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刑事ドラマの警察考証間違い2

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

刑事ドラマの警察考証間違い2

今回は前回に引き続き、警察考証に関しての注意点を述べる。

警察官や刑事を主人公にしたT Vドラマは多いが、こと警察考証に関しては玉石混淆(石のほうが多い)なので、基礎知識を持たないで見ていると、どうしても間違いのほうに洗脳されてしまう。

最も多い警察考証間違いは、死体が発見されて、一一〇番通報され、刑事や鑑識員が臨場した際の、現場検証の手順である。

刑事ドラマでよく見かける、真っ先に刑事が現場に足を踏み入れて、あちこち引っ掻き回し、「ここ、写真」とか、遺留品を勝手に抓み上げて「重要な証拠だ、しっかり鑑定しておけ」などと、鑑識課員に対して偉そうに命令するシーンは、実際には、あり得ない。事件現場の検証に最初に入るのは刑事ではなく、現場の観察や証拠品の収集を行う鑑識係である。

さらに鑑識の中にも順番があり、 一番は足痕係である。足痕は隠語で「ゲソコン」と言う。足痕は地面の履物痕のほか、床や畳、絨毯からも、今では採取が可能である。 これらから、侵入口、侵入方法、犯人の人数、物色場所、逃走口、逃走経路などが明らかになり、後に続く鑑識作業の指針になる。

また、裸足の足痕の隆線は、指紋と同じく個人識別が可能で、歩幅や足跡の大きさ、深さなどから、身長や体重、身体的特徴なども分かる。小柄な犯人が、自分のものよりも大きい靴を履いて体格を誤魔化そうとしても、分かる。

足痕係の次が写真係で、発見時の様子を正確に記録しておくことは、後々の検証や起訴、裁判においても重要な記録となる。その後で指紋係が現場に入り、遺留指紋を採取する。

こういう手順なので、刑事がこっそり事件現場から証拠品を持ち 帰ったり、逆に誰かに嫌疑を掛けるために、その誰かの所持品を紛れ込ませるような偽装工作は不可能である(だが、この手のインチ キ刑事ドラマは意外に多い)。

では、鑑識員なら偽装工作が可能かというと、鑑識はチームで一斉に行動しているので、実際問題としてできない。

これは平成八年から平成十七年まで、二時間ミステリー・ドラマ の『火曜サスペンス』で全十九回 に亘って日本テレビ系列で放映された『警視庁鑑識班』が最も正確に再現しているので、これを見ると良い。CATVで頻繁に再放送しているし、DVDも出ている。

さて、指紋係が指紋を採取するのは平坦な場所ばかりではなく、 狭い隙間に潜り込んでの作業や、 時にはロープで身体を吊り下げて、 外壁に残された指紋を採取することもある。

これは、犯人の侵入口や逃走経路が建物の外壁を伝っている場合。

最近の刑事ドラマでは犯人の遺留指紋と、警察庁に保管されている、犯罪前歴者指紋をコンピュータ上で照合して、一発で結果が出るものが多いが、現実には、そうはいかない。

今は「事件現場に指紋を残したらアウト」という常識は、どれほど馬鹿な犯人でも知っている。

したがって事件現場に残っているのは「犯人がうっかり触れた」 部分指紋だけである。部分指紋の照合はコンピュータでは無理で、 大雑把に同系統の指紋を集めた後はベテランの指紋係が肉眼で照合して、特徴が一致する箇所が何箇所あるのか、で判定する。

つまり、刑事ドラマのように一 致か不一致か、ではなく「どちらとも言えない」グレー・ゾーンが存在する。新人とベテラン鑑識員で「指紋一致・不一致」の判断が割れる事例も、稀には有り得る。

警視庁管内で起きた事件で真っ先に経験の浅い刑事が臨場して、 見るからに経験の浅い鑑識員に自他殺か事故死かの判断を仰いで、 軽率に、「これは自殺」「これは事故」などと決めつけて事件の幕引きを図り、実は、そうではなかった、と分かって捜査が混迷するのも、不出来な刑事ドラマの定番だが、これもNG。

自他殺か事故死かの判断を下すのは警視の階級にあるベテラン検視官で、警視庁には十三人いる(その内の四人は多摩地区の担当)。

検視官は鑑識課の所属なので足痕係や写真係、指紋係と一緒に臨場してきて、的確に判断を下す。

刑事が鑑識員を見下して軽蔑的な発言をしたり、顎で扱き使ったりする刑事ドラマも定番だが、そもそも刑事が鑑識員になったり、 鑑識員が刑事になったりする異動事例は現実には、いくらでも存在する。鑑識課長が捜査一課長つまり刑事のトップの座に就く人事異動さえも決して珍しくない。

前記のような「好い加減な刑事ドラマ」は、警察の人事異動の研究を怠っている不勉強な脚本家が手掛けたものである。

毎年、春先には、必ず新聞に警察の人事異動が発表される。

どの役職の人が、どの役職に異 動したのかをスクラップすれば、 おおよそ、どういった部署からどういう部署に異動するかを把握することが可能だから、刑事ドラマを正しく書きたい人は怠ってはいけない。

図書館に行けば容易に過去の新聞も読むことができる。また、警察庁長官や、警視総監クラスの幹 部キャリア警察官は頻繁に全国各 地を異動することが『ウィキペディア』に載っているので、それを知れば、キャリアが長期間に亘って一つの重要なポジションに居座っているような出鱈目な警察小説は書くことができなくなる。

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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。