阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「大発見」水無月さやか
「これが今回の調査で発見されたものたちだ。諸君、一生懸命研究に取り組んでくれたまえ」
博士はガラクタのようなものを一つずつ丁寧に机の上に並べた。それを囲む学者たちは興味深そうに覗きこむ。
ここは、とある研究室だった。宇宙に漂う物質を集め、かつて存在していたという惑星「地球」の生態を調査することが目的なのだ。
「これは一体何に使うのだろう」
一人の学者があるものを持ち上げて言った。
それは茶色い木の板でできている楕円形のボードだった。周囲には一センチほどの高さの縁が巡らされている。そしてその縁の上部の左右の部分だけが薄っぺらく広がり、わずかに楕円の形から特出していた。
「本当だ、これは何だろう」
「何に使うのかな」
学者たちはたちまちそれに関心を示し,その用途を考え始めた。
「大きなスープ皿じゃないかしら」
「それにしては深さが無さすぎるよ」
「結構丈夫にできているな。表面がコーティングされている硬い木材だ」
「盾でしょうか」
「盾にしてはさすがにちょっと弱いのじゃないかなあ」
「地球の武器の性能が悪かったって可能性もあるぞ。それか平和主義の民族で、盾なんて飾りみたいなものだったとか」
いくら今まで地球について研究してきた学者たちと言えども、このシンプルで何の実用性もなさそうな道具にはすっかりお手上げ状態だった。
「よしっ、あれを使ってみよう」
博士はそう言って、その奇妙な物体をある機械の中に入れた。
「これは特殊な電波を出して、その物に継ぎ足されたものや、すり減っているところを調べるための機械だ。何か手がかりになるかもしれない」
少しして、画面に画像が写し出された。その物体をあらゆる角度から解析した結果だ。
「おや、淵の内側に、わずかだが、かすかにへこんでいる形跡があるようだね」
それは、丸い形だった。細い輪っかのような形で、ところどころスタンプを押すようにポンポンとへこんでいる。
「うーん、きっと、この上に何かを置いていたに違いない」
それは一体何だろうとみんなで頭をひねると、ある学者がさっと手を挙げた。
「わかった、これ、きっと茶碗です。この小さいのがコップ。僕、この前、地球の食器について研究しましたから、間違えませんよ」
「おおっ、これはすごい発見だ」
学者たちは新たな手がかりに盛り上がった。
しかし、間もなくしてまたううんと呻き声をあげる。
「だが、ますますわからなくなってしまったぞ。これは一体何なんだ」
「食事の時に、ランチョンマットのようにして使うんじゃないでしょうか」
「それにしては茶碗の跡が三つあるよ。大きさからみると、お父さんと、お母さんと、子どもの食器といったふうなんだけどなあ」
「えっ、何だって」
博士は大きな声をあげた。
「自分のぶんだけでなく、奥さんと子どものぶんの食器までのせて、一体何をしようとしていたんだろう」
皆はすっかり考えこんでしまった。
すると、静寂を破って、一番若い学者がおずおずと発言した。
「あ、あのう」
「何だね。言ってみなさい」
「あのう、全然、ありえないかもしれないんですが……」
「かまわないよ。言ってごらん」
その若者は思い切って息を吸った。
「あのう、地球人は、ご飯の時にこれで食器を運んでいたのではないかと思うのです」
そんなわけがあるか、と誰かが言った。
「なんでわざわざこんなもので運ばなくてはいけないんだ。手で持てばいいだろう」
「ええ、だからですね、つまり、地球人は、その、あのう、手が二本しかない生き物だったのではないでしょうか」
一同はあっと息をのんだ。
「確かに突拍子もない話だが、そう考えると辻褄があう。地球人は、上の腕二本を穴から出して服を着ていたのかと思ったが、元々二本しかなかったのか」
「君、君。もちろん検証が必要だが、これはひょっとしたら、研究を根底からくつがえすすごい発見になるかもしれないよ……」
タコから進化した八つ足の研究者たちは、大盛り上がりであれやこれやと話し合いを続けたのだった。