ヨルモの「小説の取扱説明書」~その22 セリフの役割~
公募ガイドのキャラクター・ヨルモが小説の書き方やコツをアドバイスします。ショートショートから長編小説まで、小説の執筆に必要な情報が満載の連載企画です。
第22回のテーマは、「セリフの役割」です。
セリフの3つの機能
フライタークの『作劇法』によれば、セリフの機能は以下の三つだと、柏田道夫著『シナリオの書き方』の中に書かれています。
1.事実を知らせる。
2.人物の心理、感情を表す。
3.ストーリーを展開させる。
セリフで事実を知らせる
今回は、セリフの名手と言われている、直木賞作家の黒川博行さんの著作を借りて、セリフの役割を説明します。
1.の「事実」とは、作品の設定や人物の外見といった情報です。それらを地の文で説明する代わりにセリフに書いて、それとなく伝えます。
「暑苦しい顔。髭ぐらい剃ったら」悠紀が麦茶をグラスに注いで机の上に置いた。
(黒川博行『疫病神』)
《二宮は髭面だった。暑苦しい顔をしていた。》と説明されるよりセリフで書いたほうが物語に入っていけ、自然に人物のことがわかってきます。
セリフで心理、感情を表す
2.の「人物の心理、感情」というのは、そのままですね。
以下は、『疫病神』の中で二宮がヤクザに拘束され、命からがら逃げてきたあとのシーンです。このとき、桑原は二宮を見捨てて逃げており、その少しあとに再会したとき、桑原は着替えて散髪までしていました。
「おまえのことが気になったんや」
「気にはなったけど、服を着替えて髭も剃った。本日はどちらの理容室でフェイスマッサージされたんです」
「ええ加減にさらせよ、こら。もひとつコブが増えるぞ」
(黒川博行『疫病神』)
二宮としては文句の一つも言いたい気分でしょうが、桑原はヤクザですし、歳も上ですから、気持ちを抑えめにしつつ慇懃無礼に振る舞っています。
セリフで展開させる
3.は、次なる展開に人物を導くセリフです。
以下は、ブルドーザーの運転手と二宮が話しているシーンです。
「うちの取引先に小畠総業いうのがあって、これが富田林で産廃業をしてる。こないだコンクリートガラを運んでいったときに、社長の小畠から、建設関係の相談事をできるとこはないやろかと訊かれたんやけど、いっぺん話を聞いてみいへんか」
「いいですね、お願いします」仕事になるかもしれない。
(黒川博行『疫病神』)
その後、二宮は小畠総業を訪ね、仕事を依頼されますが、そこからストーリーは大きく展開します。
「事実」「心理、感情」「展開」は地の文でも説明できますが、うまく使えばセリフでも伝えられ、余分な説明を排すことができます。
(ヨルモ)
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ヨルモって何者?
公募ガイドのキャラクターの黒ヤギくん。公募に応募していることを内緒にしている隠れ公募ファン。幼馴染に白ヤギのヒルモくんがいます。「小説の取扱書」を執筆しているのは、ヨルモのお父さんの先代ヨルモ。