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あなたとよむ短歌 vol.23「心情」を表す方法

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川柳・俳句・短歌・詩
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あなたとよむ短歌
vol.23
「心情」を表す方法

だんだんと日が長くなってきました。出歩きたいところですが、世間の感染状況を見ると、もう少し暖かくなるまで待ったほうがよさそうですね。
読書をしたり、公募に取り組んだり、短歌に取り組んだり。家のなかの時間も充実させたいところです。

それでは今月も、みなさんの一首を読んで・詠んでいきましょう!

バスタブに過剰なものを持ち込んで流れるお湯を楽しく送る
(河岸景都さん/月刊うたらば2021年8月号応募作品/テーマ「溢」)


短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」は、「短歌をよく知らない人」に現代短歌の面白さを伝えるフリーペーパーです。書店やカフェなどで配布されるほか、WEBサイトからも閲覧することができます。掲載される写真も短歌も本当にすてきなので、ぜひ一度チェックしてみてください。

定期的に発行されているフリーペーパーと月刊誌では、テーマを決めて短歌を公募しています。私も以前応募したことがあり、掲載していただきました。とてもうれしかったです。短歌を始めたばかりの方から、歌集にまとめるほど短歌を作っている方まで、多くの人が投稿しています。

河岸さんの応募作、「バスタブに過剰なものを持ち込んで」という上句が秀逸ですよね。

もし「過剰”に”ものを持ち込んで」だとしたら、単に「多すぎるもの」というニュアンスになりそうです。けれども「過剰な」とすることで、量が多いのかもしれないし、はたまた、量ではなく「バスタブに本来入れるべきではないもの」という意味かもしれない……そんな不穏さが生じます
おそらく短歌の中のこの人(主体)は、何かしらの「過剰なもの」をバスタブに持ち込みたくなる心境だったのでしょう。ヤケを起こしているのかもしれません。落ち込んでいるのかもしれません。テンションが上がっているのかもしれません。

対して、下句「流れるお湯を楽しく送る」が割とあっさりしている印象です。湯船に物を持ち込み、そのぶん溢れた湯を見ている。「楽しく」と書いてしまうと、俯瞰的・冷静的すぎて純粋に楽しそうに感じられないのが、現代短歌の面白いところです。いい大人なのに「過剰なもの」をバスタブに持ち込んだ主体は、どんな心情だったのでしょうか? 本当に「楽し」いだけだったのでしょうか?

バスタブに過剰なものを持ち込めばお湯と心は溢れてもいい

試しに、下句に少し違う方向性のものを入れてみました。大人になるとなかなか感情を表に出すことができなくなるものです。バスタブにわざと「過剰なもの」を持ち込んでお湯を溢れさせる。そんなバスタブで、一人、やっと素直に心情を溢れさせることができる。「溢」というテーマが、より生きてくるかもしれません。

引き続き、一緒に「読む・詠む」短歌を募集中です。コンテストだけでなく、新聞歌壇、雑誌投稿、WEB投稿の短歌(投稿できなかった短歌)もお待ちしています!

 
■講師プロフィール
柴田 葵 1982年、神奈川県生まれ。元銀行員、現在はライター。「NHK短歌」や雑誌ダ・ヴィンチ「短歌ください」、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」への投稿を経て、育児クラスタ短歌サークル「いくらたん」、詩・俳句・短歌同人「Qai(クヮイ)」に参加。第6回現代短歌社賞候補。第2回石井僚一短歌賞次席「ぺらぺらなおでん」。第1回笹井宏之賞大賞「母の愛、僕のラブ」。
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