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第11回W選考委員版「小説でもどうぞ」佳作 偽悪 静輝陽

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作文・エッセイ
小説でもどうぞ
結果発表
第11回結果発表
課 題

善意

※応募数253編
偽悪 
しずよう

 ぼくは悪魔。サタン族とデビル族のハーフなんだ。十五歳の宴ではどちらかの族の籍を選ばなくてはならない。
 ぼくはいつも失敗ばかりして善いことをしてしまう。両親は、ぼくのことで喧嘩が絶えない。
「善悪の区別がつかないのか」
「あなたが甘やかすからよ」
「おまえがちゃんと教えないからだ」
 夫婦喧嘩がエスカレートして、しまいには調停にデーモン族の閻魔えんま大王が乗り出すほどだ。家に同居するおじいちゃんとおばあちゃんは優しいけど、家出することにしたんだ。
 満月の0時に一瞬開く人間界との出入口を教えてくれたコウモリの先導で、狼にまたがってくぐり抜けた。ぼくはチビで軽いから痩せた狼に乗ることができ、ゲートセンサーに引っ掛からずにスムーズに通過できた。
 人間界に入ってから、コウモリは白い鳩に化け、狼は白い犬に化けた。ぼくは色白の人間の少年に化けた。住居や衣服や生活必需品は、人間界に紛れ込んでいた堕天使の闇業者が手配してくれた。
 尖った耳は折りたたんで、尾っぽは丸めてズボンに隠した。戦闘的に立った髪は坊主頭にして鋭い爪は丸く切り揃え、獰猛な目を隠すのにカラーコンタクトレンズも装着した。笑って牙を剥き出さないよう鏡の前で何度も練習した。はじめのうちは太陽に慣れなくて、日傘を差してぶかぶかの黒装束で歩いていたら、人間の子供たちに笑われた。
 闇業者が用意してくれた偽札を積んで私立中学に裏口入学した。悪いことをしてしまって後ろめたい気分だったけど、満足気な両親の顔が浮かんだ。
 部活はeスポーツ部を選択した。入部早々、ゲームコントローラ操作のためにゴムやボルダリングでフィンガートレーニングをし、攻防戦のために飛んでくるピンポン玉を避ける動体視力強化練習をした。文化系と思っていたんだけど運動系だね。
 卒業記念大会でのバトルゲーム対決では悪魔キャラを選んだ。決勝では白熱した接戦だった。剣や槍や弓矢での攻防に敵勢が増え、白鳩や白犬もゲーム世界に進入して加勢してくれた。
 一対一の戦いのときに相手の天使キャラがコケたので、立ち上がるまで待ってあげたんだ。その隙をつかれて反撃をまともに受けて形勢逆転。一気に追い込まれてしまった。「やられる!」とプレイヤーのぼくは両目を瞑った。
 衝撃がコントローラにこないので恐る恐る目を開いた。天然キャラと共に操作するプレイヤーが青白く燃えていたんだ。慌てた係員が会場に備え付けの消火器を抱えて噴射した。
 相手のプレイヤーは天使が化けた人間だった。控室で元の姿に戻ったとき、白い羽が無惨に焼け焦げていた。
 フェアプレイ賞を頂いたぼくも控室で気が抜けたのか、元の姿に戻ってしまい、正体がバレて人間界を去ることになった。
 家の片付けを手伝ってくれた闇業者の中に、eスポーツの決勝でのゲーム対戦相手がいた。彼はぼくを睨んでこう言い放った。
「試合で見せたおまえの善意は偽物だ。この偽善者め! おまえのせいで、神に自慢の羽を焼かれてしまったんだよ」
 彼は堕天使の先輩に焼けちぎれた羽をつかまれて引きずられていった。
「ごめんね」
 ぼくは呆然と見送るしかなかった。
 悪魔界に戻ったときに両親の機嫌が良かった。家出はお咎めなし?だった。
「天使に勝ったんだって。さすが我が息子だ」
「よくやったわね。今日はご馳走よ」
「残念なんだが、パパは十五歳の宴の日取を相談しに、地獄の閻魔大王を訪ねる先約がある」
「きったねえ、逃げんのかよ!」
「いつの間にそんな悪魔らしい汚い言葉を覚えたの」
「人間界での修業は無駄ではなかったな」
「慣れない最初のうちは偽悪でも良いのよ。そのうちに本物の悪に染まれるから。さあ、ママ自慢の手料理を食べてたくましい悪魔になってね」
「いつまでもチビで痩せっぽちじゃ、人間や天使からバカにされるから。パパの分まで残さずに食べてくれよ」
 ママのご馳走を残さず食べるのは拷問かもしれない。こうなるんだったら善意など見せずに、偽悪でも良いから、eスポーツゲームでズルして反則負けになれば良かったと後悔した。
 料理は狼の丸焼きとコウモリの唐揚げだった。家出を手助けしてくれた仲間を食べるなんて悪魔かよ。
(了)