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あなたとよむ短歌 vol.38 テーマ詠「ファッション」結果発表 ~助詞を入れる、常套句を避ける~

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川柳・俳句・短歌・詩
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結果発表
あなたとよむ短歌

テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。

柴田 葵 1982年、神奈川県生まれ。元銀行員、現在はライター。「NHK短歌」や雑誌ダ・ヴィンチ「短歌ください」、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」への投稿を経て、育児クラスタ短歌サークル「いくらたん」、詩・俳句・短歌同人「Qai(クヮイ)」に参加。第6回現代短歌社賞候補。第2回石井僚一短歌賞次席「ぺらぺらなおでん」。第1回笹井宏之賞大賞「母の愛、僕のラブ」。
■作品
プリキュアになるならわたしはキュアおでん熱いハートのキュアおでんだよ
(『母の愛、僕のラブ』より)
vol.38
テーマ詠「ファッション」結果発表
~助詞を入れる、常套句を避ける~

短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。
今回はテーマ詠「ファッション」の結果発表です。毎回、最後にワンポイントアドバイスも載せていますので、ぜひ入賞作品とあわせてお読みください!
気候に合わせて変化するファッションですが、季節や天気だけでなく、心情や年齢、シチュエーションや対人関係をうつす鏡でもあります。短歌の題材として、興味深いものの一つです。
それでは、最優秀賞の発表です。


結婚の挨拶だよと言ったのに
少しきれいな作業着の父
(猫田しろさん)

結婚相手が実家に挨拶にくる日。作中の主体は、前もって「結婚の挨拶にくるんだよ(だから、きちんと対応してね、よろしくね)」と父に言っていたようです。おそらくスーツやジャケットなど、かしこまった服装を期待していたのでしょう。それにも関わらず父は「少しきれいな作業着」を着ていた、という短歌です。

この作中主体も怒っているわけではなさそうです。それは、いつもより「少しきれいな作業着」だと気づいている部分から読み取れます。
おそらくお父さんも悩んだのでしょう。スーツを着るべきか何を着るべきか……。その結果、選んだのは「少しきれいな作業着」。このお父さんは普段、作業着姿でお仕事をされているようです。仕事に励み、お金を稼いで、わが子を育てあげた自負。そして、わが子のパートナーにはありのままの様子を見てもらおうという正直な気持ち。一方で、きれいな作業着を選ぶ敬意の表れ。

お父さんの真面目で誠実な心が「ファッション」を通じてひしひしと伝わってきました。



続いて、優秀賞2首です。

洗濯のない人生はありえない
チノもスタイも絡み合いつつ
(優木ごまヲさん)

「スタイ」というのは乳幼児のエプロン(よだれかけ)のことです。「チノ」はおそらくチノパン(ズボン)でしょう。洗濯機を回さない人生なんてないですよね。洗濯機のなかで、わが子のスタイも自分のチノパンも絡み合う、そんな日常の風景です。子どもが小さいうちは汚れる服も多く、毎日洗濯しても追いつかないほど。洗濯しない日はないかもしれません。

文字通り読めばそのような一首ですが、もういちど上句に注目しましょう。「洗濯のない人生はありえない」の「洗濯」は、もしかしたら「選択」と掛かっているのかもしれません。「選択のない人生はありえない」。その通りですね。結婚も出産も、繊細でおしゃれな服を着ていた自分が動きやすいチノパンばかり履くようになるのも、すべて「選択」した結果です。

乳幼児の育児に追われる日々は、洗濯物がぐちゃぐちゃに絡み合うように、うまくいかなかったり疲弊したりするものです。それでも、選択のない人生はないし、これまでもこれからも選択していくのでしょう。受けとめて選択して、また受けとめて。ダブルミーニングが効いた一首だと思いました。

冬を経てそれでもずっと寒いから
自分で作ったマフラーを巻く
(伊沢学さん)

この一首のポイントは「それでも」にあると思います。「冬を経ても寒いから」と書けば済む内容ですが、「冬を経てそれでもずっと……」と「それでも」を入れることで、グッとアクセルを踏んだような勢いが生まれます。

「自分で作ったマフラーを巻く」の音数は8音・7音です。「自分で編んだマフラーを巻く」とすれば、より自然な表現になり、音数も7音・7音で短歌の定型に収まります。けれども、あえて「自分で作ったマフラー」とすることで、あまり上手ではない手作りマフラーが思い浮かびませんか?

初心者ながら一生懸命マフラーを編んだのでしょう。手編みのマフラーといえば、昔から恋人へのプレゼントのアイコン的存在です。恋に破れたのか、はたまた、恋など必要ないという決意なのか。孤独のなかに強さを感じる一首でした。



それでは、佳作のご紹介です!


ベレー帽傾き変えて何枚も八十路の母が自撮りする春
(ひろふるさん)

初夏のブラウス縫いたしあの箱に淡きピンクの生地入っている
(あやめさん)

父だけに似合うと思っていた服は誰でも似合うグレーのスーツ
(清音さん)



最後に、こちらの作品を読んでみましょう。


インナーが 一枚少なく なる朝は 新たな季節 始まる予感
(后純みかどさん)

「インナーが一枚少なくなる朝」という、その些細な変化で季節を表現している、とてもすてきな一首です。冬から春、春から夏と、暖かくなってきたのでしょう。

以前ご紹介した通り、短歌は分かち書きで詠む必要はありません。分かち書きを一旦やめてみましょう。


インナーが一枚少なくなる朝は
新たな季節始まる予感

スペースを消してみると、下句の「新たな季節始まる予感」が、体言止め+体言止めになっており、少し固く、標語のように感じられます。この場合はたとえ8音になっても助詞を省略しない方がよさそうです。
また「新たな季節が始まる」は少し常套句っぽさが出てしまうかも。ここは一つ能動的な表現にしてみてはいかがでしょうか。


インナーが一枚少なくなる朝は
新たな季節に進める予感

「季節が(自然と)始まる」という表現が、「自分自身が(新たな季節に)進める」という表現になりました。推敲の参考にしていただければうれしいです。


作品のご投稿ありがとうございました。引き続き、テーマ詠「地名」を募集しています。
テーマ詠は、お題の単語を短歌のなかに入れても入れなくてもOKです。そのテーマにあった短歌をお待ちしています。 どこかに応募した作品も、未発表も作品もぜひご投稿ください。(著作権がご自身にある作品に限ります)

 
応募要項
応募規定 短歌(57577)を募集します。
テーマは「地名」
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締切 2023年5月31日
発表 2023年7月1日