若桜木虔先生による文学賞指南。「新人賞受賞のキーポイントは『選考委員が知らない』ことを書き込む」
選考ポイントは「面白さ」にはない
新人賞の選考ポイントは「面白さ」にはない。いくら面白くても、どこか既存作に似ていれば落とされる。
そこを勘違いしているアマチュアは、非常に多い。極端な話、つまらなくても「前例のない設定の作品」であれば受賞できる。過去、いくらでも受賞例がある。ただ、そういう受賞者は、すぐに文壇から消える。
そのために私は、添削の合間を縫って年間1000冊ペースで本を読んでチェックしている。
そこまで読めとは要求しないが、せめて年間で500冊は読まないと。
で、「選考委員が知らない世界」「選考委員が知らない知識」を書き込むことが受賞のキーポイント。
つまり、選考委員が熟知している世界は、駄目。主人公を、作家、ライター、編集者、評論家などにしたら確実に一次選考で落とされる。辛うじて漫画家ならOK。
とにかく、新人賞を射止めるキーポイントは「選考委員の知らない世界」を書くこと。テレビで頻繁に取り上げられるような業種も、駄目。派遣業、飲食業は駄目。小売業だとよほど稀有な商品を取り扱っていて、選考委員が感心するような蘊蓄が開陳できること。
また、エンターテインメントは「主人公の活躍」が必須。奇を衒って主人公が全く活躍しない作品を送ってくるアマチュアが相当数いるが、NG。
そういう既存受賞作が稀有なのは、予選で落とされてしまい、陽の目を見ないからに他ならない。
「主人公が全く活躍しない物語」で射止めようと思ったら、よほど凝った工夫が必要で、例えば奥泉光の『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』のような物語。これは一読を勧める。
プロフィール
若桜木虔(わかさき・けん) 昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センターで小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。