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阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作「予告遊び」島本貴広

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第55回 阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作「予告遊び」島本貴広

秋川、柿本、浜田、松井は中学時代からの友人で、社会人となっても四人で釣りなどのレジャーを楽しんだり、飲屋街をはしごしたりして遊ぶほどの仲だった。

ある日、いつも通り四人で地元のバーで飲んでいると秋川が突然、懐から一通のはがきを取り出した。

「ん、なんだこれ」と松井。

「いろいろよく見てみろよ」

言われるままハガキの裏面を見てみると、その中身は訃報連絡だった。故人名を見てみると秋川基嗣とある。秋川が死んだことになっていた。

「うわ、なんだこりゃ」

松井はそのハガキが気味悪くなり思わず放り投げた。

「わけわからんだろ?」

「誰だよ、こんないたずらはがき書いた奴は」

「わからんね。差出人は俺の奥さんになっているけど、当然出すわけがないし」

「しかも、葬式の日付の平成×年二月九日って、まだ先じゃないか」

松井が放り投げたはがきを手に取った浜田が書かれた日付を指差す。確かによくみるとまだ半年も先の日付であった。

「その直前に俺が死ぬってことだろ? まだピンピンしているのに腹立つよな」

秋川はまるで自分とは無関係だというようにげらげらと笑っていたが、はがきが届いた半年後、一月の下旬に交通事故で亡くなった。

葬儀場の喫煙所で松井ら三人がたばこをふかしていると柿本がふと独り言を漏らした。

「あのはがきの通りになったな」

「ばか言うな」

聞き逃さなかった松井は失笑する。

「でも、今日は二月九日だぞ」

「たまたまだ」

「実はさ、俺にも届いているんだ」

「おい、まさか」

柿本が懐から出したのは秋川の時とおなじはがきだった。見るとやはり故人名には柿本弘とあった。葬式を行ったとする日時は八月となっていた。

「俺も死ぬってことかなあ」

「まさか、冗談だろ」

「でもよお、最近からだの調子も悪いしさあ」

「大丈夫だって」

二人のやり取りを傍目に浜田がはがきをしげしげと眺めていた。

「まったく冗談きついいたずらだ」

冗談が冗談でなくなったのはその年の夏。はがきに書いてあった通りの時期に、柿本は亡くなった。心臓発作による突然死だった。

秋川と同じ葬儀場で柿本の葬式が行われた。参列を終えたあとに自販機で購入したジュースを飲んでいる最中、心なしか浜田の顔が青ざめているように感じられた。

「おい、浜田、顔が青いぞ」

「え、ああ、そうか?」

乾いた笑いが浜田から漏れる。松井は嫌な予感がして、浜田に詰め寄った。

「おい、まさかお前にも」

「そのまさかだよ」

浜田も同じようにはがきが届いていた。

二月十日に死没と書いてあった。そのはがきは破られており、セロハンテープでいまいちどつなぎ直されていた。

「もう笑うしかない」

「まだ諦めんなって」

それ以上、浜田はなにも応えなかった。

浜田が亡くなったのはハガキに書いてあったとおりの日だった。自殺だったらしい。ドアノブからたらしたロープに首をかけ縊死したとのことだった。遺書は見つかっていなかった。

四人のうち三人が死亡し、残すは松井のみとなったが、その松井にもついにはがきが届いてしまった。死亡する日は、浜田の死からきっちり半年後であった。自分はどのような死に方なのか。ほんとうに死ぬのか。仮にそれまでに何をしておけばいいのか。あれこれと考えているうちに、時間だけが過ぎていきとうとうろくなことも出来ぬまま、松井も死を迎えた。熱射病による急死だった。

松井がふたたび気がついたときはあの世であった。目の前には神がいる。松井は神に問いかけた。

「神様、なぜ私たちに死を予告するような真似をしたのですか」

神は答えた。

「死を予告された人間がどういう行動をとるか見たかったけど、たいしたことしなかったおまえたちはまったくおもしろくなかった」