第6回ゲスト選考委員は、本屋大賞作家の凪良ゆうさん。
受賞作『流浪の月』『汝、星のごとく』を参照しつつ、
作家としての修業時代や創作法について伺った。
小説を書き始めたら楽しくなり、
朝から晩まで書いていた
―― もともと漫画家志望だったそうですね。
中学生の頃、2回ぐらい「マーガレット」に投稿したことがあります。投稿すると編集者さんが真剣に批評して返してくれるんです。今はどうか知りませんが、当時は投稿された作品すべてに短いながらも評価を書いて送り返してくれました。それが温かくも厳しくって、十五、六歳の子どもだった私には耐えきれなかったんでしょうね。心がポキッと折れてしまいました。
―― 子ども相手に、そんなに厳しい講評を?
プロを目指しているのだから、もちろんです。「こんな構成、あり得ない」「最後、なぜヒロインがこの行動をするのか全くわからない、考え直せ」みたいな厳しい批評が返ってきました。
―― 小説を書くきっかけは『銀河英雄伝説』だったそうですね。
10代の頃、田中芳樹さんの『銀河英雄伝説』が大好きだったんです。20代になって、たまたまネットで『銀英伝』の記事を見て、むらむらと好きだった頃のことを思い出し、自分も何か創作したいなと思ったんです。でも、漫画を描かなくなって10年以上ブランクがあったので、もう描く技術がなくなっていたんですね。それで文章なら書けるかも、と自己満足で書きだしたのがきっかけでした。
―― 小説を書いてみて、いかがでしたか。
小説を書き始めたら、すごく楽しくなっちゃって、朝から晩まで書いていたんです。当時は結婚していたんですが、旦那さんが帰ってきても夕飯の用意をしていないぐらい家事も何もかも放り出して書いていました。さすがに怒られて、「そんなに好きならプロになれば」と言われて。それは「どうせなれるわけがないんだから、おとなしく奥さんやってくれよ」という嫌味まじりの言葉だったんですが、少女漫画の投稿をしたことがあったので投稿自体にハードルは感じていなくて、「わかった、じゃあ、プロになるね。頑張るね」と言って投稿を始めました。そのとき、「仕事なんだから、一日中書いていてもいいんだよね」と約束させて、BLに投稿を始めて、それからプロになりました。
―― ボーイズラブの読者は女性が多いんですよね。
宝塚(歌劇団)のような世界で、作家も編集さんも読者も女性が圧倒的に多いジャンルです。
―― ボーイズラブは、どんなところが魅力でしょうか。
物語の構造は少女漫画とほぼ同じ系統です。出会いがあり、恋をして、いろいろあって、最後は明るくハッピーエンドで終わるのが望ましい。それが雛形とされています。
―― ハッピーエンドがお約束?
最近はどうでしょうか。私は新人の頃に、編集さんから「曖昧なハッピーエンドではなく、100人が読んだら100人が納得するような完全無欠のハッピーエンドでお願いします」と指導されたことがあります。
誰も引き止めてくれない
私が諦めたら、そこですべてが終了
―― ちなみに、デビュー版元は?
今はなくなりましたが、白泉社の「小説花丸」という雑誌です。私は投稿3回目で引っかかりました。引っかかったと言っても入選ではなく、佳作ですらなかったんじゃないかな。
―― それでも一応、プロになったわけですね。
最初はうれしかったです。でも、すぐに想像以上に厳しいことがわかって、ひいひい言うことになります。最初の担当編集さんって、作家のためを思ってですが、決して甘やかしてはくれません。まだ全然技量がないから、厳しく踏み込んでいかないと、作品もお金を払って買ってもらえるレベルにならない。そういう事情があるので、どうしても厳しくなりますね。
―― 具体的にはどんなやりとりを?
プロットが通って初稿を送ったけど、全部ボツにされたこともあります。「プロットでOKだったじゃないですか」と言っても、「思ってたものと違ったのが来たから、これは使えない。書き直し」って。
―― 部分的な修正ではなく、全ボツ?
部分部分を直せばなんとかなることもありましたが、「全然使えないから、プロットから書き直して」という場合もありました。「これは直しようがないので諦めて」とか。とにかく褒めてもらったことがなかったです。編集さんはずっと怖い人だと思っていました(笑)。
―― 才能の芽を摘んでしまったら、版元も困る気がしますが。
書きたい人はあとからあとから山盛り出てきますから、挫折する人がいるならそれまでの人だったんだなってなるのですかね。やめると言ったって、誰も引き止めてくれません。私が諦めたらそこですべてが終わっちゃいますから、なんとか頑張りました。だから、今、投稿している方々も、負けないで続けてほしいです。
―― 文芸新人賞には応募されなかったですか。
「小説花丸」に投稿し、3作目で担当さんがつきました。書く場を与えてもらえた以上は、もうそこで頑張るしかないと思っていましたね。どこでデビューしても、2作目、3作目を書けなければ同じですから、どこからデビューするかは最終的には関係ないと思います。
プロになると達成感は一瞬で、
そのあと、恐怖が襲ってくる
―― 書き上げたときは、やり遂げた達成感がありますか。
書き上がったときの喜びは投稿時代から変わっていないと思いますが、プロになると達成感は一瞬で、そのあと、恐怖が襲ってきます。
―― 恐怖?
編集さんに出さないといけないので。「今回はどうだろう。なんて言われるだろう」という不安やドキドキが始まるんです。このあと、編集さんと相談し、「ここを直そう」といったブラッシュアップが始まりますが、そうなる前にボツになる可能性もあるわけです。
―― 確かに。書き上がってもそこからが長い。
出版されたらされたで、今度は読者さんの感想が気になるし、プロだから売れ行きも気になります。売れないと次のお仕事ももらえないかもしれないじゃないですか。結局、ずっと緊張しっぱなしかもしれませんね。
――今回、本屋大賞を受賞された『汝、星のごとく』は二人の人物の交互視点で書かれています。
異なる人物の視点で同じ場面を書くと、人間、こんなにわかり合えていないんだってことが表現できました。人の心の中がもっともミステリーなので、交互視点で書いている間は謎を解き明かしている感じですごく楽しいですね。
―― 男性を書くときは男性になりきるのですか。
私は女性なので、意識しないと登場人物でも女性に肩入れしてしまいます。でも、男性の視点から書くときは女性寄りには絶対にならないようにします。男性には男性の譲れぬ事情があり、女性には女性の言い分がある。どっちも悪くない、それぞれ事情があるんだからフェアに書こうと心掛けています。
――『流浪の月』もそうですが、立場によって見方や感じ方が違い、でも、それを説明できないもどかしさのようなものがどの作品にもありますが、それはボーイズラブの時代に培われたのでしょうか。
ボーイズラブに重い現実を持ち込んでしまうと、ファンタジーとして楽しめなくなってしまうので、編集さんにはあまり持ち込まないでと言われたことがありました。コメディータッチならいいけど、あまり重く書かないでと。そういう制限を守りつつ、自分が書きたいものをどう伝えていくかを学ばせてもらったと思います。
―― 選考する側になるというのは、どんなお気持ちですか。
ふだんの読書はパーソナルなもので、そこには好みがありますが、選考する立場では、「好きではないが、評価はできる」ということもあります。それも含めて、自分がどう楽しむかという姿勢で挑ませていただけるといいなと思っています。
応募要項
課 題
■第6回 [家族 ]
ぼくのところはいま四人家族ですが、父の実家はいちばん大きいとき十三人家族だったそうです。いやはや。仲のいい家族、バラバラな家族、人種の違う家族、家族の形も同じものは一つもないかのしれませんね。(高橋源一郎)
締 切
■第6回 [ 家族 ]
8/9(必着)
規定枚数
A4判400字詰換算5枚厳守。ワープロ原稿可。
用紙は横使い、文字は縦書き。
応募方法
郵送の場合は、原稿のほか、コピー1部を同封。作品には表紙をつけ(枚数外)、タイトル、氏名を明記。別紙に〒住所、氏名(ペンネームの場合は本名も)、電話番号、メールアドレスを明記し、原稿と一緒にホッチキスで右上を綴じる。ノンブル(ページ番号)をふること。コピー原稿には別紙は不要。作品は折らないこと。作品の返却は不可。
※WEB応募の場合も作品には表紙をつけ、タイトルと氏名(ペンネームの場合はペンネームのみ)を記入すること。
応募条件
未発表オリジナル作品とし、入賞作品の著作権は公募ガイド社に帰属。
応募者には、弊社から公募やイベントに関する情報をお知らせする場合があります。
発 表
第6回・2023/10/9、季刊公募ガイド秋号誌上
賞
最優秀賞1編=Amazonギフト券1万円分
佳作7編=記念品
選外佳作=WEB掲載
応募先
● WEB応募
応募フォームから応募。
● 郵送で応募
〒105-8475(住所不要) 公募ガイド編集部
「第6回W選考委員版」係
お問い合わせ先
ten@koubo.co.jp
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受講料 5,500円
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