もう一度やり直す日本語綴り方講座①:1時間目・2時間目
1時間目:係り受けだよ文章は
文節は意味が分かる最小の単位
文は文節に分けられます。文節は、意味が分かる範囲で、できるだけ短く切ったまとまりです。
文節に分ける方法は簡単です。合いの手を入れて読めば分けられます。
「私は(ねえ)たらこの(ねえ)パスタが(ねえ)好き。」
はい、できました。
多くの文節は、あとにある文節に係ります。これを係り受け関係と言います。「書くことは楽しい。」
この場合、 「書くことは」は「楽しい」に係っています。
入れ子構造にすると読みにくい
係り受け関係が入れ子構造になっていると、読み手は非常に苦労します。
僕は山本が佐藤が受賞したと電話したのかと思った。
とてつもなく読みにくい文章です。図1を見れば分かるとおり、係り受け関係が入れ子になっているからです。
では、入れ子構造を解消しましょう。
佐藤が受賞したと山本が電話したのかと僕は思った。
入れ子構造を解消し、係り受け関係を近づけましたので、かなり読みやすくなりました(図2参照)。
実に多くの係り受け関係が
係る文節は、複数ある場合もあります。図3を見てください。三つの文節がすべて「吠えた」に係っています。
図4はどうでしょうか。かなり複雑になっています。
私たちは文を書くとき、これほど多くの係り受け関係を作っているわけです。係り受け関係を意識しなくても、文は書けます。しかし、知識として知っておかないと、係り受け関係がおかしいのに気づかない、気づいても直せないということになってしまいかねません。
語順は自由と言われても
係る言葉は長い順に
膠着語である日本語の場合、語順は自由に決めてかまいません。この点で、語順が重要となる外国語(たとえば英語や中国語)と日本語は大きく異なります。
僕は君が好きだ。
君が僕は好きだ。
いずれも正解です。
では、以下の三つの文を一つにした場合はどうでしょうか。
十年前に読んだ本
古びた本
厚い本
A:十年前に読んだ古びた厚い本
B:十年前に読んだ厚い古びた本
C:古びた十年前に読んだ厚い本
D:古びた厚い十年前に読んだ本
E:厚い十年前に読んだ古びた本
F:厚い古びた十年前に読んだ本
いずれも文法的には問題ないですが、読みやすさは格段に違います。一番いいのはAですね。Bもぎりぎりセーフ。しかし、C〜Fは変ですね。
その差はどこにあるのでしょう。
係る言葉と受ける言葉の距離を係り受け距離と言いますが、Aのほうが係り受け距離が近い(図5参照)。同じ言葉に係るものが複数ある場合、長い順に並べると読みやすくなるということです。
長い順にできない場合
長い順でないほうがいい場合もあります。そうした例を出してみます。
(ア)私は出無精だ。こんな日は家でのんびりするのがいいと父は言った。
主語が分からない場合は、とりあえず前の文の主語を引き継ぐものと思います。(ア)の場合も、「私は出無精だ」の「私は」に引っ張られて、一瞬、「私」が「こんな日は家でのんびりするのがいい」と言ったかのようです。主語が変わったときは、まっさきに明示したいです。
(イ)今度こそは何がなんでも入賞してやると十年前に誓った。
いつかと思ったら十年前かと言いたい語順です。「いつ、どこで」といった重要な情報は先に書きたいです。
(ウ)十分もしたら彼の両親がおそらく迎えにくるはずだ。
趣旨としては(イ)と同じです。この「おそらく」のような文全体に係る副詞は、先に書いて文の趣旨を予告したほうが親切です。
(エ)作品をメールで見た。
長い順ではありますが、しっくりきません。「を格」はできれば述語に近づけたほうがいいでしょう。
以上は原則であって厳格な決まりではありません。いろいろ入れ換えてみて、誤読がなく、よりしっくりくる語順を探してみてください。
※本記事は「公募ガイド2011年8月号」の記事を再掲載したものです。