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あなたとよむ短歌 vol.25 公募と作品のミスマッチを防ぐ

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川柳・俳句・短歌・詩
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あなたとよむ短歌
vol.25
公募と作品のミスマッチを防ぐ

入学、進級、就職、引っ越し……年度の始まりであり、気候も大きく変わる春がやってきました。春を詠む歌は、和歌が盛んな万葉の時代から多数ありますが、現代短歌にも多いような気がします。

ハーブティーにハーブ煮えつつ春の夜の嘘つきはどらえもんのはじまり
(穂村弘)
「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい
(笹井宏之)


生命力や明るさ、期待感、不安感、浮き足立った様子など、気候や自然以外にも「春」を感じる瞬間はありますよね。ぜひ自分らしい「春」を短歌にしてみてはいかがでしょうか。

それでは今月も、みなさんの一首を読んで・詠んでいきましょう!

めずらしく奈良(ここ)にも雪がふりました東京都(きみのまち)にもふっていますか
(辻風文尊さん/綾町・照葉短歌賞/テーマ「愛・恋」)


綾町・照葉短歌賞は、奈良県の綾町(あやちょう)が開催する短歌賞です。綾町にある「創造の森」が、プロポーズの名所として知られているため、愛や恋をテーマに短歌を公募していました。

なお、今年はまだ募集情報が出ていないようです。コロナ禍ということもあり、毎年必ず同じ公募が同じように開催されるとは限りません。興味のある公募があったら次の機会を待たず、どんどんチャレンジしたいですね。

辻風文尊さんの作品は、ルビ(ふりがな)を生かした面白い短歌です。「奈良にも雪がふりましたが、東京都にもふっていますか?」であれば、地域ごとの天気を尋ねる何でもない文章です。しかし、奈良に「ここ」、東京都に「きみのまち」とルビをふることで、単なる地名ではなく、誰かが誰かを想う気持ちが表現されています。

すばらしいのは「なら/ここ」「とうきょうと/きみのまち」と両方とも音数が揃っていて、どちらの読み方でも57577の定型に収まる点です。トリックアートのような、計算された美しさが光ります。

とても魅力的な短歌です。けれども(これは短歌の魅力とは、本来関係ない点なのですが)たとえば、当て字や大胆なルビなどのトリッキーともいえる技は、短歌や文芸専門の組織「以外が」開催する短歌賞では取り上げにくいかもしれない、という懸念があります。WEBサイトに結果を載せる際に技術が必要だったり、表示が難しかったり、老若男女が理解するには困難だったりするかもしれません。

もちろん、力作をどこに投稿するのも自由です。けれども、もし入選を狙うとしたら、過去の入賞作品をチェックして「自分の作品とその公募がマッチしているか」を確認するのもいいかもしれません。

ついでにもう1点。「東京都」を「きみのまち」と読むのは、少し苦しいかもしれません。「東京都」は「まち」という規模ではないので……。「奈良」の方には「県」がついていないので、奈良市かもしれませんね。

めずらしく奈良(ここ)にも雪がふりました新宿区(きみのまち)にもふっていますか

このぐらい具体的な地名がいいかもしれません。奈良市に働く「主体」と新宿区で働く「きみ」が思い浮かびます。ちなみに、奈良市と新宿区の人口は共に34~35万人。もしも白い雪で覆われたなら、その景色は似るのでしょうか。それとも、やっぱり違うのでしょうか。

引き続き、一緒に「読む・詠む」短歌を募集中です。コンテストだけでなく、新聞歌壇、雑誌投稿、WEB投稿の短歌(投稿できなかった短歌)もお待ちしています!

 
■講師プロフィール
柴田 葵 1982年、神奈川県生まれ。元銀行員、現在はライター。「NHK短歌」や雑誌ダ・ヴィンチ「短歌ください」、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」への投稿を経て、育児クラスタ短歌サークル「いくらたん」、詩・俳句・短歌同人「Qai(クヮイ)」に参加。第6回現代短歌社賞候補。第2回石井僚一短歌賞次席「ぺらぺらなおでん」。第1回笹井宏之賞大賞「母の愛、僕のラブ」。
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