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新人賞受賞者が「元プロ作家」に成り下がる致命的な理由

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作文・エッセイ
作家デビュー

 【特別企画】

 下村敦史×若桜木虔 WEB対談 開催中!(2016/12/12~)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

予選を突破するには

今回の原稿を執筆する直前に講談社の小説現代誌上で、江戸川乱歩賞と小説現代長編新人賞の選考の途中経過が発表された。

それで、新人賞の世界が様変わりしている現状が如実に読み取れたので、今回は、それについて述べる。

江戸川乱歩賞では、予選突破者の中に、過去において新人賞を受賞し、著作も何作かある「元プロ作家」の名前が五人あった。予選落ちした人の中にも元プロ作家がいた可能性はあるが、そこまでは確認できない。

ほとんどの新人賞の選考途中経過に顔を出すが、再受賞までには至らない、三名の元プロ作家の名前が見当たらないので、まあ、予選落ちしたのだろう。

一昨年の松本清張賞でも予選突破者の中に七名の新人賞受賞作家の名前があった(その内の一名は、今回の江戸川乱歩賞の二次選考突破者と共通している)。

角川書店や角川春樹事務所の新人賞では一次選考で一気にベスト20以内にまで絞り込むので、予選突破者の中に元プロ作家がどのくらい紛れていたのかは、把握できない。

だが、江戸川乱歩賞と松本清張賞の途中経過から見て「何人かは、元プロ作家が紛れ込んでいたはず」と想定するのが妥当だろう。

つまり、ビッグ・タイトルの新人賞を射止めようと考えたら、少なくとも、片手で数えるぐらいの人数の元プロ作家を押し退けなくては栄冠を射止めることはできないと、考えていなければならない。

新人賞を射止めようとして当講座を読んでいるアマチュアの方は、そのくらいの覚悟を持って臨まなければ永久にグランプリには手が届かないと考えていてほしい。

一度は新人賞受賞作家の栄冠を手にしながら、本が売れず、版元からの依頼が入らなくなって、新人賞を射止めての再デビューに懸ける以外に選択肢がなくなった元プロ作家には、ほぼ共通した特徴がある。

それは「登場人物のキャラ立てが下手」である。

下村敦史さんとのWeb対談でも触れているが、新人賞を狙うキャラ立てには①登場人物の性格を際立たせる。②各登場人物の性格が異なるように描き分ける。③その性格が選考委員に魅力的に映るように書く――の三段階がある。以前は、この内の二項目を満たしていれば受賞できたが、今では、出版界の構造不況が長引くに連れて、そうではなくなった。

三項目を満たした上に④その性格が一般読者にとって魅力的に映るように書く――の第四段階を満たせないと、プロ作家として文壇に生きていくことができなくなった。

しかも、往々にして③と④とが相反していることがあるから、問題は簡単にはいかない。

例えば主人公が難関にブチ当たって深刻に思い悩むタイプの物語は、③では問題ないが、概して④の場合にはNGとなる。③と④の乖離に気がつかないとプロ作家として文壇では生き残れない。

公募ガイドでは「どの文学賞に応募すればいいか分からない」「なぜ落ちたか指摘してほしい」を講評する文学賞指南講座を今年になってスタートさせたが、送られてくる作品に目を通して、予選突破(ベスト20ぐらいに一気に絞るレベルの)可能な作品は残念ながら、今まで、唯の一作すらも巡り会えなかった。

どうも原稿を送ってくる人は「予備選考から応募作は丁寧に読んでもらえる」と大きな勘違いをしているように思われる。

そもそも予選委員は、定められた期間内に割り当てられた全応募作を読破しなければならない。基本的に「落とす」つもりで読み始めるのだから、早々に「この作品は面白いですよ」とアピールしなければならないのだが、そういう心構えが見られない。

文学賞指南講座に送られてくる作品の大半に見受けられたダメ要素を箇条書きすると、次のようである。

A.主人公が無口。
これは最もいけない。無口と無表情でキャラを立てるのは、名うてのプロ作家でも至難の業なのだが、無口では性格すら見えない。「主人公を魅力的に」以前である。

B.平凡極まりないシーンから物語をスタートさせる。
これは、更に細分化をすると、
①飲み屋やレストランの飲食シーン。
②家庭での団欒シーン。
③どこかに向かう列車・バス・フェリー・飛行機内のシーン。

どれも全て既視感(どこかで見たような話)を免れず、これだけで下読み選者は「落とす」気になる。

①なら、飲食を始めて早々に火事が起きるとか店内で爆発物が発見される、②だったら、いきなり三・一一東日本大震災クラスの大地震だとか大竜巻に襲来されて家が傾く、③だったら、やはり②と同様のアクシデントが起きる、というインパクトのある冒頭に急変するのでなければ、まず、予選突破は覚束ない。

ライトノベル系統だと、平々凡々たる学校のシーンでスタートさせるタイプの作品も多い。

中盤以降で盛り上がる物語構成は絶対にダメである。それでは、もう下読み選者は「落選」の決定を下してしまっている。

中盤以降で盛り上げる手法がOKなのは「この作家の作品は絶対に読む」という多数の固定ファンを抱えている人気作家だけである。

そういう作家の作品を読んで模倣したりしては絶対にいけない。

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

 自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?

 あなたの欠点を添削しつつ、応募すべき文学賞を教えます。

 文学賞指南 添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞

西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

予選を突破するには

今回の原稿を執筆する直前に講談社の小説現代誌上で、江戸川乱歩賞と小説現代長編新人賞の選考の途中経過が発表された。

それで、新人賞の世界が様変わりしている現状が如実に読み取れたので、今回は、それについて述べる。

江戸川乱歩賞では、予選突破者の中に、過去において新人賞を受賞し、著作も何作かある「元プロ作家」の名前が五人あった。予選落ちした人の中にも元プロ作家がいた可能性はあるが、そこまでは確認できない。

ほとんどの新人賞の選考途中経過に顔を出すが、再受賞までには至らない、三名の元プロ作家の名前が見当たらないので、まあ、予選落ちしたのだろう。

一昨年の松本清張賞でも予選突破者の中に七名の新人賞受賞作家の名前があった(その内の一名は、今回の江戸川乱歩賞の二次選考突破者と共通している)。

角川書店や角川春樹事務所の新人賞では一次選考で一気にベスト20以内にまで絞り込むので、予選突破者の中に元プロ作家がどのくらい紛れていたのかは、把握できない。

だが、江戸川乱歩賞と松本清張賞の途中経過から見て「何人かは、元プロ作家が紛れ込んでいたはず」と想定するのが妥当だろう。

つまり、ビッグ・タイトルの新人賞を射止めようと考えたら、少なくとも、片手で数えるぐらいの人数の元プロ作家を押し退けなくては栄冠を射止めることはできないと、考えていなければならない。

新人賞を射止めようとして当講座を読んでいるアマチュアの方は、そのくらいの覚悟を持って臨まなければ永久にグランプリには手が届かないと考えていてほしい。

一度は新人賞受賞作家の栄冠を手にしながら、本が売れず、版元からの依頼が入らなくなって、新人賞を射止めての再デビューに懸ける以外に選択肢がなくなった元プロ作家には、ほぼ共通した特徴がある。

それは「登場人物のキャラ立てが下手」である。

下村敦史さんとのWeb対談でも触れているが、新人賞を狙うキャラ立てには①登場人物の性格を際立たせる。②各登場人物の性格が異なるように描き分ける。③その性格が選考委員に魅力的に映るように書く――の三段階がある。以前は、この内の二項目を満たしていれば受賞できたが、今では、出版界の構造不況が長引くに連れて、そうではなくなった。

三項目を満たした上に④その性格が一般読者にとって魅力的に映るように書く――の第四段階を満たせないと、プロ作家として文壇に生きていくことができなくなった。

しかも、往々にして③と④とが相反していることがあるから、問題は簡単にはいかない。

例えば主人公が難関にブチ当たって深刻に思い悩むタイプの物語は、③では問題ないが、概して④の場合にはNGとなる。③と④の乖離に気がつかないとプロ作家として文壇では生き残れない。

公募ガイドでは「どの文学賞に応募すればいいか分からない」「なぜ落ちたか指摘してほしい」を講評する文学賞指南講座を今年になってスタートさせたが、送られてくる作品に目を通して、予選突破(ベスト20ぐらいに一気に絞るレベルの)可能な作品は残念ながら、今まで、唯の一作すらも巡り会えなかった。

どうも原稿を送ってくる人は「予備選考から応募作は丁寧に読んでもらえる」と大きな勘違いをしているように思われる。

そもそも予選委員は、定められた期間内に割り当てられた全応募作を読破しなければならない。基本的に「落とす」つもりで読み始めるのだから、早々に「この作品は面白いですよ」とアピールしなければならないのだが、そういう心構えが見られない。

文学賞指南講座に送られてくる作品の大半に見受けられたダメ要素を箇条書きすると、次のようである。

A.主人公が無口。

これは最もいけない。無口と無表情でキャラを立てるのは、名うてのプロ作家でも至難の業なのだが、無口では性格すら見えない。「主人公を魅力的に」以前である。

B.平凡極まりないシーンから物語をスタートさせる。

これは、更に細分化をすると、

①飲み屋やレストランの飲食シーン。

②家庭での団欒シーン。

③どこかに向かう列車・バス・フェリー・飛行機内のシーン。

どれも全て既視感(どこかで見たような話)を免れず、これだけで下読み選者は「落とす」気になる。

①なら、飲食を始めて早々に火事が起きるとか店内で爆発物が発見される、②だったら、いきなり三・一一東日本大震災クラスの大地震だとか大竜巻に襲来されて家が傾く、③だったら、やはり②と同様のアクシデントが起きる、というインパクトのある冒頭に急変するのでなければ、まず、予選突破は覚束ない。

ライトノベル系統だと、平々凡々たる学校のシーンでスタートさせるタイプの作品も多い。

中盤以降で盛り上がる物語構成は絶対にダメである。それでは、もう下読み選者は「落選」の決定を下してしまっている。

中盤以降で盛り上げる手法がOKなのは「この作家の作品は絶対に読む」という多数の固定ファンを抱えている人気作家だけである。

そういう作家の作品を読んで模倣したりしては絶対にいけない。

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

 自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?

 あなたの欠点を添削しつつ、応募すべき文学賞を教えます。

 文学賞指南 添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞 西山ガラシャ(第7回)
小説現代長編新人賞 泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞 木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞 山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞 近藤五郎(第1回優秀賞)
電撃小説大賞 有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)
『幽』怪談文学賞長編賞 風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞 鳴神響一(第6回)
C★NOVELS大賞 松葉屋なつみ(第10回)
ゴールデン・エレファント賞 時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞 梓弓(第42回)
歴史浪漫文学賞 扇子忠(第13回研究部門賞)
日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。