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日本ホラー小説大賞

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作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

よく当講座の読者から貰う質問が、何かの新人賞受賞作を名指しで「どうしてこの作品が受賞したのか、さっぱり理解できない。全く面白くない」というものである。


そういう質問者は「新人賞は面白い作品に授賞されるもの」という誤解をしている。


新人賞の選考基準は「面白いか否か」にはない。新人賞の選考基準は「応募者が創造力・想像力に優れているか(前例のない新奇のアイディアを思いつけるか)」と「他の応募作を圧倒する豊富な知識を持っているか」にある。いくら面白くても、既存作のアイディアを切り貼りして寄せ集めたような作品は落とされる。主催する編集部が、その手の物語が売れているという理由で二番煎じ、三番煎じの書き手を求めている場合は話が別だが。


十一月末締切の日本ホラー小説大賞は、前記の二項目のうちの前者にウェートが置かれている賞である。とにかく面白さ以前に新奇の、時には奇妙奇天烈とも言えるアイディアの作品を求めている


結果として、奇妙奇天烈なだけで面白くも何ともない(一般読者にとっては)作品に授賞されることが、まま起きる。しかし、選考委員の感覚からしてみれば、小説は書けば書くほど上達していくものであるから、受賞作は珍奇なだけで面白くなくとも、デビューして書き込んでいるうちに、いずれ面白い作品が書けるようになるだろう、という期待値を持って授賞する。その期待は、半分以上は外れて受賞者は文壇から消えるのだが、どの新人賞にしても、大差はない。受賞者の半数が生き残っている新人賞は歩留まりが良いほうで、中には九割以上が文壇から跡形もなく消えている新人賞も珍しくない。


さて、応募者の立場に立ってみると、この「前例のない新奇のアイディア」が極めて難しい。既に存在するものを探すのは容易だが、未だ存在していないものを探すのは発明発見の歴史を紐解いてみればわかるように、極めて難しい。そこで発想力に自信のない人、実際に発想力が貧困な人は「そんなの、いくら必死に考えても思いつけません」となる。


そういう人は「選考委員は決して神様ではない」という当たり前の事実を見逃している。神様でない以上、既存作の全部に目を通しているわけではない。選考委員が未読の作品のアイディアを切り貼りして寄せ集めた作品は「新奇のアイディア」と見なされるのだ。


時たま、漫画の作品をパクった作品が新人賞を受賞し、後になって発覚して授賞が取り消される事例が起きるのは、選考委員の目が漫画にまでは行き届いていない実例である。


前回、キャラ設定の参考にできそうな海外テレビドラマを取り上げたが、選考委員の目が海外作品にまで行き届いていない可能性は、かなりの確率で、ある。だから、発想力に自信のない人は「下手の考え、休むに似たり」とも言われるくらいであるから、漫画や海外ドラマのアイディアを、思い切って切り貼りしてみる。これは道義的にはともかく、著作権の侵害には該当しない。授賞が取り消されるのは、切り貼りではなく、そっくり丸写しした場合である。切り貼りでも、台詞の丸写しは不可。これも盗作に該当する。


巧妙に切り貼りした作品は、実行した当人は自覚していても、第三者が比べ読みした場合には、とても他からアイディアを借用したとは思えないほど別の作品になっている事例が大半を占める。しかも、こういう切り貼りは、プロ作家になって以降、文壇で生き残るには必須の技術なのだ。アイディアというものは、無限に湧き出るわけではないからだ。


第十六回の受賞作『化身』(宮ノ川顕)は『ロビンソン・クルーソー』とカフカ『変身』のアイディアを切り貼りした作品。しかし、風景描写と主人公の心理描写が実に巧い。


『化身』と『ロビンソン・クルーソー』『変身』を読み比べてみれば「そうか、こんな具合に既存作のアイディアを合体させれば評価されるのか」と感覚的に理解できるだろう。


選評で『変身』との類似性が指摘されているにも拘わらず受賞しているのだから、巧みに既存作のアイディアを切り貼りして、ヴァージョン・アップさせれば新人賞に届く。


同じ回の長編賞受賞作『嘘神』(三田村志郎)は、感心しなかった。正直、なぜ受賞したのか分からなかった。『極限推理コロシアム』でメフィスト賞を受賞した矢野龍王の作品に似すぎている。『バトル・ロワイアル』(高見広春)にも似ている。切り貼りして、糊付けが巧くできずに滅茶苦茶になった感じ。選考委員が、この手の小説を読んだことがなかったとしか考えられない。つまり、選考委員の未読作品のアイディアを貼り合わせられれば、けっこうなビッグ・タイトルの新人賞にも手が届く、という好例と言えそうだ。


しかし、一般読者にはバレる。誰かが間違いなく読んでいるのだから、アイディアの貼り合わせには、よほど念には念を入れることが必須である。同じ回、候補になって落選した高橋由太が『このミステリーがすごい!』大賞で「隠し玉」として一気に売れっ子になっている(一年半で八冊を上梓)ように、アイディアを持ってくるにしても、ちゃんと自分の血肉になるまで消化する努力を払わないと、意味がない。

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

日本ホラー小説大賞(2011年11月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

よく当講座の読者から貰う質問が、何かの新人賞受賞作を名指しで「どうしてこの作品が受賞したのか、さっぱり理解できない。全く面白くない」というものである。


そういう質問者は「新人賞は面白い作品に授賞されるもの」という誤解をしている。


新人賞の選考基準は「面白いか否か」にはない。新人賞の選考基準は「応募者が創造力・想像力に優れているか(前例のない新奇のアイディアを思いつけるか)」と「他の応募作を圧倒する豊富な知識を持っているか」にある。いくら面白くても、既存作のアイディアを切り貼りして寄せ集めたような作品は落とされる。主催する編集部が、その手の物語が売れているという理由で二番煎じ、三番煎じの書き手を求めている場合は話が別だが。


十一月末締切の日本ホラー小説大賞は、前記の二項目のうちの前者にウェートが置かれている賞である。とにかく面白さ以前に新奇の、時には奇妙奇天烈とも言えるアイディアの作品を求めている


結果として、奇妙奇天烈なだけで面白くも何ともない(一般読者にとっては)作品に授賞されることが、まま起きる。しかし、選考委員の感覚からしてみれば、小説は書けば書くほど上達していくものであるから、受賞作は珍奇なだけで面白くなくとも、デビューして書き込んでいるうちに、いずれ面白い作品が書けるようになるだろう、という期待値を持って授賞する。その期待は、半分以上は外れて受賞者は文壇から消えるのだが、どの新人賞にしても、大差はない。受賞者の半数が生き残っている新人賞は歩留まりが良いほうで、中には九割以上が文壇から跡形もなく消えている新人賞も珍しくない。


さて、応募者の立場に立ってみると、この「前例のない新奇のアイディア」が極めて難しい。既に存在するものを探すのは容易だが、未だ存在していないものを探すのは発明発見の歴史を紐解いてみればわかるように、極めて難しい。そこで発想力に自信のない人、実際に発想力が貧困な人は「そんなの、いくら必死に考えても思いつけません」となる。


そういう人は「選考委員は決して神様ではない」という当たり前の事実を見逃している。神様でない以上、既存作の全部に目を通しているわけではない。選考委員が未読の作品のアイディアを切り貼りして寄せ集めた作品は「新奇のアイディア」と見なされるのだ。


時たま、漫画の作品をパクった作品が新人賞を受賞し、後になって発覚して授賞が取り消される事例が起きるのは、選考委員の目が漫画にまでは行き届いていない実例である。


前回、キャラ設定の参考にできそうな海外テレビドラマを取り上げたが、選考委員の目が海外作品にまで行き届いていない可能性は、かなりの確率で、ある。だから、発想力に自信のない人は「下手の考え、休むに似たり」とも言われるくらいであるから、漫画や海外ドラマのアイディアを、思い切って切り貼りしてみる。これは道義的にはともかく、著作権の侵害には該当しない。授賞が取り消されるのは、切り貼りではなく、そっくり丸写しした場合である。切り貼りでも、台詞の丸写しは不可。これも盗作に該当する。


巧妙に切り貼りした作品は、実行した当人は自覚していても、第三者が比べ読みした場合には、とても他からアイディアを借用したとは思えないほど別の作品になっている事例が大半を占める。しかも、こういう切り貼りは、プロ作家になって以降、文壇で生き残るには必須の技術なのだ。アイディアというものは、無限に湧き出るわけではないからだ。


第十六回の受賞作『化身』(宮ノ川顕)は『ロビンソン・クルーソー』とカフカ『変身』のアイディアを切り貼りした作品。しかし、風景描写と主人公の心理描写が実に巧い。


『化身』と『ロビンソン・クルーソー』『変身』を読み比べてみれば「そうか、こんな具合に既存作のアイディアを合体させれば評価されるのか」と感覚的に理解できるだろう。


選評で『変身』との類似性が指摘されているにも拘わらず受賞しているのだから、巧みに既存作のアイディアを切り貼りして、ヴァージョン・アップさせれば新人賞に届く。


同じ回の長編賞受賞作『嘘神』(三田村志郎)は、感心しなかった。正直、なぜ受賞したのか分からなかった。『極限推理コロシアム』でメフィスト賞を受賞した矢野龍王の作品に似すぎている。『バトル・ロワイアル』(高見広春)にも似ている。切り貼りして、糊付けが巧くできずに滅茶苦茶になった感じ。選考委員が、この手の小説を読んだことがなかったとしか考えられない。つまり、選考委員の未読作品のアイディアを貼り合わせられれば、けっこうなビッグ・タイトルの新人賞にも手が届く、という好例と言えそうだ。


しかし、一般読者にはバレる。誰かが間違いなく読んでいるのだから、アイディアの貼り合わせには、よほど念には念を入れることが必須である。同じ回、候補になって落選した高橋由太が『このミステリーがすごい!』大賞で「隠し玉」として一気に売れっ子になっている(一年半で八冊を上梓)ように、アイディアを持ってくるにしても、ちゃんと自分の血肉になるまで消化する努力を払わないと、意味がない。

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。