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第47回「小説でもどうぞ」佳作 タイクツな出来事 青野ミドロ

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小説
小説でもどうぞ
第47回結果発表
課 題

逆転

※応募数347編
タイクツな出来事 
青野ミドロ

 週末の、朝ぼらけ。忍び足で自宅を出ていこうとしたら、たまたまトイレの用事で起きていた息子に見つかった。
「パパ! どこへいくの!」
「ああ、ちょっと、その、仕事にな……」
「うそだ! お空飛びにいくつもりなんでしょ!」
 私の行動パターンはどうやら五歳の息子にも筒抜けのようだった。
 息子は起き抜けにもかかわらず、火のついたように泣き出した。
「今日はまつりで金魚すくいやるっていったじゃん! 約束したじゃん!」
 こうなってはもう手が付けられない。私は早々にこの場を退散することだけを考えることにした。
「今日はおばあちゃんと留守番してな。いい子にな……じゃっ!」
「きーん-ぎょーすーくーいーっ!」
 泣きわめき地団駄をふむ息子をおいて、私は家を出た。
 自家用車に乗って近くのパーキングエリアに到着。まもなく仲間と落ち合った。
「きたきた、待ってたぜ。……どうした? さえない顔だな」
「いやあ、息子と祭りにいく約束破っちゃってさ……」
 バツの悪い顔をする私を、仲間は両手をひらひらさせ、宥める仕草をした。
「まあまあ、気にするな。まずは自分が楽しまないとな」
「そうだな、ありがとう」
「さあ出発だ」
 私たちは旧飛行場跡地へと車を発進させた。
 私は父親になってからというもの、スカイダイビングの趣味に没頭するようになった。
 新婚旅行で体験したのをきっかけに、空を飛ぶ魅力にハマってしまったのだ。
 進学、就職、結婚……出世ルートをベルトコンベアで進むような順調な人生、それに対して特に不満はない。ただ、人生には多少の刺激が、いうなればスパイスが加わるとより味わい深いものになると、五年前に気づかされたのだ。
 命をパラシュートに預ける、なんともいえないスリルと高揚感。友人にもその楽しさを説いて回り、今では八人のダイビング仲間を数えるまでになっていた。
 徒歩で待ち合わせ場所に来た仲間も次々とピックアップする。
 車の中でバカ騒ぎをしながら私は大声で言った。
「はっはは……この空を飛ぶ快感に比べたら、金魚すくいなんて退屈でやってらんねえわな! ははは……!」
 祭りの日には、露店で金魚すくいをしよう――。
 数日前の息子との会話である。息子との約束を破った罪悪感がまだ胸にわだかまっていたが、それをエナジードリンクと勢いで無理やり打ち消した。
 スカイダイビング施設に到着すると、私は早速ジャンプスーツに着替え、ヘルメットとパラシュートを着用した。
 私たちを降下ポイントまで連れていってくれるセスナ機もすでに待機していた。全員がその機体に乗り込む。
 セスナ機が離陸する。そのとき、背後からもう一機のセスナ機があとを追うようについてくるのが見えた。
「別のダイバーさんかな? もうちょっと離れて飛んでもらえると安心なんだが……ま、なんとかなるだろ」
 セスナ機は上昇をつづけ、降下ポイントの高度に到達した。まずはめいめいにオープンジャンプだ。
 皆で和気あいあいと会話しつつ、よしっと気合を入れた仲間が次々とセスナ機のドアから飛び降りる。
 仲間の姿が一瞬で豆粒になる。この飛び降りる瞬間の緊張感がたまらない。
 そして私の番を迎えた。
「それでは不肖私、二分弱のお空の旅へ行ってきまーす!」

 そう叫んで勢いよく飛び出した。
 空中に身を投じると、仲間がてんでんばらばらに点在しているのが見えた。風圧に顔を歪ませながら思い思いの動きをして楽しむ。

 そのときであった。はるか後方を飛んでいたあのセスナ機が、急に空気抵抗を無視した奇妙奇天烈な動きをして、我々の落下に合わせて高度を下げてきた。その動きはさながらハチドリのような鋭角な動きであった。
 そしてそのセスナ機の底面がパカッと開き、光を照射してきた。その光に照らされたダイバー仲間は急に重力を無視して上昇し、そのセスナ機に吸い込まれていった。
 私は風圧で頬をゆがませながら蒼白になった。
「な、なんだ一体!」
 カクカクと動きながら光の照射を繰り返し、仲間の八人を次々と回収していく不気味なセスナ機。そして最後に私が、その光の網にかかり、回収されていった。

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「ああ面白かった」
「そうか、楽しんでくれたか、息子よ」
「うん」
「でも人間は八十年は生きるからね。責任持って飼わなくちゃダメよ」
「わかったよ、母さん」
 ヒトを回収し終えたセスナ機の内部。外見とは対照的な幾何学模様のデザインで、ヒトが拝んだことのないオーパーツが設置されていた。座席の後部には檻が作られ、そこには九人の人間が捕らえられていた。
 席に座っている人外の姿をした生物たちがしゃべる。
「また今度やるか。人間すくい」
「うん。やりたいやりたい。この人間すくいをやる快感に比べたら、反重力エンジンで空を飛び回るだけなんて退屈でしょうがないよ、ははは」
(了)