あなたとよむ短歌 vol.38 テーマ詠「ファッション」結果発表 ~助詞を入れる、常套句を避ける~
テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。
(『母の愛、僕のラブ』より)
テーマ詠「ファッション」結果発表
~助詞を入れる、常套句を避ける~
短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。
今回はテーマ詠「ファッション」の結果発表です。毎回、最後にワンポイントアドバイスも載せていますので、ぜひ入賞作品とあわせてお読みください!
気候に合わせて変化するファッションですが、季節や天気だけでなく、心情や年齢、シチュエーションや対人関係をうつす鏡でもあります。短歌の題材として、興味深いものの一つです。
それでは、最優秀賞の発表です。
少しきれいな作業着の父
結婚相手が実家に挨拶にくる日。作中の主体は、前もって「結婚の挨拶にくるんだよ(だから、きちんと対応してね、よろしくね)」と父に言っていたようです。おそらくスーツやジャケットなど、かしこまった服装を期待していたのでしょう。それにも関わらず父は「少しきれいな作業着」を着ていた、という短歌です。
この作中主体も怒っているわけではなさそうです。それは、いつもより「少しきれいな作業着」だと気づいている部分から読み取れます。
おそらくお父さんも悩んだのでしょう。スーツを着るべきか何を着るべきか……。その結果、選んだのは「少しきれいな作業着」。このお父さんは普段、作業着姿でお仕事をされているようです。仕事に励み、お金を稼いで、わが子を育てあげた自負。そして、わが子のパートナーにはありのままの様子を見てもらおうという正直な気持ち。一方で、きれいな作業着を選ぶ敬意の表れ。
お父さんの真面目で誠実な心が「ファッション」を通じてひしひしと伝わってきました。
続いて、優秀賞2首です。
チノもスタイも絡み合いつつ
「スタイ」というのは乳幼児のエプロン(よだれかけ)のことです。「チノ」はおそらくチノパン(ズボン)でしょう。洗濯機を回さない人生なんてないですよね。洗濯機のなかで、わが子のスタイも自分のチノパンも絡み合う、そんな日常の風景です。子どもが小さいうちは汚れる服も多く、毎日洗濯しても追いつかないほど。洗濯しない日はないかもしれません。
文字通り読めばそのような一首ですが、もういちど上句に注目しましょう。「洗濯のない人生はありえない」の「洗濯」は、もしかしたら「選択」と掛かっているのかもしれません。「選択のない人生はありえない」。その通りですね。結婚も出産も、繊細でおしゃれな服を着ていた自分が動きやすいチノパンばかり履くようになるのも、すべて「選択」した結果です。
乳幼児の育児に追われる日々は、洗濯物がぐちゃぐちゃに絡み合うように、うまくいかなかったり疲弊したりするものです。それでも、選択のない人生はないし、これまでもこれからも選択していくのでしょう。受けとめて選択して、また受けとめて。ダブルミーニングが効いた一首だと思いました。
自分で作ったマフラーを巻く
この一首のポイントは「それでも」にあると思います。「冬を経ても寒いから」と書けば済む内容ですが、「冬を経てそれでもずっと……」と「それでも」を入れることで、グッとアクセルを踏んだような勢いが生まれます。
「自分で作ったマフラーを巻く」の音数は8音・7音です。「自分で編んだマフラーを巻く」とすれば、より自然な表現になり、音数も7音・7音で短歌の定型に収まります。けれども、あえて「自分で作ったマフラー」とすることで、あまり上手ではない手作りマフラーが思い浮かびませんか?
初心者ながら一生懸命マフラーを編んだのでしょう。手編みのマフラーといえば、昔から恋人へのプレゼントのアイコン的存在です。恋に破れたのか、はたまた、恋など必要ないという決意なのか。孤独のなかに強さを感じる一首でした。
それでは、佳作のご紹介です!
最後に、こちらの作品を読んでみましょう。
「インナーが一枚少なくなる朝」という、その些細な変化で季節を表現している、とてもすてきな一首です。冬から春、春から夏と、暖かくなってきたのでしょう。
以前ご紹介した通り、短歌は分かち書きで詠む必要はありません。分かち書きを一旦やめてみましょう。
新たな季節始まる予感
スペースを消してみると、下句の「新たな季節始まる予感」が、体言止め+体言止めになっており、少し固く、標語のように感じられます。この場合はたとえ8音になっても助詞を省略しない方がよさそうです。
また「新たな季節が始まる」は少し常套句っぽさが出てしまうかも。ここは一つ能動的な表現にしてみてはいかがでしょうか。
新たな季節に進める予感
「季節が(自然と)始まる」という表現が、「自分自身が(新たな季節に)進める」という表現になりました。推敲の参考にしていただければうれしいです。
作品のご投稿ありがとうございました。引き続き、テーマ詠「地名」を募集しています。
テーマ詠は、お題の単語を短歌のなかに入れても入れなくてもOKです。そのテーマにあった短歌をお待ちしています。
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締切 | 2023年5月31日 |
発表 | 2023年7月1日 |