【読まれるエッセイの秘密】ユーモア・リズム・謎を盛り込め! 「この話、どうなる?」とわくわくさせよう


【実践編】殻を打ち破ったエッセイを書こう
当たりさわりのないことを書いてもつまらない。「読みたい!」と思わせるものを書きたい。その方法を探ろう。
藤原正彦インタビューに学ぼう!
上質のユーモアが読者を引っ張っていく
——最後まで読者を引っ張るには呼吸のほか、何が必要ですか。
上質のユーモアです。クスっと笑わせるようなユーモア。アメリカのジョークはだめ。英語ではパン(pun)と言いますが、ダジャレもだめ。二度と読む気がしなくなります。
論説の場合でも、ユーモアを入れるか入れないかで説得力が違う。ユーモアを入れると、自分をいったん局外に置いて客観的に眺めているという証明になります。何かを主張するときはユーモアを入れないと、「この人は興奮して言っているんじゃないか」と思われてしまいます。
——ユーモアのセンスはふだんから養っていないと書けませんね。
取って付けたようには書けません。ふだんからユーモアが言えるような人柄になっておかなければ。身も蓋もないことを言えば、魅力的な随筆を書くコツは、魅力的な人間になることなんです。
実践編を読み、公募で腕試しを!
ここからは、殻を打ち破り、さらには、読ませるエッセイにするための実践編に入る。
まず、自分を見せたくないという殻や、常識的でいいという殻が破れる題材を探す。
次に、表現の本質について解説しよう。本質がわかっていないと、小手先のテクニックに踊らされ、作品を悪くしてしまうことがあるから要注意だ。
次に、さまざまなエッセイのタイプを紹介する。TPOに合わせて使い分けてみよう。
最後に、飽きさせずに読ませる方法を3つ挙げる。エクササイズもあるので挑戦してみよう。
創作キットは、実際に創作するためにある。読み終えたら、公募で腕試しといこう。
題材を探そう
殻を打ち破るエッセイの題材を探す3つの観点
①人に知られたくないとずっと隠していたこと
燃え殻さんのインタビューにもあったように、「絶対に言わないでね」ということが一番面白い。そのような秘密は誰もが持っている。そんなに大それたことでなくてもいい。ちょっと人には言いにくいというものを探し、さらりと告白してみよう。
書いてみよう!
あなたが隠していることは?
②極めて個人的で書くまでもないと思うこと
有名人でもない個人のことを書いても誰も興味を持たないと思ってしまう。確かに、SNSに上げるようなネタではつまらない。しかし、実体験はそれだけで面白く、普通であるがゆえに共感につながる場合もある。個人的な題材を探してみよう。
書いてみよう!
些事だけど書きたいことはある?
③当たり前だと思って何も思わなかったこと
自分にとっては当たり前ということが意外と題材になる。たとえば、昭和40年代まで、家族旅行では親は正装した。当たり前のことだったが、今考えると奇異。時代や地域が変われば、「私の常識、世間の非常識」ということも。題材は身近にある。
書いてみよう!
時代や地域限定の当たり前はある?
表現の本質を考えよう
意味やイメージが広がるのがよい文章
ここで言う「表現」とは、心や頭にあること、思うことを文章で表すということだが、それらを十全に伝えようとすると、足し算で発想してしまいがち。これでもかこれでもかとごてごてと修飾したり説明したり。あるいは小ざかしく比喩を使ったり、例をだしてみたり。
そうしたことも間違いではないが、なるべく短い言葉で表現し、しかし、伝わるものは多いという表現のほうが、読者も楽であり、効率もよい。引き算で考えよう。
一番いいのは、読んだ人が触発され、書かれていなかったことまで想像してしまったり、考えてしまったりするエッセイだ。

エッセイのタイプを選ぼう
殻を打ち破ったエッセイに向く3つのタイプ
①体験手記タイプ
実体験をそのまま書いていくような書き方。実際に体験した人が、その出来事をありのままに書いていくので、読者は同じ体験を追体験したような感じになる。旅行記などの場合は、一緒に旅をしている気になる。未知の体験、稀有な体験、原体験を書くときに向く。
プロの例
沢木耕太郎『深夜特急1 香港・マカオ』
香港・マカオを皮切りに、ロンドンまでバスで一人旅をする実体験に基づくノンフィクション。刊行後、バックパッカーのバイブル的書物となった。
②談話風タイプ
談話風は、しゃべっているような書き方。セリフのように書くわけではないが、目の前にいる誰かに語りかけるように書いていくのでとっつきやすい。実際のおしゃべりのようにとりとめなく、いくつかの話題が出てくる場合はそれらを統合する軸が欲しい。
プロの例
林真理子『マリコ、カンレキ!』
還暦を迎えた林真理子のエッセイ。「週刊文春」に連載中。日常が面白おかしく語られ、時に大胆に脱線する。本物のおしゃべりを聞いているようで楽しい。
③論述タイプ
通常のエッセイは作者が体験したことを中心に書くが、何かを論述していくタイプのエッセイは実体験を書いてもそれはメインではなく、ほんの話のとっかかり。日頃から熟考した確固たる考えがあり、それを説得的に論証していくようなエッセイに向く。
プロの例
藤原正彦『祖国とは国語』
山本夏彦に「遅れてきた日本男児」と言われた藤原正彦のエッセイ。国家論的教育論のほか、藤原家のことをユーモアたっぷりに書いたエッセイも収録。
飽きさせずに読ませるテクニック
読む原動力となるユーモア
ユーモアがあると、この面白さをもっと味わいたいと先を読みたくなる。ダジャレや言葉だけの笑いは賞味期限が短く、効果がない。内容が硬かったり、つらかったりすると、ユーモアがより引き立つ。やりすぎは禁物で、1編のエッセイなら数カ所、要所要所に入れるといい。
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ユーモアのある文章の実例
この本は、『週刊新潮』に掲載された「管見妄語」(中略)を収録したものである。言わずと知れた看板エッセイである。少なくともこの連載を読んだ友人達は口を揃えてそう言う。他の人々、ほぼすべての読者が何と言っているかは知らない。知りたくない。(中略)批判や非難、論難は人の力を削ぐからなるべく聞かない、運悪く聞いてしまったら一日も早く忘れる、というのが私の流儀である。
(藤原正彦『管見妄語 常識は凡人のもの』)
読み手が心地よくなるリズム
散文のリズムは七五調というわけでもなく韻文とも違う。意味を優先し、リズムが犠牲になることもあるが、川底にあるような岩や小石を極力排除し、文章がスムーズに流れるようにする。文章だけでなく、論理や思考も途切れることなく流れるようになっているのが理想。
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リズムのいい文章の実例
あんなのは俗物のすることだと若い頃バカにしていた花見が、いつか毎年の大事な節目になったのは、年をとってからのことだった。六十過ぎた頃から、花をみるとなにやら特別な気持がするようになった。あまりにも華やかではかない花を見ていると、見ることいまいくたびぞ、といった思いが湧いてくるのである。
むろんこれはわが人生も終りに近しという気持が、日常ふだん心の中に潜んでいるからだ。
(中野孝次「名残りとぞ見る吉野山」)
それでどうなるという謎
ユーモアとリズムは、「もう読むのをやめよう」と思う隙をなくしてくれるが、さらに言えば、「この話、どうなる?」という謎や期待があると、ページを繰る手が止まらなくなる。とくに長いエッセイの場合は、大きい謎を1つ据え、小さい謎を小出しに配していくといい。
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謎のある文章の実例
ヨーロッパのワイン産地の地図を見ると、多くの人はある明白な事実に気づく。それは、ほとんどすべての有名なワイン産地が川沿いにあることだ。
(中略)
これは、フランスの主要河川であるロワール川やローヌ川だけでなく、ドイツのライン川やモーゼル川、ポルトガルのドウロ川沿いにも見られる。ヨーロッパに共通の風景だ。
では、なぜ川なのか。
(福田育弘「ワインという思想││おいしいワインは川が作る?」)
チャレンジ
①あなたの日常をユーモアを交えて書いてみましょう。
②先が気になる文章の冒頭を書いてみましょう
※本記事は2021年1月号に掲載した記事を再掲載したものです。