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仕組みがわかれば書ける! 小説の取扱説明書④:小説の視点、あるいは焦点化2

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内的固定視点

「内的固定視点」には一人称と三人称一元視点があります。いずれも特定の人物=視点人物の目(内面)で語ります。視点人物の知らないことは書けませんが、視点人物について言えば全知です。限定的全知です。
特定の人物の目で書かれたものを読むということは、読者もその人物の目で物語の世界を覗くということです。すると、もはや読者は事件の目撃者ではなく当事者になり、紙の上の出来事なのに、今まさに目の前で起きているかのように感じます。当然、感情移入もしやすいし、物語にも引き込まれやすい。
視点人物の心の中を書いていきますので、「その人は何をどう見たか」ということを問う小説に向いています。

一人称

「内的固定視点」の一つ「一人称」(厳密に言うと「一人称一元視点」)は、「僕は」「私は」のように書く形式です。「語り手=主人公」です。
一人称小説は、読者に親密感と一体感を覚えさせます。主人公の気持ちもストレートに伝わります。
また、《彼は幽霊を見た》だと他人事ですが、《僕は幽霊を見た》と書くと、本当にあった出来事のように思えるという効果があります。ホラーや官能小説に一人称が多いのはそのためです。
欠点は、主人公の知らないことが書けないこと。極端に言えば、鏡でもなければ自分の背中も見えませんし、視点人物がいないシーンも書けません。夢の中は本人にも知覚できますから書けますが、夢を見ている自分を同時的に、客観的に書くことはできません。
一人称の場合、周りにいる人はしっかり外見が書けるのに、主人公の外見はぼんやりしていたりします。それを補おうと主人公の説明を入れるなら、他の人物に言わせるなどするしかありません。
また、自分のことは褒めにくいという欠点もあります。《僕は天才だ》なんだか自惚れた人みたいです。
さらに言うと、一人称は語り手=主人公であるため、作者自身が客観的に自作をとらえていないと、作品自体が壮大な独り言になって話が停滞する危険があります。
エッセイの延長のようでとっつきやすいところはあるものの、短編ならまだいいですが、中長編になるとある程度の力量は求められます。

三人称一元視点

一人称と三人称一元視点の違いは、「私は」が「シンジは」のようになっているところです。
語り手が特定の人物に焦点を合わせ、その視点人物を通して語るという意味では、書き方は-人称と同じです。従って、利点も欠点も同じです。
しかし、形式的には三人称であるため、語り手は常に視点人物に密着していなければならないわけではなく、一時的に視点人物から離れ、視点人物の様子や周囲の状況を客観描写することもできます。
とはいえ離れるにも限度はあり、外出している視点人物を描写すると同時に視点人物の家の中の様子を書くようなことはできません。
三人称は、《彼は》《ケイトは》のように書かれますので、語り手と視点人物との間に少し距離がある印象があります。
悪くすると、「冷たい」「遠い」という印象になりますが、自作が客観的に見られ、しかも、視点は一人称と同じ一元視点ですから、うまくすると一人称と三人称のいいとこ取りになります。

内的不定視点(三人称多元視点)

三人称多元視点との違いは、章ごとに視点人物が変わったり、二人の人物が交互に視点人物になったりすることです。ある局面についてだけで言えば三人称一元視点ですので、メリットもデメリットも三人称一元視点と同じです。
注意したいのは、バランス。シンジの視点がほとんどで、ケイトの視点はほんの数行となると、だったら全部シンジの視点で通しては? と思われます。
しかし、それも作者のご都合主義ではなく複数の視点で書くことで出来事の別の面を見せる、変化に富んだ話にするといった創作上の必然であれば話は別となります。
一人の視点では書ききれない中編、長編向きですが、一元視点でもまとめきれない方には難度が高いかもしれません。
ミステリーやホラーでは、一元視点で書くからこそ謎や恐怖が深まるというところがありますが、それを多元視点で書いたためにネタバレになり、興ざめされるということもあります。
また、多元視点の場合、二人の視点人物がいれば二つのストーリーが、三人いれば三つのストーリーがあることにもなりますから、それぞれのストーリーを束ねるもの、たとえば大きな事件などを中心に据えないと、話がとっちらかって空中分解する危険もあります。

視点のブレの実例

ここでは、端的な視点のブレの例を挙げてみます。

バイクの音がしたので、ユリはアパートの窓を開けた。外階段を昇ってくるアキラが見えた。ドアが開き、そこからユリが顔を出した。

 

最後の一行はアキラ視点ですね。ユリ一視点のまま読むと、ユリの目の前にユリが現れたかのようです。

山路を登っているとその先に雲が見えた。春雄は振り返って後ろにいる息子の将太を見た。将太は必死だった。絶対に頂上まで行ってやると思っていた。

 

春雄視点では雲や息子の将太は見えますが、将大の心の中は分かりません。「絶対に頂上まで行ってやると顔に書いてあった」とか、「絶対に頂上まで行ってやると言っていたのを思い出した」など、春雄の知覚で書けばOKですが。

美奈は喫茶店で一息ついていた。やがて頼んだコーヒーが運ばれてきた。ウェイトレスはそれが今日最後の仕事だったらしく、コーヒーを置くとそのまま更衣室に行って着替えを済ませ、店の裏手に置いてあった車に乗り込んだ。

 

美奈視点で読むと、美奈の座っている席から店の裏手はもちろん、更衣室の中まで見渡せるかのようですね。

 

※本記事は「公募ガイド2011年10月号」の記事を再掲載したものです。

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