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第38回「小説でもどうぞ」落選供養作品

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編集部選!
第38回落選供養作品

Koubo内SNS「つくログ」で募集した、第38回「小説でもどうぞ」に応募したけれど落選してしまった作品たち。
そのなかから編集部が選んだ、埋もれさせるのは惜しい作品を大公開!
今回取り上げられなかった作品は「つくログ」で読めますので、ぜひ読みにきてくださいね。


【編集部より】

今回は齊藤想さんの作品を選ばせていただきました!
主人公は売れないピン芸人。予想外の人物との再会を果たすインターネット番組『サプライズ・ショー』に出演し、活躍のチャンスを掴んだはずが……?
後半の緊迫した空気からラストの展開に、思わず息を吞みました
惜しくも入選には至りませんでしたが、ぜひ多くの人に読んでもらえたらと思います。
また、つくログでは他の方の作品も読むことができますので、ぜひお越しくださいませ。

 

課 題

サプライズ!

サプライズ・ショー 
齊藤想

 売れないピン芸人のビッグ師恩にとって、インターネットTVとはいえ番組出演は人生最大のチャンスだった。
 この番組で人気が出れば、地上波への進出も夢ではない。
 番組名は『サプライズ・ショー』。予想外の人物との再会がコンセプトだ。
 この手の番組はお涙頂戴ものに仕上げるのが普通だが、『サプライズ・ショー』は極めて趣味が悪い。
 登場するのが「浮気がバレて喧嘩別れした元彼女」とか「借金してから顔を合わせないようにしている元親友」とか、自分にとって都合の悪い相手ばかりだ。
 だから出演希望者が少なく、売れないピン芸人であるビック師恩にまで声がかかったのだ。
 どんな相手であれ、いかに笑いに昇華させられるか。そこにビック師恩の手腕が掛かっている。
 オープニング音楽とともに司会者が登場する。手慣れたトークを挟み、ゲストであるビック師恩が紹介される。
 ビック師恩はさっそく持ちネタの「ビックビックのビックリ師恩です!」を披露するが会場に笑いはひとつもおきない。
 まあ、オンエア時には笑い声が被せられるだろう。ここでくじけてはいけない。なにしろ、人生一度の大チャンスなのだ。
 司会者がマイクを握りなおす。
「さあ、本日のサプライズさんの紹介です。まずはシルエットからどうぞ」
 スクリーンにシルエットが映し出される。ロングスカートに、ポニーテール。若い女性だろうか。
「分かったぞ。こいつはスレンダー圭子や。駆け出しのときには、スレンダー圭子と”ガリ&デブ”というコンビを組んどったんや。圭子が大食い役でおれが小食役だったけど、圭子はいまでもスイカの早食いはできるか?」
 ビック師恩は大げさな動作でスイカの早食いのマネをするが、観客席は静まり返ったままだ。どうも調子がでない。
「さあ、正解でしょうか」
 司会者がスクリーンにマイクを向ける。スクリーンの女性は、合成音で答える。
「違います。私はスレンダー圭子ではありません」
「おっと違いました。ここでヒントを伝えます。ビック師恩さんが芸能入りする前の知り合いです」
 ビック師恩は少し考えた。どうも滑りっぱなしだ。ここで一発逆転を狙わなければ。ビック師恩は声を張り上げた。
「今度こそ分かったぞ。高校時代の英語の担任教師、熟年ミニスカ先生だろ」
 また会場は静まり返る。そもそもシルエットはロングスカートだ。ビック師恩はとんでもなく滑ったことを自覚せざるを得ない。
 司会者は義務的にスクリーンへマイクを向ける。もちろん違いますとの合成音が返ってくる。
「こうなったら特大ヒントです。どうぞ!」
 スクリーンの女性は、シルエットのまま手紙を取り出した。
「このラブレターに記憶はありませんか?」
 ビック師恩は息をのんだ。
 今度こそ間違いない。彼女は、中学生時代にビック師恩が思い焦がれていた同級生だ。
 ある日の学校からの帰り道。彼女がひとりになったときを見計らって、ラブレターを渡したことがある。
 しかし、彼女はビック師恩のことをせせら笑った。手紙を読むどころか、まるで汚らわしいものを手にしてしまったかのように、手紙を投げすてた。
「ちょっと、酷いじゃないかよ」
 ビック師恩は怒り半分、冗談半分で彼女の肩を押した。彼女は自転車に乗っていた。自転車がよろけて、しかもビック師恩から離れようと無理に漕いだものだから、車道側へと倒れた。
「あ、あぶない!」
 自転車を引き留める時間も余裕もなかった。彼女の姿と自転車は、黒煙をまき散らすダンプトラックの彼方に消え去った。
 どうしたらいいのか分からず、ビック師恩は逃げ出した。翌日、彼女の死が学校から伝えられた。ビック師恩が事故の原因であることは、警察にはバレなかった。
 彼女は死んだはず。なのに、シルエットは明らかに彼女だった。
「どうです、まだ思い出せませんか?」
 司会者がビック師恩に迫る。この状況で何か面白いことを言わなくてはならない。お笑い芸人とは、こんなに辛い仕事なのか。
「そ……その……ビック、ビックのビックリ師恩です!」
 会場には白けを通り越して、呆れた空気が流れる。
 司会者も限界を感じたようだ。
「正解にたどり着かないようなので、本日のサプライズさんに登場してもらいましょう。どうぞ!」
 さっと、スクリーンが取り払われた。ビック師恩は唖然とした。そこには、見たことのない女性がいる。
 彼女が自己紹介をする。
「私はあのときのトラックの運転手です」
 あまりの意外さに、ビック師恩は声もでなかった。
「私は事故現場で師恩さんの手紙を拾いました。未来のある青年と思い、それを警察に届けませんでした。私はひとりで彼女の家族への贖罪を続けました。交通刑務所にも入りました。仕事も家族も失いました。ひたすら贖罪を続けて、ようやく彼女の両親にも許されました。ところで、ビック師恩さんはお笑い芸人をされているぐらいですから、彼女の家族への贖罪は済んだのでしょうか?」
 ビック師恩はうなだれるしかなかった。お笑い芸人どころか人間失格だと自覚した。

(了)