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第47回「小説でもどうぞ」選外佳作 花の正三角関係 七積ナツミ

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小説
小説でもどうぞ
第47回結果発表
課 題

逆転

※応募数347編
選外佳作 

花の正三角関係 
七積ナツミ

 僕には気になる人がいる。今年、新入社員として同じ会社で勤め始めた同期の未知子さんだ。歳は僕よりもひとつ年上らしい。やはり同期の小林くんに聞いた。早々にそんな個人情報を知っているとは……僕と同い年の小林くんも未知子さんが気になっているのかも。
 入社式で名前の順に並んだ時、未知子さんは僕のひとつ前だった。僕のひとつ後ろは小林くん。小林くんは話好きで出社初日だというのに、やたらと話しかけてきた。小林くんがつまらない冗談を嬉しそうに話して、同じ内容を三度繰り返そうとした時、僕はよっぽど一言言ってやろうと思い、振り向こうとした。その一瞬前に僕よりも先に未知子さんが振り返って、花みたいに笑った。僕は瞬く間に恋に落ちた。結局、小林くんには文句も言えないまま入社式は終わってしまった。
 入社してから怒涛の三ヶ月が過ぎた。季節は爽やかに初夏を迎えた。僕ら新入社員はとにかく覚えなければならないことが山のようにある。いくら大手だからって、電機メーカーの営業職に就いた自分を恨んだ。元々僕は暗記も人と話すのも苦手なのだ。適材適所の勘を外した会社の人事すら恨めしい。悪戦苦闘の日々でも何くそと勤続できるのは、未知子さんがいるからだ。未知子さんの配属は総務部で、いつも静かにパソコンに向かっている。僕が汗だくになって外出先から戻るとたまに目が合って、やっぱり花みたいに笑う。くうぅ、これ! この瞬間のために僕は毎日頑張っている。最近は広いフロアのどこでも、未知子さんが笑うと、そこだけパッとカラーの花が咲いたように僕には一目で分かる。
 気にかかるのは、未知子さんの花が咲くとき、大概小林くんが近くにいるということ。僕と同じ営業部配属の小林くんはいつも涼しい顔で営業先から戻ってくる。元々話好きの小林くんは難なく営業職務をこなしている。むしろ楽しそうですらある。小林くんだって商品名や機器の名称を完璧には覚えていないのに、調子の良い話っぷりで、どんどん顧客を増やしている。先月末に発表された営業成績は、五年勤続の先輩社員を追い抜く勢いだった。僕は小林くんに嫉妬している。営業成績も一因だが、その嫉妬の炎に油を注ぐのは、あの未知子さんの花の笑顔が向けられる回数が!僕よりも!多い!こと! くそう! しかも、奴は未知子さんの笑顔に応えるでもなく、一目散に僕のところに寄ってきて、いつものくだらない冗談をヘラヘラと話し続けるのだ。許すまじ! 何なん? 照れ屋さんなん? せめて素直に喜べ! 心からそう思う。でも、絶対に言わない。あの場で小林くんが喜んだら、未知子さんの笑顔はもう僕には向かないかも知れない! 一度ひとたびでもこちらに花が向く限り、僕にだってあらゆる可能性が残されているんだ!
 あっという間に半年が過ぎ、人肌恋しい季節になった。僕は今でも未知子さんの笑顔のお陰で仕事を順調に続けられている。僕は男の意地を見せ、新入生のトップを走る小林くんの営業成績に、何とか喰らい付いている。心なしか、未知子さんの笑顔が僕に向く回数が増えた気がする。小林くんは相変わらず毎日僕にヘラヘラ纏わりついてくる。僕はいよいよ決心を固めた。小林くんがヘラヘラしている間に、一か八かの勝負に出る。この年末は未知子さんと一緒に過ごしたい。長期休暇に入る前には未知子さんに、募る想いを告白したい。そのタイミングを計っている。願わくは、年内に小林くんを抜いて営業成績トップに立ちたい。そして、自信をもって、未知子さんに告白する! そう息巻いていた。
 秋が過ぎ、寒さも増した十一月の月末。何と僕は、小林くんを抜いてトップの営業成績を収めることができた!結果が発表された朝、社内全体がどっと沸いた。入社以来、小林くん以外の新入社員がトップに躍り出たのは初めてだった。未知子さんも笑っていた。そして、おかしなことに、小林くんが感涙していた。今まで涼しそうに見えていた彼も、彼なりに重圧を感じていたのかも知れない。
 その日の終業後、僕は未知子さんを会社の屋上に呼び出した。未知子さんは来てくれたがとても不安そうな顔をしている。そして、その場には何故か小林くんも一緒に現れた。何でお前がと思ったが、良い機会だ。奴の前でも、俺は堂々と告白してやるぞ。告白には分かりやすくてシンプルな言葉が一番だ。
「未知子さん、好きです。付き合って下さい」
 遂に言った!でも未知子さんは何も言わない。困った顔を深くする。何故か小林くんの顔が真っ赤だ。怒っているようにも見える。
「柏瀬くん! 僕はね! 君が好きなんだ!」
 え? 今、何て…。
「柏瀬さん、私……、小林さんが好きなの……」
 え……やっぱり。ん?……ていうか……。
 僕たち三人は、お互いの顔を見つめ、陽が沈む夕暮れの屋上に立ち尽くした。橙色から群青に変わろうとする広い空の向こうで、小さく一番星が光り始めた。
(了)