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阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作「カボチャの馬車と舞踏会」香久山ゆみ

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第40回 阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作「カボチャの馬車と舞踏会」香久山ゆみ

「あーあ、カボチャの馬車で迎えに来てもらいたいわぁ」

平凡な日々からの逃避的妄想がつい口をついて出てもうて。ちゃぶ台を挟んで無心に食べてた手ぇがピタッと止まって、顔を上げる。

「は? なにがカボチャの馬車や。カボチャみたいな顔して」

「うっさい。誰がカボちゃんやねん。おたんこなす!」

「誰がナスビの懸賞生活じゃ。お前なんか誰がカボチャの馬車で迎えに来てくれるかいな。せいぜい、このキュウリの漬物やな」

ヤスが小皿の漬物をつまむ。小憎たらしい。

「別にぃ。うちもあんたに迎えに来てもらいたい言うてないし。お・う・じ・さ・ま、に迎えに来てもらうんやし」

「ぶひゃ。おうじさまぁ?」

「ええやろ、カボチャの馬車と、ドレスで舞踏会。乙女の夢やん」

「あほか。大体な、考えが甘いわ。誰かに迎えに来てもらうなんて。ほんまに行きたいなら自分から行かな」

そんな風に、いつもふざけて喧嘩ばっかりして。おかげで、ナスやキュウリ見るたび、あんたのこと思い出す。でも、そうやって本音でぶつかり合えんの、あんただけやし。

高台に建つ古くて小ちゃなアパート。うちとヤスの城。窓からは裏の児童公園を見下ろせる。でも、盆踊りの時期はかなわん。ドンドンドンと、大音量の河内音頭がめちゃうるさい。窓締め切っても聞こえてくるし、テレビの音は聞こえへんし、喋るんも近うで大声出さんと聞こえん。ほんまかなわん、ってぶうぶう文句言ってたら、ヤスが言った。

「ほんなら、敵陣の懐に入ってまうか。踊りに行くか」

「えー、いやや。恥ずかしい。それに……」

「それに? なんや、聞こえへん」

「だって、ヤス前に言うたやん」

「なにを?」

「盆踊りの中、おばけがおるって」

見下ろす公園の盆踊り。櫓を囲むように老若男女がくるくるひらひら踊ってる。浴衣の人、Tシャツの人、いろんな人。中には出店で買ったお面をつけた人もおる。ぞっ、とする。だって。ヤスが言うたんやん。

「いや、おばけとか言うてないし。おばけやのうて、ご先祖様やて」

盆踊りは、お盆に帰ってきた先祖の霊を供養するためのお祭りやから。たまに踊っているもんの中に、そういう霊が混じっていたりする。そう、ヤスが言った。

「あほやな。そんなん信じとんのか。行こうや。お前の好きな舞踏会や」

「どこが。ぜんぜん舞踏会ちゃうし。舞踏会はキラキラしたドレスでダンスするんやし」

ほな見てみい。ヤスが押入れを開ける。じゃーん、って。

浴衣。

白地に紫の朝顔。ピンクの差し色。かわいらしい浴衣。

「……なにこれ」

「王子様からドレスのプレゼントや」

「誰が王子様やねん」

一応つっこんだけど、ものごっつう嬉しいて。ヤス大好きや。そのまま燃え上がってもうて。結局、その年の盆踊りには行かれへんかった。

また来年。これ着ていっしょに盆踊り行こうな。

そう約束した時には、すっかりおばけの話なんか忘れてた。

せやのに。

今年は、うち一人で盆踊りに行く。あの浴衣着て。

ドンドンドン、裏の公園から河内音頭が響く。うるさいから、あんたの声も聞こえへん。でも、このうるさいのもこれで最後。この夏が終わったら、このアパートも引払うから。

うちらにカボチャの馬車は似合えへん。ほんまやね。

一昨日の晩、あんたのための小ちゃな祭壇に、キュウリで作った馬を供えた。キュウリの馬車で迎えに来てくれるって言うたやろ。なのになんで来てくれへんの。いけず。

「誰が迎えに行くか」って。ヤスならそう言いそうやわ。もう俺のことはいいからしっかり生きろ、って。

でも、会いたいんよ。

「ほんまに行きたいなら自分から行かな」

そういえば、そう言うてた。だから、もしかしたら。うちが行くの待ってる?

別に後追いしたいわけやないよ。いや追いかけて一緒にいたいけど。でも、あんたが惚れたうちやから、ちゃんと生きるよ。

でも、もう一遍、会いたい。怖がったりせえへんから。最後に、もう一遍だけ。

盆踊り行ったら会える? ドンドンドン。太鼓の音、うるさくてよかった。泣き声、消