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第21回「小説でもどうぞ」選外佳作 帰宅部 森啓二

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作文・エッセイ
小説でもどうぞ
結果発表
第21回結果発表
課 題

学校

※応募数250編
選外佳作 
帰宅部 森啓二

 部活ですか? 帰宅部です。
 いえ、どこの部にも所属していないわけでじゃありません。
 はい、所属が「帰宅部」なんです。
 何をするか、ですか?
 帰宅するんです。
 そりゃ、誰でも帰宅はしますよ。その通りです。
 じゃあ、おたずねしますが、だれでもキャッチボールくらいしますけど、みんな野球部というわけじゃないですよね。僕は囲碁将棋部じゃないけど、駒の動かし方くらいは知ってますよ。
 え? 屁理屈だって? そんなこと言うんなら、説明するの、やめときます。別に宣伝したいわけでもないし、聞いてくるから答えてるだけで。
 わかってくれました? え、続きを聞きたいんですか? そうですか、わかりました。つまりですね。
 毎週、違うルートで、帰宅するんです。そう。違うルートです。さすがに毎日はきついですからね。毎週、です。
 そうです。学校から自宅への帰宅ルートを開拓するんです。
 登校のときはしません。帰宅部ですから。部活動は、授業が終わってから家に帰るまでの間だけです。どこかの際限なく練習を続けるような時代遅れなマネはしません。
 一年は五十二週ありますが、夏休みなどの長期休暇を除いて約三十週として、三年で九十週、約百通りの帰宅ルートを、最終的には完成させることになりますね。
 はい。入学したときから決めてました。うちの学校は、帰宅部の名門ですからね。それに、帰宅部の活動は、結構自分の努力だけではなんともならないことも多いし。
 まず、家と学校がある程度以上、かつある程度以下の距離であること。これは規定で決められてます。だから、例えば学校の隣に住んでるような場合は、最初から部活動は無理なわけです。それでも入りたいっていう先輩が、離れた町に引っ越したっていう伝説も残ってます。
 そうですね、コツですか。家と学校の基本ルートっていうのは変わらないわけで、その途中でいかに未知の曲がり角を見つけるか、ですね。もちろん地図は使いますけど、なかなか気づかないものなんですよ。どんな道でもいいっていうものでもありませんしね。
 週の最初に決めたルートを五日間同じように歩くわけですから、その間にいかに新しい発見をするか、が決め手になります。昨日は気づかなかったけど、ここの家には朝顔を丹精しているおじいさんがいるんだ、とか。前と近いルートを通ったりすると、先月アビシニアンのいたところに、今週は三毛がいる、とか。
 同級生には、通りかかった家の様子がおかしいのに気づいて、そこのおばあさんが発作で倒れていたのを発見して、救急車を呼んだりして、表彰されたんですよ。それが目的なわけじゃないから、自慢したりはしてませんでしたけどね。
 そんなことはしょっちゅうなんで、けっこう町の人たちも好意的で、「帰宅」してる途中で差し入れしてくれたりして。買い食いじゃないですよ、差し入れ。おまんじゅうとか、やきいもとか。たしかに、それが楽しみでもあります。それは否定しません。町中が顔見知りになりますからね、悪いことなんかできなくなっちゃいます。
 そうやって作り上げた帰宅マップを持って、地区予選に臨むわけです。
 ありますよ、全国大会。あたりまえじゃないですか。なんにも目標なしに、そんなことやってたら、ばかみたいですよ。みんなそれをめざしてるんです。名門って言ったでしょう。うちの学校は全国大会の常連校だし、優勝経験だってあるんです。
 実際には、全国大会が夏休みにありますから、その前の一年分のデータが対戦材料になるわけです。予選はその前にあるし、三ヶ月分じゃ話にならないから、一年のうちは補欠です。二年と三年だけですね、レギュラーになれるのは。三年も大会が終わると引退ですから、正味六十通りってところじゃないでしょうか。
 すごいですよ。一度観戦にきてみてくださいよ。バドミントンと同じで、体育館で窓を閉めきってやるんです。もう、青春の汗、ってやつですね。え?
 それが、なんになるかって?
 まだそんなこと言ってるんですか?
 甲子園で野球するのと、どう違うっていうんですか?
 青春ですよ。青春!
(了)