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あなたとよむ短歌 vol.37 テーマ詠「動物」結果発表 ~バリエーションを楽しむ~

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川柳・俳句・短歌・詩
あなたとよむ短歌
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結果発表

テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。

柴田 葵 1982年、神奈川県生まれ。元銀行員、現在はライター。「NHK短歌」や雑誌ダ・ヴィンチ「短歌ください」、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」への投稿を経て、育児クラスタ短歌サークル「いくらたん」、詩・俳句・短歌同人「Qai(クヮイ)」に参加。第6回現代短歌社賞候補。第2回石井僚一短歌賞次席「ぺらぺらなおでん」。第1回笹井宏之賞大賞「母の愛、僕のラブ」。
■作品
プリキュアになるならわたしはキュアおでん熱いハートのキュアおでんだよ
(『母の愛、僕のラブ』より)
vol.37
テーマ詠「動物」結果発表 ~バリエーションを楽しむ~

短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。
今回はテーマ詠「動物」の結果発表です。毎回、最後にワンポイントアドバイスも載せていますので、ぜひ入賞作品とあわせてお読みください!
今回投稿してくださった作品のなかでは、猫を詠んだものが最も多く、次に犬が多かったです。意外な動物ではキリンが10首ありました。
それでは、最優秀賞の発表です。


猫の舌やすりのように
ゾゾゾゾと僕の体の角を落として
(結城熊雄さん)

小さくてザラザラした猫の舌を「やすり」に喩えた一首。「ゾゾゾゾ」という擬音語とも擬態語ともとれる表現が、生々しくもキュートな印象を与えます。
帰宅した「僕」を待っていたのでしょうか。猫が「やすりのよう」な舌で舐めてきます。そして「やすりのよう」に「僕の体の角」を落とす……。実際に、猫の舌で人間の体が削られるわけではありません。「僕の体の角」とは、仕事や学校などで苛立ったり緊張したりした、ストレスのようなものかもしれません。
猫の舌の細かな描写と、動物の体温や湿度、猫に触れることで日々の力を抜くことができる「僕」の様子を鮮やかにとらえています。

続いて、優秀賞2首です。

獣医なる父は吾猫一目見て
お前に似てると呟きにけり
(たま子さん)

獣医という仕事は、動物に愛情を持ちつつも冷静に診察しなければなりません。そんな獣医である「父」は、猫を一目見て「お前に似ている」と呟いた。初めてこの猫と対面したのでしょう。つまり、子どもは既に別の場所に住んでいて、それなりに疎遠になっている様子が伺えます。
わが子の飼う猫に対しては「獣医」ではなく「父」の目線になる。それは、獣医である前に父親であるからこそ。シンプルな歌からしみじみとした暖かさが伝わってきます。


幾兆の動物がいて
ただひとつわたしを母と呼ぶいのちあり
(走さん)

テーマ詠「動物」の募集でしたが、多くの場合、具体的な動物名を出した方がうまくいきます。その動物の個性やインパクトを生かす方が一首としての魅力も増すからです。
けれどもこの走さんの一首は、動物という大きな括りを真正面から詠んだもの。猫も犬もキリンも昆虫も人間も「動物」。この地球には幾兆の動物がいるけれども「わたし」を「母」と呼ぶのは、わが子、たった一つのいのちであるという壮大な歌です。
「幾兆」という表現から「ただひとつ」に集約する、天文学的な奇跡。このスケールが31音に集約されています。



それでは、佳作のご紹介です!


くまモンもピカチュウも頬が赤いんだ 真っ赤に流れるぼくらの血潮よ
(染井よがりさん)

今年のは四月がいいと妻が言う岩合さんの猫カレンダー
(かずんどさん)

こぎつねがコンコン死んで教科書はすこし重さを取りもどしてる
(水面叩さん)

ポチでさえ待てる2分を待ち切れず未読のままのあなたに電話
(石川周さん)



最後に、こちらの作品を読んでみましょう。


やわらかな陽射しに沈む猫たちの
額縁として窓枠はある
(コメノツブさん)

猫がたたずむ庭。あるいは塀の上などが見えるのかもしれません。じっと動かない猫たちを窓越しに見ていると、窓枠が額縁のように見える、という一首です。
屋外の陽射しを感じているので、室内は外より暗そうです。おそらく逆光になっていて、窓枠はより暗く黒く見え、額縁らしさが増しています。その静謐な雰囲気や、ほのかな眩しさまで感じられる短歌です。


今回、この一首のなかの「として」という表現について考えてみたいと思います。
この「〇〇として××がある」は、口語で書かれた現代短歌に割と多く使われる表現だと感じます。「××が〇〇の機能を果たしている」あるいは「××が〇〇を象徴している」という意味で用いられます。


文字数を圧縮しながらビシッと決まる、短歌に向いた言い回しです。しかし一方で、短歌向きな表現であるが故に比較的多用されている印象もあります。たとえば、このような(口語短歌が数百件集まるような)公募だと、毎回一首はこの言い回しを使う短歌があるイメージです。


コメノツブさんご自身は初めて使った言い回しかもしれません。ただ、もしも最近詠んだ短歌のなかで、同じ言い回しを何度も使っている人がいたら要注意。積極的に別の言い回しを探してみるのも楽しいと思います。



① やわらかな陽射しに沈む猫たちの
額縁のような窓枠がある
② やわらかな陽射しに沈む猫たちの
額縁のごと窓枠はある
③ やわらかな陽射しに沈む猫たちの
額縁なのか、錆びた窓枠

①は最もオーソドックスな印象。一般的にも使う表現ですね。スムーズに読めますが、すこしのっぺりした印象です。

②の「のごと」は「の如く」と同じ意味です。読み慣れない感じはしますが、「ごと」という無骨な音の響きが、固く四角い窓枠とマッチしている気もします。

③は読点「、」が入っていて少しトリッキーな構成です。「あ、額縁だったのか」という発見の感情が出ています。

このように複数の表現を検討してみた上で、やはり「として」が最良だ、と思えれば一首に対する自信がいっそう湧くかもしれません。


作品のご投稿ありがとうございました。引き続き、テーマ詠「調味料」を募集しています。
テーマ詠は、お題の単語を短歌のなかに入れても入れなくてもOKです。そのテーマにあった短歌をお待ちしています。 どこかに応募した作品も、未発表も作品もぜひご投稿ください。(著作権がご自身にある作品に限ります)

 
応募要項
応募規定 短歌(57577)を募集します。
テーマは「調味料」
応募点数制限なし。
応募方法 応募フォームもしくはTwitterでご応募ください。Twitterの場合は公募ガイド公式アカウント「@kouboguide」をフォローして、ハッシュタグ「#あなたとよむ短歌調味料」をつけてツイートしてください。
※応募者には、弊社から公募やイベントに関する情報をお知らせする場合があります。
最優秀賞1点=Amazonギフト券3000円分
優秀賞2点=Amazonギフト券1000円分
佳作数点=ウェブ掲載

※該当作品なしの場合があります。
※作品を記事内で推敲する場合があります。
※発送は発表月末を予定しております。
締切 2023年4月30日
発表 2023年6月1日