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【藤原正彦さんに学ぶ! エッセイ上達講座】読者に最後まで読んでもらうには、文章のリズムに気を配ろう!

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エッセイに込めよう! 書かずにはいられない気持ち

どんな人にも、書かずにはいられない初期衝動はある。書くことで、空白を埋めたい。書くことで、傷を癒やしたい。書くことで、自分に戻れる。そこにたどりつくには、自分をさらす覚悟がいる。硬い殻を打ち破る勇気もいる。決意を秘め、この道を歩み始めた君に、この特集を捧ぐ。

あなたにしか書けないことを書く 殻を打ち破れ エッセイ創作キット

小手先のテクニックに頼らない、読ませるエッセイを書くために、エッセイ創作キットを作成。藤原正彦先生のインタビュー編、メンタル編、実践編の3部構成で解説する。

文章の呼吸がいいことが一番大事

——エッセイを書き始めたきっかけはなんだったんですか。

数学者としてアメリカに渡り、3年間教え、32歳で帰ってきたんですが、帰国後、父がアメリカでの生活をまとめておいたらどうだと言うんです。父が言うまとめろとは本にしろという意味ですが、私自身は文章が書けるなんて思ってもみませんでした。

——お父さまの新田次郎さんはなぜ本にしろと言ったのでしょうか。

渡米中、母が毎週、手紙かハガキを送ってくれ、それに対して3、4回に1回、返事を書いたのですが、父は「そのすべてが面白かった」と。手紙を面白く書くことは普通はできないことだから、「おまえ、もしかしたら書けるかもしれない」とおだてられ、それで1章書いては父に読んでもらい、そこでまたおだてられ。

——それがデビュー作の『若き数学者のアメリカ』ですね。

1章25枚ずつ、10章書いたとき、父が「おれの文章に似ているなあ。最後まで読ませる」と言うんです。父が言うには、「プロの作家は美しい文章を書く必要はない。最後まで読者を引っ張るのがいい文章だ」と。私の文章は「最後まで引っ張る力がある。だから才能があるかもしれない」と言ったんです。

——読者を引っ張る力とは、具体的にはなんでしょうか。

父は「最後まで読ませるためには呼吸(リズム)が大事なんだ」と言い、「おまえの文章は、おれに似て呼吸がいい」と言うんです。どうやら父は、私が父の呼吸を盗んだと言いたかったらしい。

——盗んだというのは?

私は父の随筆の第一の読者でした。最初は母が読んで感想を言っていたのですが、母も作家ですから、「何、この小学生の作文みたいな文章」と辛辣なんです。それが10年も続いて、父が「おまえにはもう読まさん」と怒り、それで私にお鉢がまわってきたんです。そうしたら「おまえは批評力がある」と言って。そのとき、私は大学生でしたが、親子とはいえ批評するわけですから、きちんと読みます。それで父の呼吸を学んじゃったんじゃないですかね。

呼吸を学ぶには、呼吸のいい文章に集中的に触れるのが一番いい。いろんな作家の文章を次々に読んでも呼吸は学べないと思うんです。それぞれ違うからね。私は父の随筆ばかり読んでいたから、父の呼吸が伝わったんだと思います。

——集中的に文章を読むなら、どんな作家がいいでしょうか。

自分の好きな作家は、自分の感性に合ったリズムを持っている。そういう人から学べばいいですが、好きでも合わない人もいます。山本夏彦さんの文章は強烈な呼吸があって、書き始めの頃、彼の文章を読んで引きずられてしまい、自分の文章が乱れたのでびっくりしたことがあります。「説明するのが面倒くさい」を「説明すること煩に堪えず」なんて文語調で書くから格好よくてまねしたくなりますが、私には合いませんでした。

どう終わらせるか、随筆は最後が命

——文章の呼吸やリズムについて、もう少し聞かせてください。

文章と文章のつなぎ方の呼吸ってあるんですね。プロの作家はほとんど接続詞を使いません。「しかし」「そして」「なぜなら」など、こういうのを使うと、そこで呼吸が切れちゃうんです。

——接続詞を使わずに接続するわけですね。接着剤を使っていないので連綿とした感じになります。

それから父は「一文は5行までだ」と言っていました。20字詰めで5行だから100字です。それ以上書けるのは谷崎潤一郎と三島由紀夫だけ。普通はできないと言うんです。絶対に5行を超えるな
と。私は今もそれを守っています。

下手な人に限って長々と書く。長くても100字ですね。そうすればリズムがよくなりますが、短い文章ばかりだとリズムが単調になるから、ときどき100字に近い一文も入れます。

——文章のリズムはメロディーにも似ていて、「タン、タン」と来たから次は長く「ターン」と来てほしいのに、また「タン」だとまさに拍子抜けしたりします。

「——だ」「——だ」を二度続けないとか、「である」を続けないというのも、リズムが悪くなるからということとつながっています。

——リズムを悪くする原因は、ほかにはどんなものがありますか。

父は「特殊な言葉は一冊の本を通じて二度使っちゃいかん」と言っていました。それは作家の恥だと。「上」とか「空」とか普通の言葉は何回使ってもいいが、たとえば、「冒瀆」といったような言葉は一度だけだと言うんです。

——文章のリズム以外で、新田次郎さんから教えられたことはありますか。

『若き数学者のアメリカ』の第1章は、ミシガン大学で最初の研究発表をしたときにみんなが褒めてくれたことを書きました。最後に「今日はいい日だった」とか、「うれしかった」とか、蛇足のような文章を5、6行書いていたのですが、そこは消されて、父は「一日は終わった」に直したんです。随筆は最後が一番重要で、父はピッと突き放すように「一日は終わった」としました。プロの技だなあと思いました。

——藤原先生でも、書き始めたものの、まとまらないといったことはありますか。

私は、随筆は最後が決まらないと書けません。まずそこを決めてから書き始めます。

——最後以外は?

5枚ぐらいの随筆なら、最後を決めて、そこに向かう書き出しを決めて、真ん中に入れる話題を1つか2つ考えます。

——通過するポイントをいくつか決めておくわけですね。

最後さえ決まっていればあとはどうにかなるもので、そこがしっかりしていないと空中分解します。一番重要なのは、どのように終わらせるか。最後が命です。

藤原正彦先生を形作っている4大要素

ユーモア

税関で刃物など「シャープなものは持っていないか」と聞かれ、「イエス」と答えて周囲を緊張させたあと、「イッツ・マイ・ブレイン(私の脳)」と言うなど世界中を爆笑させてきた。

作家の両親

父親は『八甲田山死の彷徨』『武田三代』など山岳小説、歴史小説で有名な新田次郎氏。母親は満州からの引き揚げを描いた『流れる星は生きている』がベストセラーになった藤原てい氏。

数学

本業は数学者。『若き数学者のアメリカ』のほか、司馬遼太郎氏が読み始めて止まらなくなり、朝まで読んだという『遥かなるケンブリッジ』など、数学者としての体験を書いた著者もある。

好きなエッセイスト

大学生の頃から軽妙でユーモアがあると欠かさず読んだのが安岡章太郎。ほか、なだいなだ、杉本苑子、竹西寛子、阿川弘之などが好み。辛口のコラムニスト、山本夏彦は年上の友人。
 

藤原正彦
1943年、旧満州生まれ。東京大学大学院修士課程修了。お茶の水女子大学名誉教授。著書は『若き数学者のアメリカ』『遥かなるケンブリッジ』『国家の品格』など多数。

※本記事は2021年1月号に掲載した記事を再掲載したものです。