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横溝正史ミステリ&ホラー大賞

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

横溝正史ミステリ&ホラー大賞

今回から複数回、横溝正史ミステリ&ホラー大賞について論じる。

締切は九月末。応募規定枚数は、A4の白紙に四十字×四十行で印字し、五十枚以上百七十五枚以内。

第三十六回の受賞作『虹を待つ彼女』(逸木裕)は、ミステリー系の新人賞を狙うアマチュアには必読。

『虹』は、駄作が続いた近年のミステリー系新人賞受賞作の中では傑作の部類に属するが、アマチュアが模倣すべき部分と、模倣してはNGな部分とが混在している。

後者部分を「これで良いのだ」と誤解して応募作を書くと、とんでもない落とし穴に嵌まる。

まず、冒頭は、ヒロインの水科晴が渋谷のスクランブル交差点を見下ろすビルの屋上に四機のドローンを手にして現れる場面から始まる。

渋谷のスクランブル交差点が駄目ならドローンも駄目。これは、応募落選作には山ほどある。普通なら、この冒頭で落とされる。ところが、『虹』は見せ方が非常に巧い。

晴は、ドローンを使って衝撃的な自殺を敢行しようとしている(つまり、この手は二度と使えない)。

次に画面は切り替わり、学校で虐められっ子で引きこもりになり、ゲーム漬けになった田島淳也が二番目の主人公になる。

学校での虐め場面は、要らない。書き古されていてオリジナリティがゼロ。引きこもりになるまでの経緯の二ページはどうでも良い。

田島は、晴が作成したゲームの熱烈なファンで、渋谷が舞台でゾンビが跳梁跋扈しているのをドローン搭載の機銃で射殺していくゲームに取り組んでいる。

これまではゲームだったが、この日に限ってゲーム内のドローンは晴が用意した現実のドローンに連動していた。田島は、そうと知らずに、ドローン搭載の銃で晴を射殺する自殺幇助をさせられる。

この冒頭は出色だろう。二番煎じが絶対に使えないアイディアなので新人賞を狙うアマチュアは模倣したら駄目である。

模倣すべきは、①冒頭で、いきなりヒロインが死ぬ②それきり殺人事件は出てこない――の二点である。

ミステリーを大量に読んでいる選考委員は、殺人事件には食傷している。殺人事件が起きないだけで、選考委員にとっては充分な目新しさになる。

物語は、そこから一気に六年ジャンプし、二〇二〇年になって真の主人公の工藤賢が登場し、以降は基本的に工藤の単独視点で進行する(数カ所に晴の恋人の雨の回顧談が一つの謎の提起として挿入されるが)。

工藤はAIに囲碁を打たせてプロ棋士と対抗させるソフトの開発者である。これも大流行の分野で、もしこれが『虹』のメイン・テーマだったら、一次選考は突破しても二次選考で落とされただろう。時事ネタだからである。

マスコミで派手に取り上げられた素材は全て新人賞応募落選作に大量にある。新人賞は応募者の創造力・想像力を見るものだが、時事ネタを材料にしただけで選考委員は「この応募者は創造力・想像力が貧困」と見なして選考時の減点対象にする。マスコミで取り上げられない素材を出すのが応募作を書く場合の基本。

工藤が取り組むのは、人工知能に故人を再現させることで、工藤が選ぶのが冒頭で自殺を遂げた晴。

既に死んでいる人間がヒロインになる作品は記憶にない。非常に目新しい。しかも晴は極めて孤独で寡黙な人間で、写真も数枚しか残っていないし、声も分からない。

これでは人工知能という形で晴を復活させることは不可能。そこで、工藤が何とかして人工知能化するのに必要な情報を得るべく、四苦八苦悪戦苦闘して晴の過去を探っていく――この過程が『虹』のミステリーの根幹部分である。

そうすると「晴の過去を探るな。探ろうとすれば殺す」という脅迫が始まる。ここで工藤が開発した囲碁ソフトというサイド・ストーリーが巧妙に絡んで来る。

工藤のソフトに負けたくないプロ棋士の目黒が、「敵の弱点を知る」目的で工藤の身辺を私立探偵に探らせる。これに工藤はミス・ディレクトされて、真の脅迫者の正体を見誤まる。工藤を憎悪し、殺そうと企んでいるのは、晴の恋人だった雨なのである。

ここで作者の逸木は、小説作法的にやっては駄目な間違いを犯している。やや軽率な行動をすることで、雨の襲撃を許し、危うく殺されかねない状況に陥る。

これはNG。主人公は徹頭徹尾、ノーミスで行動し、それでも、なおかつ敵の罠に嵌まるような書き方をしなければならない。

犯人の雨のほうも些細なミスで、もうちょいとで工藤を殺せるところで、取り逃がす。

どっちのミスも些細だから、グランプリ受賞の瑕疵にまでなっていないが、こういう「ミスでピンチを演出する」ことをやると、プロ作家になって締切に追われた時に、ついつい安直に、主人公のミスでピンチの場面を作る。そうしたら、すぐさまファンに見放されて文壇から消えることになる。

過去、そういう間違いを犯して文壇から消えた作家を何人も知っている。そうなったら、再デビューのために、また別の新人賞を狙わなければならなくなる。

こういう観点で分析しつつ『虹』を読んで見てほしい。

 

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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。