ハレタンのおまじない
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おまじない
つきあかり
ハレタンとハレタンのママは、しんじゅくにいくために、とっきゅうでんしゃにのりました。いつもあさ、おでかけするときはもっとはやくえきにきて、かくえきというでんしゃにのるのですが、きょうはおうちをでるときに、パパがたのんだにもつがとどいて、おうちをでるのがおそくなっちゃったのです。
「よる、とどくようにすればよかったのに」
ママはパパのことをおこっているみたいでした。おくちのはしっこがわらっていませんでしたし、にもつをおくときも、ドン!ドン!とおとをたてたのです。
ハレタンとママがえきについたとき、とっきゅうがとまっていました。
「かくえきではまにあわないから、あのでんしゃにのるよ。いそいで!」
ふたりはとっきゅうにとびのりました。
「のれたー。よかったね、ママ」
ハレタンはママをみあげましたが、ママはめをつぶってなにもこたえてくれません。ママはおこっているんだ……とおもいました。
おうちをでるのがおくれたのは、パパのにもつがとどいたせいだけではありませんでした。でかけるとき、ハレタンはおトイレにいきたくなったのでした。ママがこわいかおだったから、ハレタンはママにいおうかまよったけれど、「おしっこでたい」と、ゆうきをだしていいました。
ママはやっぱりこわいかおとこえで、がまんできないの?と、いいました。
「うん、いそいでトイレしてくるから、いってもいい?」
そういってママのかおをみないで、トイレにいき、そのあと、てをあらっていたら、ママは「ゆっくりしてないで、はやくしなさい!」と、さけぶようにいいました。
ハレタンは、ママがこわくて、「おそくなってごめんね」もいわないまま、ママのあとについてはしってえきまできたのでした。
とっきゅうのなかで、ママはめをつぶったままです。
でんしゃのなかはひとでいっぱいです。おじさん、おばさん、おにいちゃんやおねえちゃんがたくさんたっていて、すわるところはありません。
でんしゃのなかはいろんなひとのいろんなニオイもしました。
「いつもとちがうなー」
いつもはすわって、そとのおみせやおうちをみていると、すぐにとまって、おきゃくさんがおりたりのったりしたら、またはしりだして、またすぐとまって、おんなじふうになんかいもするんだけど、とっきゅうはすぐにとまらないんだね。もうのってからじかんたっているよね……。
ハレタンはこころのなかでおもって、ママのかおをもういっかいみあげると、ママはめをつぶったまま、いきがハーッて、いつもとちがいます。ハレタンとつないでいるても、あせをかいてすこしふるえているみたい。
ハレタンにはママがおこっているんじゃないとわかりました。でも、おはなしはしないようにしようとおもいました。かわりに、にぎっているてに、「ママだいじょうぶだよ。ハレタンがまもってあげる」と、おまじないをしました。
すこししたらでんしゃがとまって、おきゃくさんがおりたりのったりしています。ハレタンはママをみました。フーッといきをはいてめをつぶっているけど、さっきよりすこしやさしいかおになりました。
「よかったママ、だいじょうぶ、だいじょうぶ」
そうやってなんかいもおまじないをしました。
でんしゃがしんじゅくにとうちゃく。ハレタンたちはでんしゃをおりました。ママのかおはいつものやさしいママのかおになっていました。
ママは「ハレタンはでんしゃのなかで、だまっていたよね。なのに、ママにはハレタンのこえがきこえたよ、『ママ、だいじょうぶだよ』って」
ハレタンはにっこりしました。
「ママ、わかったの? おまじないをかけていたんだよ」
ママはあるきながらハレタンをみて、にっこりとしました。
それからめになみだをいっぱいためて、
「ハレタン、ありがとう。ママ、たすかったよ」と、いいました。
ハレタンは、「ママ、おトイレでおそくなっていつもとちがうでんしゃになってごめんね」と、いいました。
ママは、だれもすわっていないいすのあるところにいって、「すこしだけ、やすんでいこう」といいました。
「じかんだいじょうぶ?」
「だいじょうぶよ。しんぱいかけて、ごめんね」
ママはそういうと、でんしゃのなかでずっとおこったようなかおをしていたわけをはなしてくれました。
「ママね、こんでるでんしゃがにがてで、ちょうしがわるくなるときがあるんだ。それで、いつもいえをはやくでて、かくえきにのるんだけど、きょうはむりしてとっきゅうにのったでしょ。だから、ふあんでしかたなかったの」
ハレタンは、そういうことだったのかとおもいました。
「でもね、ハレタンの『だいじょうぶだよ』がきこえて、こころづよかったよ。ありがとうハレタン」
ハレタンは「とっきゅうにのるときは、いつもぼくがいっしょにいるからね」と、ママのてをとってまたにっこりとわらいました。