ほしのおどり
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ほしのおどり
鈴木アヤカ
ひつじかいのむすめ、エリはちいさなおんなのこです。
たくさんのしろいひつじたちが、ひろいそうげんでくさをたべているのをながめたり、だいどころにはいって、ママのりょうりのおてつだいをしたりするのがエリのしごとです。
おひさまがそうげんのむこうにしずみ、オレンジいろになると、とおくにいるパパがひつじたちをつれてかえってきます。
エリは、ゆうひをあびてかえってくるひつじをみるのがいちばんすきでした。
テントでごはんをたべたら、あたりはもうまっくら。エリはねるじかんです。
ひつじかいたちはよくはたらきます。ですから、おとなもこどももよるになれば、すぐにぐっすりねむってしまうのです。
(おひさまはどこにいるんだろう)
しずまりかえったテントで、エリはおもいました。
(おひさまがずっといてくださったら、ねむれなくてもかまわないのに)
エリはそっとテントのそとにでてみました。そらをみあげると、みかづきがしろいかおでちらりとこちらをみています。おつきさまはおひさまとちがって、くさをそだてたりしません。ひつじのせなかをオレンジいろにそめたりもしないのです。エリにはおつきさまがものたりませんでした。
「よるなんてまっくらでしずかなだけ。ちっともたのしくない!」
エリはねどこにもどり、めをとじました。
エリがねむると、みかづきはあわてておひさまのところへいきました。
「たいよう、たいよう。いますぐでてきてあたりをてらしてくれないか」
「なんだい、あおじろいかおをして。まだよるじゃないか」
みかづきにおこされたおひさまは、のんびりとめをこすりました。
「ひつじかいのむすめ、しっているだろう? きみにあいたくて、さびしがっているんだよ」
みかづきはエリのことをはなしました。
「なるほどねえ。きみはじぶんではなにもできないとおもっているのかい?」
おひさまはやさしくたずねました。
「ぼくはきみじゃないよ。でも、いっしょうけんめいやっている。よるのあいだはずうっとめをあけて、そらのばんをしているのさ。それなのに、しぜんとくらすひつじかいにきらわれるなんて、もうなにをやってもだめじゃないか」
すっかりしょげてしまったみかづきに、おひさまはわらっていいました。
「みかづき、わたしはしっている。きみのほんとうのかおをね。さあ、げんきをだして。きみにひつようなのはゆうきだよ」
みかづきはすこしかんがえるようにしたあと、ちらっとわらいました。そしてゆっくりともといたばしょにかえっていきました。
みかづきのうかぶ、ほしのよるのことでした。
ひつじかいたちがいくつもテントをはっています。みんなねしずまって、あかるいおひさまをまっていました。
エリがうとうとしていると、テントのむこうでだれかがよぶこえがします。ふしぎにおもってテントからでてみると、ひるまのようにあかるいほしぞらがひろがっています。
おどろいてみあげると、みかづきがおりてきました。そしてにっこりとわらうと、まんまるおつきさまになったのです。
エリはうれしくなってわらいました。ほかのほしたちもそらからおりてきました。
やがて、かわいらしいてんしのおんなのこがゆっくりとおりてきて、おどりをおどりはじめました。
エリはおほしさまといっしょにおどりました。
そらからはうつくしいおんがくがきこえてきます。ひつじかいたちもテントからでてきました。
そうしてみんなでおどりました。
ゆうべのあのできごとはいったいなんだったのでしょう? パパにきくと、てんしはかみさまのつかいだから、ちじょうで、なにかいいことがあったのにちがいない。もしかすると、とうといおかたがおうまれになったのかもしれないね、といいました。
エリはすこしがっかりしました。たしかにゆうべはたのしかったのだけれど、めったにないおまつりのようなものだったとわかったからです。
そのばん、エリはそうっとテントのそとをみてみました。ようきなほしたちやてんしはいません。けれども、あたりはひるまのようにあかるくてらされています。
エリがそとにでてみると、まるいおつきさまがそらにいました。おつきさまはきいろいかおをしてそうげんをてらし、ねむっているひつじとにんげんたちをいとおしそうにみつめていました。
エリはおつきさまのほんとうのかおをみたようなきがしました。
そうして、エリはやさしいおつきさまのいるよるをこころからすきになったということです。