阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「お盆の蠅」齋藤路恵
一
丸い盆の淵に水たまりができている。水たまりの淵には一匹の小さな蠅がいる。
蠅は水を飲もうとしている。頭を盆に近づける。あっ!
蠅が水に落ちた。
→蠅をつまみ上げる 五へ
→そのまま見ている, 六へ
二
蠅の動きがゆっくりになってきた。蠅の震え方も弱くなってきている気がする。
いよいよ死が近いのかもしれない。
→蠅をつまもうとする 一二へ
→そのまま様子を見ている 八へ
三
こよりをたらすと、蠅は最初は少しずつよたよたと登ってきた。それから少し足取りがしっかりし、それでもよちよちと登ってきた。しばらくこよりにとまっていたが、やがてこよりを登り切って、私の手に移った。
私は蠅にそっと触れようとした。途端に蠅は飛び立っていった。私は少し微笑んだ
私は気まぐれに一匹の虫の命を救った。そこにはたぶん理由はない。 終り
四
私は蠅をごみ箱に捨てた。命はあっけないものだ。私はごみ箱をそっと拝んだ。この蠅のために、このごみ箱を拝むことはもうないだろう。私は自分の開き直りに、苦笑いをした。 終り
五
蠅をつまみ上げようとするが、難しい。小さすぎてつぶしてしまいそうになるのだ。気のせいか蠅は手の中でぶるぶると震えている。
→もう一度つかもうとする 九へ
→少し様子を見ている 二へ
六
蠅はバタバタと手足を動かしている。ほとんどおぼれているように見える。
→蠅をつまみ上げる 五へ
→もう少し様子を見る 二へ
七
蠅はおぼれて死んでしまった。私が殺したのだ。なんで殺してしまったのだろうか。自分でもわからない。
ああ、でもこんなことを何度も繰り返しているような気がする。ある時は善意が仇になり、ある時は気まぐれに見捨て、私は何度も蠅を殺してきたのではないか。
→蠅をごみ箱へ捨てる 四へ
→蠅を埋葬する 一○へ
八
ふっとアイディアが浮かんだ。こよりをたらしてはどうだろうか。私がつかむのではなく、蠅に自分自身の力で登ってもらうのだ。
こよりをたらす 三へ
そのまま見ている 七へ
九
やはりなかなかつかめない。蠅をじっと見つめているとその動きがすべて無駄な努力にに見えて、哀れなような滑稽なような気がしてくる。
→思い切って少し力を入れてみる 一二へ
→少し様子を見ている 二へ
一○
私はティッシュでくるんだ蠅を庭に埋めた。
たぶん、ここが墓だとはすぐに忘れてしまうだろう。それが正しいのかな。死んだ蠅のことはすぐに忘れて生きていく、人間て、すごいよなぁ。
私は手を合わせた後、そっと土を盛り足した。
その後は、親戚の宴会だった。私は笑ってビールを飲んだ。きっと私は忘れてしまうだろう。蠅のことも、ビールのことも、今日のことも。 終り
一一
同じようなことを繰り返している気がする。夏の暑さもお盆の丸さも畳の香りもすべてが何度もあった過去のような気がしてくる。
一二
手の中でつぶれた感触があった。手にさらさらする感触が残っている。それは蠅の体液だったのか、盆の中の水だったのかはわからない。私はわざとゆっくり手の中で蠅を握った。この蠅はどうしようか。
→ごみ箱へ捨てる 四へ
→蠅を埋葬する 一○へ