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阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「移民センターの客人」瀬島純樹

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第61回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「移民センターの客人」瀬島純樹

この惑星の移民センターでは、異星人との接触は慣れていたが、ここを訪れる客人たちの姿は千差万別で、その意思疎通の方法、知性、感性は信じられないくらいバラエティーに富んでいた。

今回の客人たちもそうだった。

センターにやって来た異星人たちに、翻訳機を通して、担当者が名前をたずねると、それは何だと、逆に聞いて来た。

名前は自分を表わす言葉だと、説明すると、彼らは、そんなものはないという。

翻訳のシステムのミスかもしれないと、担当者が調べたが、特に問題は見当たらなかった。

つまり、彼等は名前を持っておらず、名前に類するものも、名前という概念すら持っていなかった。

「名前がないのは、初めてのケースだが、区別するためにも、名前がないというのは、なにかと、こまらんのだろうか」と所長がいった。

「彼らには、はじめから名前がないのですから、それで済むのではないでしょうか」と担当者がこたえた。

「しかし、あんなに大勢いるのに、誰にも名前がないとなると、何か、やりにくいとは思わんか」と不機嫌そうに所長が言った。

「確かに、そうです…」と担当者はあわててうなずいた。

「お互いに理解し合うためにも、名前がないと、気持ちがこもらんよ。名前があって個性も生きるし、お互いに愛情が込められる。それが、名前がないとなると……」と所長は眉間にシワを寄せた。

「とりあえず、我々の方で、彼らに名前を付けては、どうでしょうか」

「うん、そうだな、個体別に、識別ナンバーでも付けておくしかないか」

ところが、彼らはよく似ており、同じ制服を身に着け、その違いを見つけるのは困難を極め、作業はいっこうにはかどらずに時間ばかり経過した。

翌日、所長がしびれを切らして、怒鳴った。

「いつまで、エリア外のテントにとどめておくつもりだ。彼らからすれば、我々だってみんな同じ顔に見えるだろうよ。今までの経験を活かして、迅速にたのむよ」

担当者は、識別作業のほかに、そもそも、彼らが区別されることを、拒否していることを報告した。

「なにを嫌がるのだ、理由はなんだ」

「わかりません……」

「個体別に、さっさと任意の名前かナンバーを振り分ければいいだろう」

「それが、そうもいきません。彼らは人数も多いので、あまり、強引なことをすれば、騒ぎを起こしかねません」

所長は少し考えるようにしてから担当者にいった。

「名前のいいところを、教えてやればいいじゃないか。定住先が見つかるまで、この惑星でいっしょに生活するのだ。ここのルールに馴染んでおいた方が有利であることや、我々の文明の発展も、この名前のおかげであることを、教えてやればいい」

「わかりました、もう一度、なんとか交渉してみます」

翌日の朝早く、担当者が所長室に駆け込んできた。

「所長、昨日交渉したのですが、今朝早く、彼らが全員でやってきました」

「そうか、それでどうだった」

「彼らは自分で、名前を付けてきたのです」

「ほう、それは前進じゃないか」

「ところが、みんな同じ名前なのです」

「同じ名前って、ちゃんと説明したのか、名前の意味とか、その機能とか」

「……しました」

「ずいぶんと、厄介な客人だな、そうだ、ちょうどよかった。ついさっき、本部から、彼らの総合分析結果が届いたところだ。担当の君にも見てもらおう」というと、所長は机の上のディスプレイのメールに目を通した。すると、急に顔をあげて叫んだ。

「これは…」

「所長、どうされましたか」

「どの個体も、すべての分析項目で、同一なのだ」

担当者も急いで、メールを読んだ。

「ということは、何人いても一人、まるでクローンですね」

「そのクローンだよ、しかも解析では、戦闘用クローンとある……名前がないはずだ」というと、所長は緊急連絡網のスイッチを押した。

「テントを包囲して、全員戦闘配置につけ」

(了)