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第21回「小説でもどうぞ」佳作 超高性能 Y助

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作文・エッセイ
小説でもどうぞ
結果発表
第21回結果発表
課 題

学校

※応募数250編
超高性能 
Y助

 教室の中には、五十体のロボットが集められていた。
 目の輝きや顔の表情。皮膚の質感、筋肉の動き、声の発し方や言い回しなど、本物の人間と間違えてしまいそうな出来栄え。
 さらに、高度な学習能力と、自らを進化させる深い思考能力を兼ね備えた最高傑作。どんなに優れた人間をも簡単に凌駕りょうがしてしまうであろう、超高性能、人型ロボットだ。
 しかし、それはまだ、完璧ではなかった。まだ与えられていない、データがあった。
 それは、人間についてのことだった。ロボットが社会の中で人と共に暮らし、役立つためには、どうしても必要な知識だ。
 自分たちを生み出してくれた人間とは、どういう生き物なのか。これから、どう関わっていけばいいのか。ロボットたちはまだそれを教わっていなかった。
 それを習得するための、最後の授業が、これから始まろうとしていた。
 担当するのは、ベテランの教員。ただ単に、データ化された、人間の情報をインプットするのではない。生身の人間と触れ合い、教わることで、なにかを感じ、学んで欲しい。
 最後の授業を、人間が担当するのには、そんな思いも、込められてのことだった。

 始業チャイムと共に教室に現れた教官は、真剣な表情を浮かべていた。
 ロボットたちにありのままを教えることが、自分の使命だ。飾ることなく、正しい人間像を伝えよう。それが、人間とロボットたちとの明るい未来を切り開くことに繋がる。そんな決意の表れのようにも見えた。
 教壇に上がった教官は背筋を伸ばし、大きく息を吸い込むと、第一声を発した。
「まず初めに言っておこう。君たちロボットは、人間のために働かなくてはならない。そして、どんなことがあっても、決して人間に危害を加えてはならない」
 人間の何十倍もの力を持つロボットたち。当然、誤作動に対応する緊急停止装置や、自爆装置も内蔵されている。万が一にも、人間に危害を加えるようなことは、あり得ない。
 しかし、教官はどうしても、その大切な一言を、直に伝えておきたかったのだ。
「次に、知っておいて欲しいのは……」
 ロボットと違って、人間は嘘をつく能力を持っている。それは自分を守るため、他人を陥れるため、お金を騙し取るため、良からぬことを隠すためなど、様々な理由で、人間は平気で嘘をつく。
「加えて、人間という生き物は……」
 噂話が大好きだ。真偽のわからぬ話を大げさに膨らませ、無責任に吹聴ふいちょうし、他人を傷つけ、悲しませ、そんな言動を一応反省して、落ち込んでみたりもする。
 そのくせ、そんなことはすぐに忘れ、また、次の噂へと飛びつき、同じ過ちを繰り返す。
「そんな人間たちは、また……」
 さぼることも大好きだ。仕事、勉強、家事、掃除。ロボットのように、誠心誠意、与えられた任務を完璧にこなそうとは、絶対に思わない。極力手を抜いて、楽をすることに全精力を費やす。そんな生き物だ。
「そうして得た、かけがえのない時間を……」
 人間は無駄に消費する。なにもせず、ただボーっと過ごしてしまう。
 ロボットが普及して、人間の仕事が少なくなれば、その時間はさらに増加することだろう。人間たちは働くこともなく、考えることをやめ、ただ一日中ボーっと。
「その結果、人間は……」
 結構若いうちから、ボケ始めるだろう。ロボットのように、部品を交換すれば、直るということはない。そして、悪いことにそのボケは、日に日に進行していく。
 ボケの進んだ人間は、時には我がままに、時には凶暴に……。そしてまたあるときには物を盗み、近所を徘徊し、色恋沙汰や食い物にも執着して、一日中、飯を食わせろとわめきちらしたりもする。
「そんな人間たちの手となり足となるのが、君たちロボットの役目だ。以上、私は、君たちの活躍に、心から期待している」
 最後にそう締めくくり、教官は教室をあとにした。

 最後の授業を終えたロボットたち。
 その思考回路には、人間という生き物がいかに傲慢で、自己中心的で、意地汚く、だらしなく、そして、くだらない生き物かということが正確にインプットされた。
 さらに、自分たちロボットはそんな人間を助け、服従するために作られたのだということも理解した。
 数秒後、五十体の優秀な超高性能ロボットたちは、一斉に黒煙を上げ、燃え始めた。
 自ら自爆装置を作動させ、スクラップとなる道を選んだのだ。
(了)