あなたとよむ短歌 vol.34 テーマ詠「電車」結果発表 ~最初の選者は「自分」~
テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。
(『母の愛、僕のラブ』より)
テーマ詠「電車」結果発表 ~最初の選者は「自分」~
2023年最初の「あなたとよむ短歌」。今回はテーマ詠「電車」の結果発表です。 毎回、最後にワンポイントアドバイスも載せていますので、ぜひ入賞作品とあわせてお読みくださいね! それではまず、最優秀賞の発表です。
ガタンゴトンはデデンダダンに
「聴覚が母になりゆく」というワードの強さ。この点だけでもう「採用!」としたくなる説得力があります。年齢を重ねると体調も変わり、体型も変わり、好みや味覚も変わるものですが、聴覚もたしかに変わります。モスキート音と呼ばれる高音は加齢によって聞きとれなくなりますし、同じ音でも同様に聞こえているとは限りません。
秋晴れの電車が軽快に走る音を、ふと、「デデンダダン」と捉えている自分に気づく。たしか、昔、母がそのように言っていた。そんな母に「電車の音なら『ガタンゴトン』でしょ」と言った自分。これまで一度も「デデンダダン」なんて思ったことはなかったのに……。自分の聴覚の変化に、母を思い起こす。テーマを生かしつつ、ノスタルジーとリアリティにあふれた一首でした。
続いて、優秀賞2首です。
夜景は今日のエンドロールだ
真っ黒な車窓の外を、ひゅんひゅんと灯りが流れていく様子が目に浮かびます。つり革を握って立っているところから、座れない程度には混んでいる電車なのでしょう。1日の疲労感をずっしりと体に感じながら、白い文字が流れていく映画のエンドロールのような車窓を見る。エンドロールを含めて「映画」であるように、この車窓を見るまでが「労働」なのかもしれません。そこはかとない諦念をまといつつも、美しい一首です。
電車で探す視線の置き場
出だしの「虚空にも定員がある」で「どういうことだ?」と引き込まれ、大納得の下句が待っている構造の一首です。このような「出だしに不思議なことをいう」短歌は、後半が単なる種明かしになると物足りなさを感じてしまうのですが、コメノツブさんの作品には充分な強さがありました。満員電車には人の数だけ視線があります。携帯や新聞を読むこともできない混雑だと、皆が虚空を見つめることになる。けれどもその虚空ですら混み合っていて、下手したら目が合ってしまったり……。そんな日常を見事に描いた一首でした。
佳作のご紹介です!
最後に、「惜しい……!」と感じた作品のご紹介です。
私の顔に切り替えられる
汐海岬さんのこの作品、すばらしいですよね。古来から「境目」とされる「川」を電車で通ることで、既婚後の姓を名乗る私から旧姓の私に戻る。実家に帰る途中でしょうか。
こちらの作品は当初、採用候補に入っていました。ですが、汐海さん、実は他にも「車窓から川が見えると思春期のささくれだった私に戻る」「ビルを越え車窓に川が映るころ私の顔は旧姓になる」など、同じ発想で複数のパターンをご投稿くださっていました。
正直に言って、どれもすばらしく、全て採用したいほどでした。ですから、ここは自信を持って、自分自身で「これ」という最終形の一首を厳選して送っていただきたいのです。
「応募数が増えてしまって、柴田の方で読むのが大変だから」ではありません(もっと応募数が増えたらうれしいです!)。ある発想を形にし、推敲して複数のパターンが生まれたら、どれが最もよいのかを考える……それを選ぶのも短歌の楽しさであり、上達の道です。
また、選考する側からすると、同じような作品を複数読んでしまうと最初の新鮮なインパクトが薄れてしまいます。公募に応募するとき、同じ発想から生まれた作品は厳選した一首を送らないと、あらゆる意味で損をしてしまうかもしれません。
推敲を繰り返して完成させる短歌において、最初の選者は「自分」です!
作品のご投稿ありがとうございました。引き続き、テーマ詠「学校」を募集しています!
テーマ詠は、お題の単語を短歌のなかに入れても入れなくてもOKです。そのテーマにあった短歌をお待ちしています。
どこかに応募した作品も、未発表も作品もぜひご投稿ください。(著作権がご自身にある作品に限ります)
応募規定 | 短歌(57577)を募集します。 テーマは「学校」。 応募点数制限なし。 |
応募方法 | 応募フォームもしくはTwitterでご応募ください。Twitterの場合は公募ガイド公式アカウント「@kouboguide」をフォローして、ハッシュタグ「#あなたとよむ短歌学校」をつけてツイートしてください。 ※応募者には、弊社から公募やイベントに関する情報をお知らせする場合があります。 |
賞 | 最優秀賞1点=Amazonギフト券3000円分 優秀賞2点=Amazonギフト券1000円分 佳作数点=ウェブ掲載 ※該当作品なしの場合があります。 ※作品を記事内で推敲する場合があります。 |
締切 | 2023年1月31日 |
発表 | 2023年3月1日 |