第22回「小説でもどうぞ」選外佳作 ほら吹き祭り 酔葉了
第22回結果発表
課 題
祭
※応募数242編
選外佳作
ほら吹き祭り 酔葉了
ほら吹き祭り 酔葉了
「今年はいよいよあの祭りの年じゃな」
「あの祭り? そうか! ほら吹き祭りじゃな。もう五十年経ったのか……。オラ、初めてだ」
今年三十歳になるオラは喜々として村の長老に答えた。
ほら吹き祭り、昔からこの村に伝わる五十年に一度の奇祭だ。ただ参加できる村人は長老を除いて一度きり。そして参加した者はその話を一切他言してはいけない。破れば村八分。それは未だに守られていた。この祭りを知るには参加するしかない。オラは興奮した。
「祭りは来月の一日。準備期間はその前の一週間。この祭りは準備が一番大変じゃ」
「望むところだ」
オラは大きく頷いた。この村も過疎化が進み人口の減少が著しい。だからこそオラはこの村に残り守ってきた。大変だと聞いて怖気づくわけがない。
長老の指揮でいよいよ一週間の準備期間に入った。参加者はオラを含む二十人程度の老若男女。
「まず、賢太とカズ。町に繋がる道の補修を頼む。ここを整備しないことには人々の行き来が滞るからのう」
「承知!」
「そして、喜一と源蔵。二人は神社の崩れかかった石段の改修じゃ」
「合点だ」
「そして、お前たち……」
次々と長老の的確な指示が飛ぶ。言われた作業は思ったより大変で時間を要した。夕方、ヘトヘトになって詰所に戻る。
「お疲れじゃのう、さあ」
大広間には食事が並べられている。腹の虫が鳴った。
「明日も大変じゃ。まずは腹を満たしておけ」
遠慮なく、飯を掻き込んだ。
「ほら吹き祭りってどんなもんじゃろな?」
一人の問いかけに「腹が立った後、ジワッと喜びが湧くような、そんな祭りらしいぞ」。
「何ちゅう祭りじゃ? そんな不思議な祭りなのかね?」
話は尽きない。
翌日も重労働。年寄り衆の家の修理だ。終わるとヘトヘト、晩はお年寄りが料理を振る舞ってくれる。味わい深く腹に染み渡った。中には昔、祭りに参加した年寄りもいたが、その中身については口を閉ざす。ただ「面白い祭りよ」という言葉に楽しみが募るばかり。
そして、翌日は子供らが通う学校の修理。遊具を作る仕事もあった。子供らも大喜び。やりがいはある。
「村の神様も喜んでくれておる。しっかり頑張れよ」
さすがに後半になると体力的に疲れてくる。身体の節々が痛い。それでもオラ達は歯を喰いしばって頑張った。
女房衆の台所を修繕する作業もあった。もちろん料理道具も綺麗に磨く。
「我々のしていることは神様を迎え入れるための仕事じゃ。手は抜くな」
「無論じゃ」適当にやるわけなかろう。
準備最終日の夜。
「大変お疲れじゃった。村の神も大変喜んでおられる。明日はいよいよほら吹き祭りじゃ。今日は前祝い。思う存分、楽しめ」
そう言って、長老はご馳走を用意してくれていた。もちろん酒もある。踊り出す者もいた。オラは
翌日。好天に恵まれ、我々は清々しい朝を迎えた。
「長老からのお話じゃ」
若年寄の声に身支度を整え我々は正座した。
「皆の者、大変ご苦労じゃった。この一週間、どうじゃった?」
「疲れたけど充実しとった」「村人たちの役に立てて嬉しい」「いろんな人と触れ合えて意義深かった」
長老は一人一人の言葉に丁寧に頷いた。そして、一言、言い放つ。
「祭りはこれで終わりじゃ!」
我々には理解できない。どういう意味じゃ?
「実はこの準備期間が祭りなんじゃよ」
「なんだと! ワシらを騙したってことかね?」
「だからほら吹き祭りというんじゃ。納得したか?」
なるほど……となるわけがない。
「ふざけとる!」と多くがいきり立った。
「馬鹿者! お前たちは貴重な体験をしたのじゃ。いろんな世代の人と話をし、多くの経験をして役に立った。夜はご馳走で仲間と語り合った。人生でこれほど贅沢な時間はないぞ」
そう言われると腹立たしかった気持ちが落ち着いてくる気もする。成り行きを見守っていた過去に祭りに参加した村人たちがどんどんと姿を見せる。皆、笑顔だ。
「まあ、楽しかったかな……」
誰かの言葉にオラたちは皆頷いた。
こうしてまた五十年後、知らない人々を騙すわけだ。今後はオラが騙す側。これは確かに質のいいドッキリ、誰も他言しないわけだ。オラの楽しみがまた増えた。生きていればの話だが……。
(了)