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「主体」の感情が1音で伝わる あなたとよむ短歌

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川柳・俳句・短歌・詩
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あなたとよむ短歌
vol.22
「主体」の存在感

新しい年がスタートしました。
コロナ禍以降、新年を迎えるたびに「いったい、どんな1年になるのだろう」と漠然と思います。期待だけでなく不安を抱える方も多いはず。けれども、どの年も、どの明日も、できる限りのことに取り組むしかありませんね。そんな日々に「よい運やすてきな縁が味方してくれたらいいな」と願っています。

今年もよろしくお願いいたします。それでは、今月もみなさんの一首を読んで・詠んでいきましょう!

荒波に吸われる雪を掬い上げ大きく揺れる子の白き凧
(吉野佳子さん/大伴家持大賞応募作/テーマ「大」)


奈良時代の有名な万葉歌人・大伴家持(おおとものやかもち)の作品は、『万葉集』に収録されている歌の約1割をしめるそうです。家持は万葉集の編纂に関わったとされています。
家持は因幡国(鳥取県東部)の国守でした。そんな家持ゆかりの地である鳥取市が主催する「大伴家持大賞」では、毎年テーマを定めて短歌を募集しています。今回の場合は、短歌の中に「大」の字を必ず含む必要があります。

吉野さんの応募作の情景を思い浮かべてください。日本海でしょうか。冬の荒波に、雪がちらちらと降っています。その力強さと繊細さの対比。その雪を掬い上げるように揺れながらのぼる凧。糸を引き、凧を見つめる子の頬は、雪をものともせずに上気していることでしょう。

日常のワンシーンを描きながらも、さまざまな対比を取り入れることでドラマチックな短歌に仕上がっています。見事です!

ただ、非常に惜しいような気がするのは、この一首全体の構造が「凧」の説明に終始してしまっている点です。
「荒波に吸われる雪を掬い上げ大きく揺れる子の白き」までが「凧」の説明として収まってしまい、勢いや情感が薄れてしまっています。体言止めの短歌にはよく発生する問題です。
短歌新人賞に多い、複数の短歌をまとめて1作品とする「連作」という形式であれば、このような淡々とした説明構造の一首が入るのもメリハリのひとつになるかもしれません。けれども、一首単位で応募する公募では、どうしても弱さを感じてしまいます。

子があげる凧を見つめている「主体」は、凧を見つめ、何を思うのでしょうか?
存在感のある名歌は、人間である「主体」の視点や感情が奥深くに表れる作品が多い気がします。

荒波に吸われる雪を掬い上げ大きく揺れろ子の白き凧

どこを改作したか、わかるでしょうか? 「揺れる」の「る」「ろ」にしてみました。
「揺れる」を「揺れろ」にしたことで「主体」が「凧」に心から語りかける構造になりました。荒波や悪天候に挑むように飛ぶ凧に対して「雪を掬い上げて大きく揺れろ!」と「主体」は応援しています。困難に立ち向かう凧と自分を重ね、感情移入しているのかもしれません。そんな人間くさい「主体」の存在感が現れた一首になりました。

引き続き、一緒に「読む・詠む」短歌を募集中です。コンテストだけでなく、新聞歌壇、雑誌投稿、WEB投稿の短歌(投稿できなかった短歌)もお待ちしています!

 
■講師プロフィール
柴田 葵 1982年、神奈川県生まれ。元銀行員、現在はライター。「NHK短歌」や雑誌ダ・ヴィンチ「短歌ください」、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」への投稿を経て、育児クラスタ短歌サークル「いくらたん」、詩・俳句・短歌同人「Qai(クヮイ)」に参加。第6回現代短歌社賞候補。第2回石井僚一短歌賞次席「ぺらぺらなおでん」。第1回笹井宏之賞大賞「母の愛、僕のラブ」。
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