#02 人気作品にみる! 子どもが惹かれる童話
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イラスト:seesaw.
子どもが惹かれる童話とは? 童話を含めた児童書を紹介している「絵本ナビ」で児童書を担当し、小学校の図書室の司書でもあった秋山朋恵さんに、子どもが惹かれる人気作品を挙げてもらった。
取材協力
絵本ナビ メディアグロース部 副編集長 秋山朋恵さん
※絵本ナビは、年間1900万人が利用する日本最大級の絵本情報・レビューサイトです。
01子どもの悩みやもやもやを解消する
読書感想文の時期になると子どもは自分で読む本を選ぶ傾向があり、この時期に「絵本ナビ」で上位にランキングされる童話は子どもに人気と言える。そんな童話の中から3冊をピックアップ!
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『かあちゃん取扱説明書』
作:いとうみく
絵:佐藤真紀子
出版社:童心社 -
『先生、しゅくだいわすれました』
作:山本悦子
絵:佐藤真紀子
出版社:童心社 -
『先生、感想文、書けません!』
作:山本悦子
絵:佐藤真紀子
出版社:童心社
目の前の問題や悩みを解消する
絵本ナビで人気の童話は?
秋山:毎月ランキングでは上位30位ぐらいをロングセラーが占めますが、ある2カ月だけガラッと変わります。それは読書感想文のある7~8月です。児童書は大人が買い与える場合があり、通常の月は純粋に子どもに人気とは言えない部分がありますが、読書感想文は好きな本でなくては書けないこともあり、絵本ナビとしては7~8月の結果をもって子どもに人気とお伝えできるかと思います。
7~8月にはどんな童話がランキングに入ってきますか。
秋山:子どもが惹かれる童話を分類してみたのですが、まず、「子どもの悩みやもやもやを解消する」ということがあると思います。これに該当するものを挙げると、『かあちゃん取扱説明書』。これは口うるさいお母さんの取り扱いを小学4年の男の子が考えるという大ヒット作です。お母さんをどうにかしたいという子どもたちの気持ちとマッチしたのかなと思います。
口うるさいお母さん。確かに大きな問題ですね(笑)。
秋山:それから近年、読書感想文の時期に人気となるのが『先生、しゅくだいわすれました』。宿題を忘れてしまったところ、先生が「納得できるような嘘がつけたら、宿題を忘れてもいい」と言います。タイトルで強く惹かれるようですね。
同じ作者の童話がもう一つありますね。
秋山:『先生、感想文、書けません!』は昨年の新刊ですが、これは子どもの悩みそのままです。感想文が書けない主人公が苦しんで書けるようになる姿に自分を重ねるようです。
悩みを解消することは子どもにとって最大の関心事なんですね。
02子どもの願いを叶えてくれる
「絵本ナビ」の秋山朋恵さんは小学校の図書室に勤務していた経験があり、その経験から子どもに人気の童話を4冊挙げてくれた。
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『はれときどきぶた』
作・絵:矢玉四郎
出版社:岩崎書店 -
『なんでもただ会社』
作:ニコラ・ド・イルシング
絵:三原柴野
訳:末松氷海子
出版社:日本標準 -
『まほうのじどうはんばいき』
作:やまだともこ
絵:いとうみき
出版社:金の星社 -
『ぺちゃんこスタンレー』
作:ジェフ・ブラウン
絵:トミー・ウンゲラー
訳:さくまゆみこ
出版社:あすなろ書房
面白い童話は設定からして面白い
秋山:もう一つの分類は、「子どもの願いを叶えてくれる」。こんなことあったらいいな、こんなことあったら面白いなというお話です。小学校の図書室に勤めていたとき、よく子どもたちが「面白かった」と教えてくれた童話を四つ紹介したいと思います。
秋山さんの実感として、子どもが惹かれる童話ですね。
秋山:一つ目は、『はれときどきぶた』。これは本が苦手な子でも面白く読めると人気のシリーズです。ロングセラーで、今でも大人気です。
「はれぶた」シリーズはタイトルからして面白そうです。
秋山:二つ目は、『なんでもただ会社』。お願いしたものはなんでも届くのですが、最後に「ん」のつくものを注文してしまうと、ある星に連れていかれて一生働かされるか、それまで得たものをみんな返すかしないといけない。すごくスリリングなお話です。
相手との知的合戦が楽しそうです。
秋山:三つ目は、『まほうのじどうはんばいき』。これはボタンを押したらそのとき欲しいものが出てくるという夢のような設定のお話です。
これは読売新聞がやっていた創作童話コンテストの入選作ですね。
秋山:最後は子どもの願いというより、こんなことあったらいいなという『ぺちゃんこスタンレー』です。ぺちゃんこなので狭いところに入れ、郵便になって世界中を旅することもできるんです。
4冊とも設定からして面白いです。
秋山:これから創作する皆さんも、子どものときにどんな願いを持っていたかなと探ってみると、そこにヒントがあるんじゃないかと思います。
03自分と似たところのある主人公
ダメな子やよい子のダメな部分を見ると、子どもは共感し、安心する。そうした主人公が出てくる3冊を挙げてもらった。
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『にんきもののひけつ』
作:森絵都
絵:武田美穂
出版社:童心社 -
『グレッグのダメ日記』
作:ジェフ・キニー
訳:中井はるの
出版社:ポプラ社 -
『しっぱいにかんぱい!』
作:宮川ひろ
絵:小泉るみ子
出版社:童心社
ダメな主人公、失敗した主人公に惹かれる
子どもはどんな主人公に惹かれますか。
秋山:立派な子やよい子というよりは、ダメな子ではないかと思います。森絵都さんの『にんきもののひけつ』は、バレンタインデーに義理チョコを1個しかもらえなかった男の子が、27個もらったクラスメートの人気の秘訣を探るんです。人気者側からではなく、人気者でない側から書いたほうが子どもは惹かれるように思います。
人気者より、人気者でない子のほうに共感するんですね。
秋山:『グレッグのダメ日記』もそうですが、自分に近い思いや悩みを持っている主人公のほうが親近感がわくようです。物語ではないですが、『ざんねんないきもの事典』が人気なのも「ざんねん」ということに安心感があるのだと思います。
なんでもできる子に共感する子は少ないですね。
秋山:失敗してしまう主人公がどう立ち直るかという童話も人気があります。『しっぱいにかんぱい!』はリレーで失敗して立ち直れないというところから始まります。リレーに選ばれるくらいだからダメな子ではないのですが、失敗してしまう。そういう存在のほうが気持ちに寄り添えるのですね。
大人もそうですが、再生やリベンジをしようとする主人公を見ると共感しますし、応援したくなりますね。