第11回W選考委員版「小説でもどうぞ」佳作 ただ本当の話……裸の王様ほか一篇 白浜釘之
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第11回結果発表
課 題
善意
※応募数253編
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白浜釘之
王様は悩んでいました。
父である先王は楽天家でお人よしで、ちょっとルーズなところがあり、それゆえに国の経済状況を悪化させたり、なにかと危なっかしいところも多い人物でした。
それでも明るく誰隔てなく接するその態度から、国民には大変好かれておりました。
それに比べ自分はしっかりと国家運営をして、国境にも屈強な警備兵を置き、時に自ら陣頭指揮を執るなど先王のウイークポイントを補い、先王に劣らず町の人々の声にも耳を傾けているのに、どうも今一つ国民に愛されていないような気がしていました。
「服を変えてみたらいかがですか?」
王様に仕える仕立て屋は、王様にそう進言いたしました。
「先王はおっちょこちょいで、よく左右の靴を間違えたり、王子の服と間違えてつんつるてんの服で街に出られておりました。そんなところも民衆に愛された理由かもしれませんね」
「しかし、私にはとてもそんな真似はできないな。どうすればよいだろう」
「では、街を行進する行事の際に、うんとみすぼらしい格好をするのはいかがでしょう。王様も案外、庶民的だと好意的に受け取られるかもしれませんよ」
「なるほど。しかしお前は儲けが少なくなってしまうだろう」
「民衆に王様が好かれるためなら私の儲けなど……そうだ。いっそのこと王様、裸で行進するのはいかがですか? 隠し事をしない王様というアピールにもなりますし、滑稽な感じがして民に好かれるかもしれません」
かくして、次のパレードの際、王様をはじめ家臣の兵士たちも全員裸で街を歩きました。
最初は驚き、戸惑っていた群衆も兵士たちの鍛え上げられた肉体が躍動する有様に感動すら覚えるようになり、特にストイックに鍛え上げられた王様の肉体美は、まさに偉丈夫と呼ぶにふさわしく、王様が意図したものとは違う形ではありましたが、民衆たちの心を掴むことができました。
その行事が恒例化してきた頃、一人の少年が王様におずおずと近づいてきました。
「いつも王様たちは裸で行進しているのは、国が貧しいからなんですか? これは僕が作ったなめし革の鎧なんですけど、もしよかったら着てみてください」
王様は戸惑いながらも、
「実は裸で行進しているのは、私が国民に人気がないから少しでも親しみを感じてもらおうと始めたもので。国家財政が
そう言って、裸での行進をやめ、貧しい革職人の少年の作った革の鎧で行進するようになりました。この鎧は素材こそ
少年も王に召し抱えられ、いくつもの優れた防具を考案していくようになりました。先王の時代には常に周辺国家の脅威にさらされていた国は、鍛え上げられた屈強な兵士たちと優れた武器、防具が知れ渡ったおかげで一目置かれるようになり、栄えていきました。
そんな王様もやがて友好国となった隣国から妃をむかえ、跡取りが生まれて彼が立派に育ってくると、そろそろ後継者として国を引き継がせたいと考えるようになりました。
しかし、偉大な父を尊敬するあまり王子は様々な学問や武術に一心不乱に取り組むばかり。一向に女性や華やかな世界に興味を持たないことが王と王妃には不安でした。
宮中で舞踏会を開催してみても王子はあまり興味を示さず、教養の一環としてダンスや来賓たちとの会話もそつなくこなしていますが、心から楽しんでいる様子ではありません。
しかし、ある一人の少女が自分の靴をなくしたと会場内を困った顔で探しているのに目を留めると、彼女に声を掛けました。
「靴をなくされたのですか?」
「ええ、母の形見でとても大事なものなのですが、私には少し大きすぎたようで……」
聞くと娘は亡くなった母の形見のドレスで今日の舞踏会に参加したという。そういえばちょっと時代遅れのデザインのドレスは色もくすんでいたが、それでも娘が大事に保管していただろうことは想像できました。継母にはいつもよくしてもらっており、今日もドレスを新調すると言ってくれたのを無理に断ってこのドレスと靴で参加したといいます。
「二人の母に申し訳なくて……」
そう言って涙を浮かべるこの娘の純粋な気持ちに心を打たれた王子は靴を探し出し、彼女と結婚することになりました……。
……かつて、世界はおしなべて純粋な善意に満ちていたが、後世の悪意に満ちた童話作家たちが物語を歪めて伝え、それを読んだ子供たちがさらに世界を歪めてしまい、そうして現代にいたるというわけだ。おしまい。
(了)