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12.5更新 VOL.36 鳥羽市マリン文学賞、志木市いろは文学賞、具志川市文学賞、ほか 文芸公募百年史

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文学賞ガイド
文芸公募百年史

VOL.36 鳥羽市マリン文学賞、志木市いろは文学賞、具志川市文学賞、ほか


今回は平成元年から平成5年にかけて創設された自治体文学賞について総覧していきます。

自治体文学賞が創設ラッシュの平成初期

竹下内閣のふるさと創生資金を活用し、平成元年(1989年)に愛媛県松山市が「坊っちゃん文学賞」を、大阪府堺市が「自由都市文学賞」を創設したことは前々回、VOL.34で紹介した。これが自治体文学賞のさきがけとなったわけだが、とりわけ坊っちゃん文学賞の大成功を知り、全国の自治体が地域㏚に打ってつけと関心を示し、次から次へと文学賞が創設された。それらを締切順に挙げてみよう。

※注 以下、今回挙げる文学賞は第1回の応募データとなり、現在も公募開催が継続している坊っちゃん文学賞、舟橋聖一顕彰青年文学賞、やまなし文学賞、伊東静雄賞、小諸・藤村文学賞については最新の応募要項とは内容が異なっている場合があります。

自由都市文学賞
小説 50~100枚 賞金130万円 選考委員:藤本義一、眉村卓ほか、締切1989/1/31
坊っちゃん文学賞
小説 80枚前後 賞金200万円 選考委員:椎名誠、高橋源一郎ほか 締切1989/6/30
舟橋聖一顕彰青年文学賞
小説ほか、50枚以内 賞金100万円 選考委員:井上ひさし、田辺聖子 締切1989/ 9/10
鳥羽市 マリン文学賞
小説 80枚程度 賞金100万円 締切1990/8/31
あだち区民文学賞
小説ほか 250枚程度 賞金100万円 締切1990/9/20
内田百閒生誕100年記念 岡山・吉備の国文学賞
小説ほか 300~400枚 賞金500万円 締切1991/7/31
振媛文学賞
小説 30~40枚 賞金50万円 選考委員:黒岩重吾、中山千夏ほか 締切1991/12/20
具志川市立図書館建設記念1000万円懸賞小説募集
小説 350~400枚 賞金1000万円 選考委員:井上ひさし、吉村昭ほか 締切1992/1/20
「小倉南区賞」小説募集
小説 30~40枚 賞金10万円 締切1992/10/31
樋口一葉記念 やまなし文学賞
小説 100~200枚 賞金100万円 締切1992/11/30
浦和スポーツ文学賞
小説 50~100枚 賞金100万円 選考委員:山際淳司、吉永みち子ほか 締切1994/9/30

なんとも壮観というか。小説募集だけで11件開催されている。投稿家は中央の賞に応募するか地元の地方文芸に応募するかの二択だったが、そこに自治体による全国公募というものが台頭し、盛んに応募を募った。しかも、いずれの賞も高額賞金をうたっていたから、皆さん、「こんな公募があるんだ」と欲の皮を突っ張らせて色めき立った。

この中でもっとも度肝を抜かれたのは、「具志川市立図書館建設記念1000万円懸賞小説募集」だった。当時、この応募要項を見て、1000万円って正気かと思った。ほかにも賞金1000万円の文学賞はあったが、ドラマ化、出版化という使用目的と金銭的なリターンの見込みがあるが、ふるさと創生資金1億円の1割とはいえ、単発の宣伝にこの大盤振る舞いには「思いきったねえ」と編集部でも話題になった。

最近、作家の貴志祐介さんとお話しする機会があったのだが、貴志さんは当時、公募ガイドでこうした高額賞金の文学賞を見て、「1000万円あったら、5年ぐらいは無職でも食っていけるから、その間に新作を書けばしばらくやっていける」と皮算用したそうだ。貴志さんに限らず、多くの創作者が「受賞したら?」と夢想したと思うが、しかして1000万円を獲得したのは誰だったのだろう。

調べてみたら、受賞作は大城貞俊「椎の川」だった。大城貞俊さんは、昭和24年、沖縄県大宜味村生まれ。琉球大学国語国文学科卒、受賞時は県立高校の教諭だったようで、その後は琉球大学教育学部で教授をされて定年された。受賞歴は具志川市1000万円懸賞小説のほか、第31回九州芸術祭文学賞佳作、第2回文の京文芸賞受賞、第21回やまなし文学賞佳作、第34回さきがけ文学賞受賞とある。

なんとなく聞き覚えのある名前だなと思ったら、おきなわ文学賞や琉球新報短編小説賞、宮古島文学賞などの選考委員をされている方だった。人生の節目節目に公募があり、公募をきっかけに人生が変わり、その後も選考委員で公募と関わり続けている。まさに公募人生を体現した人と言っていいのではないだろうか。

小説以外の自治体文学賞もぞくぞく誕生!

自治体文学賞は、小説以外のジャンルもあった。それらも挙げてみよう。

森鷗外記念事業 北九州市 自分史文学賞
自分史 200~300枚 賞金200万円 選考委員:三浦朱門ほか 締切1990/10/20
志木市制20周年記念 いろは文学賞
児童文学 30枚程度 賞金100万円 締切1990/8/10
諫早市制50周年記念 伊東静雄賞
詩 40行以内 50万円 選考委員:伊藤桂一ほか 締切1990/8/31
現代詩中新田未来賞
詩 50行以内 賞金30万円 選考委員:三浦雅士ほか 締切1991/3/31
高松市制100周年記念 菊池寛ドラマ賞
脚本 100枚以内 賞金100万円、選考委員:山田太一、井上ひさしほか 締切1991/6/30
うず潮文学賞
随筆 20枚程度 賞金30万円 締切1991/11/11
小諸・藤村文学賞
随筆 10枚程度 賞金30万円 選考委員:高田宏ほか 締切1992/10/31
奥の細道文学賞
紀行文ほか 35枚以内 賞金100万円 選考委員:大岡信ほか 締切1993/3/1

こうして総覧してみると、創設のきっかけとして「創立○周年」とうたっている賞が多い。松山市制100周年、堺市制100周年、高松市制100周年、諫早市制50周年、志木市制20周年などがそうだ。また、地元の著名文化人顕彰系も多い。夏目漱石、内田百閒、森鷗外、松尾芭蕉、島崎藤村などは「○○先生はおらが町出身」と触れ回って誇りが持てるから地域㏚、郷土愛の醸成にももってこいだ。

ちなみに、山梨県と樋口一葉はどんな関係なのかと思ったら、一葉の両親が塩山市出身ということだけらしい。一葉には山梨県を舞台にした小説もあるそうだが、自身は東京生まれで山梨県には行ったことがないらしい。ちょっと縁が薄い? 山梨県出身の文豪ってほかにいなかったのかな。『大菩薩峠』の中山介山とか、無頼派の作家で檀ふみのお父さんの檀一雄とか。出身ではないが、井伏鱒二や太宰治も山梨県とゆかりがある。しかし、応募者にはあまり関係ない話かもしれない。

駅弁文学賞と揶揄されるも文芸公募活況に貢献

平成初期の自治体文学賞を並べてみると、最盛期は平成2年(1990年)~平成4年(1992年)の3年間だったとわかる。このあとも自治体系の文学賞は、ちよだ文学賞、長塚節文学賞、北区内田康夫ミステリー文学賞などが誕生しているが、1990年は1年間に5件、1991年も5件、1992年は4件、文学賞が創設されている。3年間で14件はやはり異例だ。

あまりに乱立したことから、一部報道では駅弁文学賞と揶揄されたりもした。戦後、各県に1校、国立大学が設立されたことから、評論家の大宅壮一がこれを揶揄して駅弁大学と命名したことがあったが、駅弁文学賞はこれのもじりだ。しかし、文学賞はさすがに各県に1件はない。県民を対象とした地方文芸を含めれば別ではあるが。

揶揄されるのも自治体文学賞が話題になったからであり、注目されれば批判も称賛もともに増える。悪く言う人は「地域活性化になっているのか」「賞金(税金)を他県出身者に使うな」などと言い、良く言う人からは「町の名を冠した賞があるのは誇り」「地元の文学熱の醸成に貢献した」といった声を聞いた。

文芸公募への影響という観点で見ると、主催者への影響が強かった。つまり、何かを㏚するために「公募という手があるのか」と周知されたのだ。結果、出版社、放送局、地方紙といった企業のほか、地方の公共団体による文芸公募開催を促した。公募ガイドに掲載依頼をしてくる公募の担当者には、「受賞者にはなれなかったけど、公募好きが高じて主催者になってしまいました」という方まで現れた。皆さんもどうでしょう。この機会に文学賞を立ち上げてみては? 自身の作品は選べませんが。


文芸公募百年史バックナンバー
VOL.36  鳥羽市マリン文学賞、志木市いろは文学賞、具志川市文学賞、ほか
VOL.35  朝日新人文学賞、時代小説大賞、鮎川哲也賞、ほか
VOL.34  坊ちゃん文学賞、日本ファンタジーノベル大賞、ほか
VOL.33  小説すばる新人賞、フェミナ賞、ほか
VOL.32  ウィングス小説大賞、パレットノベル大賞、ほか
VOL.31  早稲田文学新人賞、講談社一〇〇〇万円長編小説、ほか
VOL.30  潮賞、コバルト・ノベル大賞、サンリオ・ロマン大賞
VOL.29  海燕新人文学賞、サントリーミステリー大賞、ほか
VOL.28  星新一ショートショート・コンテスト、ほか
VOL.27  集英社1000万円懸賞、ほか
VOL.26  すばる文学賞、ほか、
VOL.25  小説新潮新人賞、ほか、
VOL.24  文藝賞、新潮新人賞、太宰治賞
VOL.23  オール讀物新人賞、小説現代新人賞
VOL.22  江戸川乱歩賞、女流新人賞、群像新人文学賞
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