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第22回「小説でもどうぞ」佳作 フェスティバル・マスト・ゴー・オン ~祭りを終えるな~ 白浜釘之

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作文・エッセイ
小説でもどうぞ
結果発表
第22回結果発表
課 題

※応募数242編
  フェスティバル・マスト・ゴー・オン ~祭りを終えるな~ 
白浜釘之

 年中祭りを行っている国があるらしいとの噂を聞きつけ、テレビ局に勤めている友人が私のところに電話をかけてきた。
 私が学生時代にその地域の言語を専攻していたからだろう。
「とりあえず取材費は出すからさ」
 タダで旅行ができるならと二つ返事で引き受けたが、内心では「どうせ大した祭りではないモノをさも派手な祭りが行われているように見せるために交渉するのだろう」と高をくくっていた。
 以前にもテレビの仕事でこの地方を取材したことがあるのだが、根が陽気で気さくな性格ながらちゃんと物事を深く考え思慮深い人たちのことを、ただ馬鹿騒ぎが好きな単純で軽薄な連中です、みたいな紹介の仕方をしていて不愉快になったものだ。
 だから友人の話も話半分に聞いていたのだが、ネットでの情報などを見るとたしかに国を挙げて毎日お祭り騒ぎをしているらしい。
 なんでも最近独立したばかりの部族国家だが、元来陽気な彼らは独立記念のお祭りから始まり、毎日何らかの理由をつけては国を挙げて祭りを行っているらしい。
 乗り換えを繰り返し、ようやくかの国に飛行機で降り立つと、空港からすでに祭りを思わせる陽気な音楽が流れていた。
「ようこそ! 我が国へ!」
 陽気なおじさんに声を掛けられ、握手を求められる。祭りの仮装なのか妙に安っぽく派手な服装だ。
「どちらから来られましたかな?」
 私が日本からだと告げると、そのおじさんはわざとらしく驚き、
「なんと! 日本からはあなたが初めてのお客様です。これは早速お祝いをしないと」
 派手なおじさんは私に少し待つように告げると、空港の事務所に駆け込み、電話でどこかと連絡を取りはじめた。
「お待たせしました。私、実はこの国の観光大臣でございます」
 おじさんは事務所から戻ってくるなり丁寧に頭を下げ、
「こちらにはどういったご用件で?」
 とたずねてくる。
 私が正直にこれまでの経緯を説明すると、
「なるほど、それは素晴らしい」
 と、私の手を取ってステップを踏み始めた。
「あ、ちょっと」
 彼に引っ張られるまま一緒に踊っていると、同じ飛行機でやって来た観光客らがその様子をカメラで撮りだした。
「ちょっと、やめてください」
 と慌てて手を振りほどこうとすると、
「申し訳ありません。もう少しこのまま一緒に踊っていてくれませんか。私たちを助けると思って」
 不意に冷静な声音でそう囁かれ、私は仕方なくそのまま彼と一緒に躍り続けたまま空港を抜け、そのまま大使館まで一緒に行進することとなった。
「先ほどは失礼いたしました」
 大使館に着くと、例の観光大臣とともに、こちらは彼よりも幾分ましではあったがラフな服装の中年の男が丁寧に頭を下げてきた。
「実はこの国はようやく独立を果たしたとはいえ、それまでの戦争による土地の荒廃もあり、農業や産業が発展するまでにはかなりの時間がかかります。そこで我々としては観光立国を目指すためにこのように毎日何かにつけ祭りを開催しては観光客を呼び込もうとしているわけでございます」
 この国の大統領と名乗った彼は、そんなことを言って私にスマホで画像を見せる。
「先ほどの騒ぎも、このように外国からの観光客によってもう動画が上がっております。もちろんあなた様の顔が映らないようこちらで配慮して再編集した映像ですが」
 たしかに、踊り狂っている日本人が私であるとはわからない編集技術だった。
「もう一昔前のように我々が『原住民』を演じるのは不可能です。だから我々は『年中祭りを行っている陽気な民族』という架空の設定を作り上げ、外貨獲得を目指しているのです。そのために莫大な負債を抱えることになりましたが、この国家事業が軌道に乗ればいずれは返せるものと思っております」
 よく見ると大統領も陽気な観光大臣も笑顔の下には隠し切れない疲労の色が窺える。
「あくまで我々の祭りをたまたま観光客が見に来る、という形でなくてはならないので、大々的に宣伝はできませんが、いずれ情報が拡散すれば大勢の観光客が訪れるものと……」
「わかりました」私は頷いた。
「実は日本のテレビ局がこの国に目をつけて取材しようとしています。しかしくれぐれも実情は内密にしていてください。日本の視聴者は『やらせ』には厳しいですからね」
 私の言葉に二人は黙って頷く。おそらく祭りが終わるとき、この国も終わるのだろう。
(了)