第47回「小説でもどうぞ」選外佳作 逆転カード 藤野はるい


第47回結果発表
課 題
逆転
※応募数347編
選外佳作
逆転カード 藤野はるい
逆転カード 藤野はるい
子供のころ、母によく聞かされた話がある。僕は、あと数秒で年が変わる、という大晦日に産まれたのだが、その夜、母のおじいちゃん、つまり僕のひいおじいちゃんが夢に現れたのだそうだ。そして、
「みっちゃん、悪かったなあ」
と何度も言うのだという。
母は、子供のころ可愛がってくれたおじいちゃんがてっきりお祝いに来てくれたのだと思っていたから、何故そんなにすまない、すまない、と謝るのかと思い、聞いてみたのだとか。
すると、ひいおじいちゃんは、
「産まれるのが少し早かったな。いや、遅かったのか」
と言ったのだという。
ひいおじいちゃんの話はこうだった。産まれた赤ん坊には逆転カードという幸運のカードが授けられる。けれど、枚数が決まっていて、年の初めだと神様もまだまだたくさんあると思っているから、大盤振る舞いしてくれるのだが、僕みたいな日に産まれると残り少なくて、ひいおじいちゃんは、ようやく一枚だけもらって来ることができたのだという。
「一枚しかないんだ。大事に使え」
ひいおじいちゃんは、そのカードを赤ん坊だった僕のお腹にぺたんと貼ってくれた。そのカードは、少しずつ透明になって見えなくなり、ひいおじいちゃんも消えてしまった。
僕は、友達によくその話をしたのだけれど、誰も信じてくれない。信じてくれたのは、由里ちゃんだけで、そのうち話をすることもなくなった。でも、周りを見ていると、逆転カードって本当にあるんじゃないか、と思う。リレーの選手で最下位だったのに一番で戻ってくるやつとか、絶対無理だと言われてたのに第一志望の難関大学に合格したやつとか。
いったい何枚もらってるんだよ、と思うぐらい運のいいやつもいる。でも、僕は実直な
母に育てられたせいか、さして羨むこともなく堅実な学生生活を送っていた。せっかくひいおじいちゃんが苦労してもらってきてくれたカードなのだ、大事に使わなければと思っていたのかもしれない。
僕には夢があった。それは漫画家になることで、憧れは『名探偵バカロン』を書いている東山たいじ先生だ。東山先生が審査員を務める漫画コンクールで最優秀賞を取り、デビューするのが僕の夢なのだ。
今年も年に一度のそのコンクールの締め切りが近づいていた。サークルのみんながライバルだ。最終選考に残れば東山先生から直々にアドバイスがもらえる。今年の応募総数はすでに千点を超えたらしい。
そんなある日……。
僕は目を疑った。僕が書いた探偵漫画『月夜の大逆転』が一次選考を通過したのである。
「亮君、すごい!」
由里ちゃんがスマホを振り回して興奮している。サイトでは一般投票が始まり、ここでの投票数も最優秀賞を決めるのに加点される。今のところ僕の『月夜の大逆転』と伊佐夫のSF漫画『イソップ』が他を抑えて頭ひとつリードしていた。でも、僕は落ち込んでいた。『イソップ』がすごく面白いのだ。筋金入りの漫画好きの由里ちゃんだって、口には出さないが伊佐夫のほうが面白い、と思っているに決まってる。一般投票が終わるまであと一週間。このままでは伊佐夫に負けてしまう。
――逆転カード――
僕の頭にあのカードが浮かんだ。今までそんなこと思ったこともなかったのに、カードを使いたくてたまらなくなったのだ。カードはキラキラと虹色に輝いて僕の胸の中にあった。そのとき、僕のスマホが鳴った。母が車にはねられたというのだ。僕は由里ちゃんと市立病院に全速力で走った。
ひいおじいちゃんがくれたカード、使えるのは一度だけだ。僕は――母を選んだ。
「ごめんね、びっくりさせて」
母は、自転車を漕いでいて横道から出てきた車にぶつかったのだ。軽傷ですんだが、一晩入院させてもらうことになった。
「亮君、逆転カード使ったんだね」
由里ちゃん、僕の話を覚えていたのか。
「事故の状況聞いたら、あの程度で済んだなんて奇跡だもん」
「もしかしたら、ひいおじいちゃんはこうなることがわかっていて僕にカードを持たせたのかもしれないな」
ってことは、最初から僕のカードはなかったってことだ。でも、いいさ。僕はいつの日か自分の力で夢を叶えるんだ。
「いざとなったら私のカードを使ってあげる」
「えっ! 由里ちゃん持ってるの? 逆転カード」
「やだ、持ってるわけないじゃん」
由里ちゃんは笑ってるけど、そういえば彼女は昔からラッキーガールだった。
(了)