文芸公募ニュース 8.23更新 文芸トレンド
スティーヴン・キング『小説作法』セレクト10選
今月は、「koubo小説研究室」第2弾として、スティーヴン・キング『小説作法』から、知っておきたい小説のテクニック10選をお送りします。
下手な解説はしないでおきます。ご自分で解釈し、テクニックを使うこなすことが大事。初心者には使いこなせない技術もあるかもしれません。
その1
正確を期して詳細にこだわると説明がくどくなりすぎて、文章の味を損なう。「テーブルの上に縦三フィート六インチ、横二フィート、高さ一四インチの檻がある」と書くならば、これはもはや散文ではない。ただの説明書きである。
その2
文章を書く上で心して避けなくてはならないのは、語彙の乏しさ恥じて、やたらに言葉を飾ることである。これは飼い猫や犬にイヴニングドレスを着せるようなもので、当のペットも迷惑だし、計算ずくの可愛らしさを押しつけたい飼い主は、それ以上にみっともない。(中略)
要は平明、簡素を心懸けることである。語彙に関しては、適切で生きがいいと思える限り、真っ先に浮かんだ言葉を使うという鉄則を忘れてはならない。
その3
私は自分の作品で、人物の外見に言葉を費やす必要をめったに感じたことがない。顔つきや体格、着ているものは読者の想像に任せる主義である。キャリー・ホワイトはクラスの除け者で、顔色が悪く、身なりもおよそぱっとしない、とだけ言えば、あとは読者が好きに埋めるはずではないか。
その4
私の見るところ、巧みな描写はいずれの場合も、選ばれた細部が言葉少なに多くを語っている。そしてその細部はたいていが真っ先に作者の頭に浮かんだ事柄である。
その5
禅問答かと思うような譬え話は、唯一、危険な落とし穴である。それよりも、よくある間違いは常套句、あるいは言い古された比喩の濫用で、総じて読書量の足りない書き手がこれで躓いている。彼は「気違いのように走った」彼女は「夏の日のように美しかった」彼は「引っぱり凧の人気者だった」ボブは「猛虎のように闘った」……。助けてくれだ。こういう黴臭い文句で人の時間を無駄にするものではない。
その6
副詞について言えば、総じてこれは、自分の表現が曖昧で、言いたいことがよく伝わらないのではないか、と恐れる作家の迷いである。
例えば「彼はドアをぱたんと閉めた」。(中略)感動的かどうかは知らず、そこに至るまでの経緯があって、「彼はドアをぱたんと閉めた」のだ。つまりは心理描写である。それまでの文章で、十分にその感情が説明されているとすれば「ぱたんと」は余計だろう。冗長とはこれを言う。
その7
中身を読むまでもなく、手に取った本が読みやすいか、読みにくいか、一目でわかるはずである。読みやすい本はパラグラフが短く、白く空いているところが多い。
その8
説明的な文章の場合、パラグラフは無駄なくすっきりとまとまった形を取り得るし、それが本来の筋である。段取りのいいパラグラフは、冒頭に主題を提示する一文、トピックセンテンスがあって、続く文章がそれを説明し、展開する組立てになっている。
その9
私の場合、短編であれ、長編であれ、小説の要素は三つである。話をA地点からB地点、そして大団円のZ地点へと運ぶ叙述。読者に実感を与える描写、登場人物を血の通った存在にする会話。この三つで小説は成り立っている。
その10
構想に重きを置かない理由は二つある。第一に、人の一生が筋書きのないドラマである。あれこれ知恵を巡らせて将来に備え、周到に計画を立てたところで、そのとおりに行くものではない。第二に、構想を練ることと、作品の流れを自然に任せることはとうてい両立しない。ここはよくよく念を押しておきたい。作品は自律的に成長するというのが私の基本的考えである。
文人三氏、鬼籍に入る
矢玉四郎
2024年8月20日、児童文学作家の矢玉四郎さんが逝去されました。享年 80歳。
矢玉さんは「はれときどきぶた」などの大胆な発想の作品で知られる児童文学作家。同シリーズは計10作で400万部を超えるベストセラーで、幅広い世代に親しまれている。
石川好
2024年8月19日、ノンフィクション作家の石川好さんが心筋梗塞のため東京都内の病院で亡くなりました。享年77歳。
石川さんの著作には「ストロベリー・ロード」というノンフィクション作品があり、同作で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞し、映画化もされました。2009年からは山形県の酒田市美術館の館長を務めていました。
松岡正剛
2024年8月12日、著述家の松岡正剛さんが肺炎のため亡くなりました。享年80歳。
松岡さんは1971年に雑誌「遊」を創刊。1987年には編集工学研究所を設立、「編集工学」の方法論を提唱し、2000年からは「千夜千冊」をWEB連載し、1850冊の本を紹介していました。
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