮上した。話題性を狙って受賞させたわけではないと思うが、賞金を2000万円も使ってイメージダウンでは割に合わず、翌2011年からは第1回ポプラ社小説新人賞に衣替えしている(賞金200万円)。

かつて文学賞の主流は短編だった

今現在、中央の文学賞の中で短編の文学賞は、ジャンル小説や資格制限のある賞を除くと、以下の2件しかない。

文學界新人賞(70枚~150枚)
徳間書店小説新人賞(50枚~80枚) → 前身は大藪春彦新人賞


一方、昭和から平成初期にかけては短編文学賞が多い。というより短編のほうが主流とも言える。純文学系もエンタメ小説系も短編のほうが多く、長編となるとミステリーの文学賞が多かった。1990年代初頭に実施された短編文学賞を挙げてみよう。
※は公募が終了している文学賞。

〈純文学系〉
文學界新人賞(100枚以内))  → 現在は70枚~150枚
新潮新人賞(100枚前後))   → 現在は50枚~250枚
すばる文学賞(50枚~100枚)) → 現在は100枚程度~300枚
中央公論新人賞(50枚~100枚)※
海燕新人文学賞(100枚以内)※
朝日新人文学賞(50枚~100枚)※ →第6回以降は上限350枚
野性時代新人文学賞(100枚前後) →小説野性時代新人賞は200枚~400枚

〈エンタメ小説系〉
小説現代新人賞(40枚~80枚) → 現在は250枚~500枚
オール讀物新人賞(30枚~80枚)※
小説新潮新人賞(50枚~100枚)※
小説すばる新人賞(100枚~300枚) → 現在は200枚~500枚


注)比較しやすいように400字詰原稿用紙換算で表記していますが、小説現代長編新人賞の正しい規定枚数は40字×30行で83枚~167枚、小説すばる新人賞は40字×30行で66枚~167枚です。

この流れが変わったのは、2006年(平成18年)の第1回小説現代長編新人賞。前身の小説現代新人賞は40枚~80枚だったが、これが6倍以上の250枚~500枚になった。

短編の賞のよさはとっつきやすいところで、40枚~80枚という分量は書くことに多少の心得があれば、勢いでなんとか書けてしまう枚数だ。だから応募数は増えるが、その分、選考にかかる費用がかさみ、なおかつ、のびしろを見込んで受賞させたが、長編はさっぱり書けなかったりして単行本デビューできないケースが多々ある。
その点、長編募集は応募のハードルこそ上がるが、即戦力の人が受賞する可能性が高くなり、長編だからそのまま単行本化できる。

かくて小説現代長編新人賞以降に創設される文学賞は長編が多くなり、既存の短編文学賞も規定枚数を変更し、長編文学賞へと衣替えしていった。
この流れに抗ったのは文藝春秋で、文學界新人賞もオール讀物新人賞も短編のままを貫いたが(芥川賞の規定を意識してだが)、ご存じのようにオール讀物新人賞は2025年をもって105回の歴史に幕を下ろした。
プロになりたければ長編を書け。書けない人は地方文芸で腕試しをということか。

台頭するライトノベル

低年齢層を読者対象とする小説は、立川たつかわ文庫や少年倶楽部、少女倶楽部など戦前からあったが、戦後になると男の子の読者は少年漫画誌にごっそり持っていかれる。
一方、女の子向けには昭和41年創刊の小説ジュニアがあり、これがCobalt(コバルト)に引き継がれる。昭和後期の低年齢向け文学賞は集英社のコバルト・ノベル大賞と、小学館のパレットノベル大賞が2大小説賞だった。

中高生男子が読むレーベルには秋元文庫というのがあったが、1980年代にはすっかり下火になっており、男の子向けの小説がぽっかり空いた状態だった。そこに登場したのが、ご存じライトノベル御三家だ。
1988年、富士見ファンタジア文庫が創刊され、1989年に第1回ファンタジア長編小説大賞(現・ファンタジア大賞)を開催。ついで1989年に角川スニーカー文庫が創刊され、1996年には第1回スニーカー大賞が行われている。トリを務めるのは1993年創刊の電撃文庫で、1994年には第1回電撃ゲーム小説大賞(現・電撃大賞)が開催されている。
この3つの小説賞はすべてKADOKAWAが主催で、ライトノベル人気を受け、その後は各社が続々とレーベルを立ち上げていく。

少女小説のほうはコバルトの一人勝ちという様相だったところに、講談社X文庫のティーンズハートが参入し、ティーンズハートなきあと、後継としてホワイトハートが創刊され、1994年に第1回ホワイトハート大賞(恋愛・青春小説部門とエンタテインメント部門)を実施している。

ライトノベルとちょっと違うレーベルに児童文庫があり、現在4つのレーベルが人気を競っている。先駆者は1980年創刊の青い鳥文庫で、これが元祖。小説公募は創刊から37年も経った2017年に第1回青い鳥文庫小説賞を開催している。ついで誕生したのが角川つばさ文庫。こちらは創刊3年目の2012年に第1回角川つばさ文庫小説賞を開催している。2011年には集英社みらい文庫が創刊され、創刊とほぼ同時の2012年には集英社みらい文庫大賞を実施。最後は2009年創刊の小学館ジュニア文庫で、こちらは2015年に第1回小学館ジュニア文庫小説賞を開催している。

文芸公募百年史は、明治26年(1893年)に読売新聞社が募集した「歴史小説歴史脚本」から始まった。それから100年というと平成5年(1993年)になり、この連載も今回で最終回となる。長い間のご愛読ありがとうございます。


文芸公募百年史バックナンバー
VOL.37  賞金1000万円時代とライトノベル
VOL.36  鳥羽市マリン文学賞、志木市いろは文学賞、具志川市文学賞、ほか
VOL.35  朝日新人文学賞、時代小説大賞、鮎川哲也賞、ほか
VOL.34  坊ちゃん文学賞、日本ファンタジーノベル大賞、ほか
VOL.33  小説すばる新人賞、フェミナ賞、ほか
VOL.32  ウィングス小説大賞、パレットノベル大賞、ほか
VOL.31  早稲田文学新人賞、講談社一〇〇〇万円長編小説、ほか
VOL.30  潮賞、コバルト・ノベル大賞、サンリオ・ロマン大賞
VOL.29  海燕新人文学賞、サントリーミステリー大賞、ほか
VOL.28  星新一ショートショート・コンテスト、ほか
VOL.27  集英社1000万円懸賞、ほか
VOL.26  すばる文学賞、ほか、
VOL.25  小説新潮新人賞、ほか、
VOL.24  文藝賞、新潮新人賞、太宰治賞
VOL.23  オール讀物新人賞、小説現代新人賞
VOL.22  江戸川乱歩賞、女流新人賞、群像新人文学賞
VOL.21  中央公論新人賞
VOL.20  文學界新人賞
VOL.19  同人雑誌賞、学生小説コンクール
VOL.18  講談倶楽部賞、オール新人杯
VOL.17  続「サンデー毎日」懸賞小説
VOL.16 「宝石」懸賞小説
VOL.15 「夏目漱石賞」「人間新人小説」
VOL.14 「文藝」「中央公論」「文学報告会」
VOL.13 「改造」懸賞創作
VOL.12 「サンデー毎日」大衆文芸
VOL.11 「文藝春秋」懸賞小説
VOL.10 「時事新報」懸賞短編小説
VOL.09 「新青年」懸賞探偵小説
VOL.08  大朝創刊40周年記念文芸(大正年間の朝日新聞の懸賞小説)
VOL.07 「帝国文学」「太陽」「文章世界」の懸賞小説
VOL.06 「萬朝報」懸賞小説
VOL.05 「文章倶楽部」懸賞小説
VOL.04 「新小説」懸賞小説
VOL.03  大朝1万号記念文芸
VOL.02  大阪朝日創刊25周年記念懸賞長編小説
VOL.01  歴史小説歴史脚本