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佳作「選択の自由 白浜釘之」

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第28回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「選択の自由 白浜釘之」

ニュースが始まる時間だ。

私はテレビの前に座り、リモコンのボタンに手をかける。

「こんばんは。ニュースの時間です」

アナウンサーがいつものようにニュースを読み始める。

しばらくすると、画面下部にテロップの邪魔にならない程度に質問が表示される。

『今日の二人のキャスターの服装はいかがですか? 十段階評価で採点して下さい』

私はその質問で、今まで意識していなかった男女二人のキャスターの姿を眺める。

男性の方は、スーツの色は上品だったが、もう中堅に差しかかったこのアナウンサーにピンクのネクタイはかえって野暮ったい印象を受けたため四点を、そして彼と同年代の女性キャスターの桜色のスーツにはニュース番組にしては華美な印象を受けたため、少し辛めの三点をつけた。

続いて、また画面下部に質問が現れる。

『先ほどの交通事故のニュースで、一番の原因は何だと思いますか? 1、運転手の不注意 2、歩道を歩いていなかった歩行者 3、過労運転を黙認していた会社 4、縁石を作るなどの対策を行わなかった行政 5、……』

これにも、十個程度の項目が現れ、私は原因と思われるもののボタンを押す。

『今日の質問は以上です』

画面にそうテロップが流れたため、私は再び夕食の準備に取り掛かる。

私がニュースの質問に答えていたのは別に趣味でやっているわけではない。

質問に答えることでごくごくわずかではあるが謝礼がもらえるからだ。

もちろん、一問につき一円から五円くらいの金額ではあるが、それでも毎日数十回もやっていれば月に数千円という金額になる。育ち盛りの子供を抱える家庭には馬鹿にならない金額だ。

夕食の支度を終えた頃、ちょうど夫も帰宅してきたので、宿題を終え部屋でゲームをしていた息子を呼び、家族で食卓を囲む。

息子にせがまれ、アニメ番組を観ていると、正義の戦士に無様にやられる敵の首領が我が国の仮想敵国の国家元首に似ているので、夫と二人で「子供向け番組なのにずいぶん社会派だね」と笑いあった。

そして、この番組の最後にも、

『今日の敵はどうだった? 1、かっこいい 2、ふつう 3、かっこわるい』という質問があり、息子は「もちろん、かっこわるい!」と3のボタンを押して、大人の真似をして満足そうにうなずいた。

このような視聴者参加型の番組というのは以前からあったのだが、政府による世論調査を兼ねて本格的に取り入れられたのは最近になってからだ。

各家庭に専門のリモコンが配られ、それまではせいぜい三、四個だった選択肢も大幅に増え、質問に答えることで報酬もあるため、視聴者は積極的に参加するようになった。

そして、そのことによって少しずつ世の中も良くなってきているような気がするのだ。

国会中継で口論ばかりしていた与党と野党の党首は、ともにアンケートで支持率を下げたため次の選挙では協力することを誓い、政局は巨大与党が一党支配するようになった。

その後、政策は事実上テレビアンケートの結果によって決められるようになった。

『敵国でのミサイル実験についてどう思いますか?』という質問に対し、大多数の回答結果であった迎撃ミサイルが大量に配備され、『若者たちの非正規雇用についてどう思いますか?』という質問の回答によって、国防軍への採用人数が大幅に増員されたりした。

もちろん、国の税金を使うこれらの政策のために、『何を犠牲にしますか?』というアンケートもあった。

その結果、『これからの世代のために、上の者が多少の我慢をすべき』という意見が大多数を占めたため、年金等の社会保障が多少削減されたりもした。

夕食が終わり、私は後片付けをしたり、夫と息子の明日の支度をしてから、再びアンケートのある夜のニュース番組を見る。

ニュースでは好況で税収が上がったニュースを論じていた。

そして『税金をどのように使うのが良いと思いますか』という質問が画面に現れる。

『1、国防軍の兵士の給与に充てるべき 2、防衛のための迎撃ミサイルを増備すべき 3、来たるべき戦争に備え武器の購入をすべき 4、将来の兵士となる子供達の体力向上のために使うべき 5、同盟国への連携強化のための援助費用とすべき 6、仮想敵国からの経済制裁措置に備えプールしておくべき……』

私は多くの選択肢の中から一つを選んでボタンを押す。これだけの自由な選択肢の中から選んだ答えで直接、政治を動かすことができる。本当にいい世の中になったものだ。