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#06 意外な物語が生まれるかも! 童話のタネメーカー

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童話のタネメーカーを使って気軽に楽しく、童話を書きはじめましょう! 未来の童話作家の第1作目になるかも!?

特集 子どもの心をつかむ童話教室

童話のタネメーカー

START
STOP
編集部吉田がやってみた!

臆病な
名探偵
学校
幽霊を成仏させるお話

小説を読むのは好きですが、物語を書いたことは、2~3回くらいしかありません。それも、本当に自己満足みたいな短いもの。書こうと思ってもうまくまとまらなかったり、つまらない気がして冒頭だけ書いてやめてしまったり。公募への応募経験もゼロです。
「名探偵」とか「幽霊を成仏」とかすごく難しそうですが、とにかくこのお題から物語をつくってみます!

「ナツの鈴の音」

「あ!」
 ユウジの口から、思わず声が出た。
 家の玄関の前でランドセルをおろして、水色のノートを探す。やっぱり、ない。
「ユウジ、どうした?」
「算数のノート、学校にわすれてきた……」
「宿題が出てたな。あした出すんだっけ」
 一人で教室にもどるのはいやだけど、リョウにはこれから習い事がある。
 ユウジは宿題をわすれてみんなの前で先生にあやまるのと、一人で教室にもどるのと、どちらがいいかを考えてみる。
「……取りにもどろうかな」
 リョウとわかれて、ユウジは歩いてきた道を逆向きに歩き出した。



 3年1組の教室につくと、もうだれも残っていない。電気が消えてオレンジ色の日が差した教室はいつもとちがう場所に見える。なぜか開いているまどを閉めて、ユウジは自分の席へ向かう。
 席の後ろにあるそうじ用具入れから何かが飛び出してきたらどうしよう、と思いながらユウジはつくえの中に手を差し込む。
「あった!」
 はしっこが少しよれた、青色のノート。すぐにランドセルの中にすべりこませる。他に忘れ物がないか、つくえの中をもう一度たしかめる。今度こそ、ぜんぶ持った。
 ユウジはつくえといすの位置を整えて、教室を飛び出した。人が少ないろうかを、早足で進んでいく。げた箱に近づくにつれ、何かの音が聞こえてくる。ユウジの頭の中に、今まで見たアニメや映画に出てきたいろいろな化け物が浮かんでくるので、急いでげた箱からくつを取り出す。
 チリン
 肩が大きくゆれた。心臓がどきどきするのをおさえながら、音が聞こえたほうをふりかえると、古びた机に白いトレーが乗っているのが見える。トレーには「おとしものボックス」と書いた紙がはられていた。
 持っていたくつを置き、おとしものボックスに近づく。校内の落としものは、ぜんぶここに集められる。げた箱の前にあるほうが、みんなが落としものに気づきやすいからなんだと思う。
 平たいプラスチックのトレーの上にはハンカチやえんぴつ、キャラクターのキーホルダーが並べられていた。そのトレーのすぐ外に、赤いリボンのついたぎんいろの鈴が転がっている。
「なんだ、この鈴の音か」
 赤いリボンをつまみそっと持ちあげる。チリンと軽やかな音が鳴る。
「あれ? この音どこかで聞いたことがあるような……」
 目を閉じて、鈴をゆらす。チリンチリンと音が鳴ると、頭の中に一匹のネコが浮かんだ。
「おばあちゃんとこの、ナツの鈴だ!」
 近所のおばあちゃんの家に行ったとき、この音をたくさん聞いたのを思い出した。ナツは白と茶色の入り混じった、どっしりしたネコだ。赤いリボンと鈴をつけていて、歩くとチリンチリンと音が鳴った。
「おばあちゃんの家に持っていってあげるか」
 ユウジは鈴を持って学校を出た。



「でも、どうして学校にあったんだろう?」
 手のひらの鈴を見つめる。
 おばあちゃんの家にはリョウといっしょに何度か遊びに行ったことがある。今日はひとりで行かないといけないことが多いな、と思いながらおばあちゃんの家のインターホンを押す。
「はい?」
「おばあちゃん!前に遊びにきたユウジです」
「あら、どうしたの? 少しまっててね」
 おばあちゃんが家から出てくる。前に遊びに来たときより少し元気がない気がする。
「さあさあ上がっていって」
 肩に手を置かれ、玄関へ進む。ユウジは最近お母さんに注意されたとおり、靴をそろえてから上がった。
 いつもはすぐに出てくるのに、今日はナツの姿がない。おばあちゃんがお茶とお菓子を持ってキッチンから戻ってきた。
「あの、ナツはいないんですか?」
「ああ……」
 おばあちゃんはなんだか、さみしげな顔になった。
「ナツは、実は1ヶ月前に亡くなってしまったの。人の年齢にすると、もうおばあちゃんだったから」
 ユウジはなんて言えばいいのかわからなくなって、ぎゅっと手のひらを握った。右手にかたい感触がある。右手をひらくと、赤いリボンのついた鈴が光った。
「おばあちゃん、ぼく、これを届けにきたんです」
 右手の鈴をおばあちゃんに差し出す。
「これは、ナツの鈴だわ! どこで見つけたの?」
「学校のおとしものボックスの近くで見つけて……」
 おばあちゃんの顔に喜びが広がり、目に涙が浮かんでいる。
「おばあちゃん、ナツがいなくなってからこの鈴をお守りにしていたの。見つかってよかった……!」
 おばあちゃんが鈴を手に取ると、チリンチリンと音がする。おばあちゃんは鈴をやさしくなでた。ユウジの手には、ナツのあたたかさとやわらかさが触れたような気がした。
「読み聞かせでときどき学校へ行くから、きっとそのときに落としたんだわ」
 たしかに、おばあちゃんは月に1回くらい学校に来ていた。初めておばあちゃんの家に行ったときも、おばあちゃんの読み聞かせを聞いたあとだった。
「ユウジくん、見つけてくれてありがとう」
 もう一度、おばあちゃんが鈴をゆらす。
 あのとき、おとしものボックスで鳴ったのはどうしてだったんだろう。
 ユウジはもう二度となでられない、ナツのことを思った。


おしまい

原稿用紙にすると、7枚くらいのお話ができました。対象年齢は小学校中学年くらいのイメージです。
主人公の臆病な感じは出せたかなあと思うのですが、「名探偵」とか「幽霊を成仏」はあまり感じられないものになりましたね。けっこうがんばってひねり出したのですが、難しかったです。 でも、このお題がなければ思いつかなかっただろうお話を書けたので、個人的にはとても満足しています!
公募に応募する前の、手慣らしとして挑戦してみてほしいです。書いたらぜひ、「#童話のタネメーカー」でツイートしてください!

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