公募/コンテスト/コンペ情報なら「Koubo」

第48回「小説でもどうぞ」選外佳作 最後の人 川畑嵐之

タグ
小説
小説でもどうぞ
第48回結果発表
課 題

孤独

※応募数439編
選外佳作 

最後の人 
川畑嵐之

 ごくごく一部に有能な科学者と知られた男がいた。
 その男はいよいよ最終戦争が近いと判断して、地中深くにどんな核兵器にも耐えうるシェルターを作った。
 そして試験的に滞在しているところ、それは起こった。
 上空をミサイルが飛び交い、多くは着弾した。
 地下深くにいても、その激烈さは振動で伝わってきた。
 念のため、男は地上に上がるのを一年待った。
 一年後、地上に顔をだしてみると、一見以前と変わらないように感じた。
 一時安心したのだが、それにしても人の姿がない。
 かつて繁華街で、人が溢れていたところにも、人っ子ひとりいない。
 ただ、おかしなことに信号や、店のネオンは煌々とついている。
 人がいないことに加えて動物がいないこともわかってきた。
 とにかく目に映る動く生物がいないのだ。
 それとあれほど発展していたAIもいなくなっているようだ。
 どうやら新種の生物破壊兵器のせいらしい。
 人間かAIか誰かわからないが、地球上の生物をなきものにしてしまったのかもしれない。
 もしかしたら地球上には人類はいなくなっても、宇宙ステーションになら生き残っているかもしれないと希望をもったが、どうやらミサイルで破壊されたらしい。
 幸いなのは、植物は依然としてか変わりなく生きていることだ。
 これで食べ物には困らない。
 男はもともと菜食に近かったので、この食事は苦にはならなかった。
 ただ、虫がいないので、花粉を虫に運んでもらっている植物は消えていっていたが。
 それでも肉眼で見えない生物、顕微鏡でしか観ることのできない微生物、ミジンコなどは存在しているようなので、そこからまた生物が進化発展していくかもしれないが。
 しかし、それにしても圧倒的孤独が男を襲ってきた。
 男はそれほど社交的なほうではなく、一日誰ともしゃべらなくても平気だったが、これからも全くしゃべる相手はいないとなれば話は別だ。
 男は飼ってはいなかったものの、唯一猫だけは好きだったので、せめて猫だけでも一匹だけでも生き残っていてくれたらよかったのにと残念がった。
 男はしゃべるロボットをとりあえず作った。
「人類はどうなったのだ?」と訊いてみる。
「なんですか、それは? 勉強したいので教えてください」
 勉強熱心なのはよろしい。
「私は最後の人類かもしれない」
「そうですか。あなたは人類なのですね。麺類とどう違うのですか」
 男が麺類に関して熱く語ったことは覚えているようだ。
 このように受け答えがまだまだとんちんかんなところがあってもの足りないが、つっこみをいれつつ寂しさをまぎらわすことはできた。
 とにかく、資源・エネルギーは普通にあるので、まず身の回りを掃除する機械、ロボットを作る。
 そして住んでいる家が傷むのでリフォームする機械を作成する。
 そんならいっそのこと新しい家を建てればいいと新しい家を建築するロボットを誕生させた。
 なにせ機械はエネルギーさえあれば、文句をいわずずっと働いてくれる。
 こんなありがたいことはない。
 機械は土地を整備し、建物をどんどん増産していく。
 誰も住まない家を建てていく。
 新品のきれいな家をどんどん増やしていく。
 男はなにも動かなくてもよくなった。
 口を開ければ機械が口まで食べ物を運んでくれる。
 ただ、もぐもくして飲みくだせばいい。
 やがて歯がなくなり、管で栄養を入れてもらうようになった。
 排泄も自動でぬいてくれる。
 こんなラクなことはなかった。
 でも、やっぱり寂しく面白くはなかった。
 そうだ、自分のクローン人間を作ってみようと手をうったときがあったが、いや、自分がもう一人いてもぜんぜん楽しくない。
 不気味なだけだ。
 自分は自分ひとりでいい。
 男はどんどん高齢になっていった。
 皺は増えていくし、頭髪もすべて抜け落ちた。
 このままいつまでも生きていられるように生命だけは維持できることはわかっていたが、それも虚しいと気づいていた。
 そして男の寿命は尽きた。
 しかし機械は働くことをやめなかった。
 どんどん家を建てていった。
 いろいろな家を建ててそれを楽しむかのように。
 それから長い時空が流れた。
 機械は飽きずに都市作りをせっせとしていた。
 誰も乗らない自動車や電車も作り、自動で動かしていた。
 なんの前触れもなく大空に光るものが現れた。
 それは眩しいほど銀色に輝いていた。
 ふらふらとよろめくように漂っていたが、地上に羽を休めるように着陸した。
 パカリと胴体が開いて、中からなにやら動くものが出てきた。
 それは二ついた。
 それぞれ二本脚で歩いていた。
 真っ裸な人間のようにも見えなくはなかった。
 どうやらどこかからか住む者を連れてきたらしい。
 銀色の物体は扉を閉めると、さっさとどこかに飛んでいってしまった。
(了)