【衝撃的な事実を生煮えのまま書かない】くどうれいんさんが明かす――強い体験に頼らないエッセイの書き方


消費されるために書いているわけじゃない。自分のために書き続けたい。
4月に刊行された『うたうおばけ』はすでに2度の重版がかかる人気ぶり。また、彼女は「東北の小さな歌人」とも呼ばれ、短歌専門誌でくどうれいん特集が組まれるなど注目度も高い。いま必見の新人の「書きたい」に迫った。
エッセイ、短歌、俳句書き続ける理由は「不器用だから」
——単刀直入にお聞きしますが、くどうさんの「書く理由」とは?
15歳の時からどんな些細なことでも文章にしてきたので「書くな」と言われるほうがつらいくらいです。ただ、正社員で残業もしているので生活に支障はあります。
それでも書くのはたぶん不器用だから。みんなは立ち止まらずに通り過ぎていけることに、いちいち立ち止まって指でほじくって「こんなに面白いことがある!」って書かずにいられないんです。じゃないと次にいけない。
書き続けるため、生煮えのものは出さない
——エッセイを書く際に意識していることはありますか。
岩手出身の作家、平谷美樹さんとお話しした際に、「石ころ1つで10枚書けるようになったら作家になれるよ」と言われたんです。「衝撃的な事実を生煮えのまま書くのはやめなさい」とも。それはずっと大事にしています。
現代では、自分の人生を懺悔・暴露するようなエッセイが「感動もの」として消費されている気がします。でも、自分の中で決着のついていない衝撃的なことを書くのは自分を削る行為です。長く書き続けたいならやめたほうがいい。だから私は、自分の中で整理がついて「おしまい、ちゃんちゃん」の状態になるまでは書かずに寝かせておきます。じゃないと、誰かに批判されたときに人生への否定か文章力への指摘かわからなくなる。批判も冷静に受け止められるくらい客観視するまで書かずに待つのが大事です。『うたうおばけ』の中の大学受験に失敗する話は、書けるまで5年かかりました。
——たしかに著作に衝撃的な話はあまりないですね。
エピソードの強さやつらさで戦ったら絶対に上がいるんですよ。コンテストに応募するときも必ず過去の受賞作を見て、文章力ではなく経験が賞を取っているようなものではないか、見極めて応募したほうがいいと思います。経験で賞を取ると、次もまた経験で作品を書く癖がつく。それに、そうやって自分を削って書いたものでもし賞を取れなかったら、すごく落ち込んでしまいますよね。渾身の一作にすべてを捧げるというのは危ない。玉が何発かあって、ダメでもすぐ次があるくらいがいい。
わかりやすい素直な文章を書きたいと思った
——文章を書き続けてきて、上達を実感したことはありますか。
高校時代、すべてのこだわりを捨てたときに「殻を破ったな」と感じました。中学から高校にかけて、独特な比喩や毒づくような内容の文章を書いていました。それが独自性だと思っていて、いくつか賞も取っていたのでちょっと天狗になっていたんです。
そんなとき、岩手日報随筆賞に応募することに。岩手は宮沢賢治と石川啄木の影響もあって文芸が
盛んなんですよ。受賞したら新聞の第1面に載るような大きな賞で、やってやる!と思ったんです。早速、所属していた文芸部の顧問に相談したら「ベスト・エッセイ集」を貸してくれて、読むとかなり素直な文章ばかり。メッセージもはっきりしていて、わかりやすい文章でした。
それまで「わかる人にだけわかればいい」と思って書いていたんですが、基本もできていないのに自分はなにをしていたんだと衝撃を受けました。安易に共感を求めてわかりやすい文章を書くのは下品だとずっと思っていたんですが、「共感に媚びること」と「わかりやすさ」は違うと気付いてこだわりを捨てました。そこから明確に文章力があがり、岩手日報随筆賞も最年少受賞できました。
うまくなるには応募しかない
Q.若い世代だとネット投稿を基本にする方も多いですよね。たくさんの人に読んでもらうことで上達も早かったりするんでしょうか?
A.私も中学生の頃からブログを書いていますし、ネットから受けた影響はあります。でも、うまくなるのに「褒められすぎてしまう」ネットはむしろ遠回り。上達するために活用するのは、コンテストです。それも大事なのは賞ではなく授賞式。授賞式に行けば審査員の先生に会えますよね。尊敬できるプロに批評をもらうのが一番。SNSは原動力、コンテストで上達と分けて考えています。

くどうれいん流エッセイ執筆テクニック
みんながメモしないほうをメモ
大きな虹が出ていたら、だれでもメモしたり写真を撮ったりする。そういうことはメモしない。メモするのはその虹を見ているおじさんの鞄のキーホルダーや、その時の焼鳥屋の煙のにおい。シーンの細かいところをよく見る。
推敲は必ず声に出して
一文が長いと読みづらくなってしまう。書いたものは声に出してリズムの良さを確認。書く時間が30分なら推敲の時間も30分ほど取るという。
くどうれいん
1994年、岩手県生まれ。盛岡市在住。会社員。俳句結社「樹氷」同人。コスモス短歌会所属。著書にエッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』『うたうおばけ』。現在は講談社「群像」にて「日日是目分量」を連載中。
『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD・税込1000 円)
ことばと食にまつわる俳句&エッセイ集。うれしい時も悲しい時も、「食」は必ずそこにある。食べることは、生きることだ。リズムのよい文章でぐんぐん読ませる話題作。
『うたうおばけ』(書肆侃侃房・1400 円+税)
人生はドラマではないが、シーンは急に来る。失恋してラーメン屋に喪服でやってきたミオ、暗号でしか告白できないスズキくんなど個性的な「ともだち」がつづられたエッセイ。
※本記事は2021年1月号に掲載した記事を再掲載したものです。