【短歌のお悩み回答】題材が見つからない人と類似が怖い人へ:今日からできる対策と工夫


最後に、投稿者の皆さまから寄せられた質問を見ていきましょう。
実際にあった出来事を歌にするのがいいとは思うのですが、そんなにいくつも印象的な出来事は起こりません。どんな風に題材をひねり出せばいいのでしょうか。
どんな短歌を詠みたいのかによるかと思いますが、何かに投稿したり発表したりして他者に読んでもらう(そして多少なりとも評価をされたい)のであれば、具体的にでも抽象的にでも何かしらが「伝わる」必要があると思います。そして、人間は自分と微塵も関係のないことや、見聞きしたことがないものには感覚が動きません。
であれば、あまり特殊な出来事を題材にするよりは、普段は印象に残らないような日常を短歌に詠み、読んだ人とその日常を共有することで心を動かす方が手堅い手法ではないか、と思います。もちろん、たとえばファンタジーやホラー、ミステリーなどのエンタメ小説を書くなら、読者に特殊な体験をさせるのが定石かと思いますが、短歌一首はそこまで特殊な出来事を書き切れる形式ではありません。
短歌に必要なのは印象的な出来事とは限りません。むしろ印象に残らないような景色や体験に目を向けるのに適した詩型だと思います。題材に困ったら、自分自身の生活に抱く「印象的」の範囲を拡張していきましょう。天気のいい日に5分間だけ立ち止まって、視界に入るもの、音、匂い、暑さや寒さなどに気を向けて、思ったことをなんでもメモしてみるというのもおすすめです。
既存の短歌との類似、パクリ、盗作についての質問です。
私は短歌を作成する時、単語や句の並びなどで似たような短歌がすでに存在していないか、念のためインターネットやSNSで検索してから各種歌壇や雑誌に投稿していますが、インターネットにない紙面だけの作品や、違う言葉を使っていても似たような内容の短歌など、確認することは難しく限界を感じます。モチーフや句のかぶりなど、どこからパクリや盗作になってしまうのでしょうか。
これは繊細な問題なので、今の私の個人的な所感ということで回答させてください。私自身も時代の変化とともに、意見が変わるかもしれません。
SNSが普及したことによって、私たちは誰もが公への発言者や、作品の発表者になれる時代になりました。多くの人間が集まる場所には、いい人も悪い人も集まります。何らかの理由で故意に盗作する人も存在するのは、SNSを使う誰もが知るところです。
こうなったときに悩ましいのが、短歌はその判定が極めて難しいというという点です。心情的にも法律的にもです。
言葉は情報の伝達手段です。短歌は言葉を使って作ります。しかも31音程度しか使いません。また、ひとつめの質問のように、人間の日常を題材にするケースが多くあります。似ている名言や伝承が異なる人や地域や時代から出てくるように、どうしても類想(同じような発想)は発生するでしょう。
しかも57577というリズムがベースにあるので、同義語のなかでも使われやすい言葉や、発生しやすい言い回しがでてきます。これらのことから、極めて似ている短歌の発生は「する」ものだとも言えます。
インターネットは便利ですが、検索機能も所詮は誰か人間が作ったもの、完璧ではありません。いまこの瞬間検索してヒットしなくても、次の瞬間に検索にあがりやすい形で過去の作品を発表しなおす人がいるかもしれません。
パクリや盗作などの悪意・悪行は決して許されるものではありません。一方で、短歌はその判定が難しいのも事実です。これに1ミリも違わない完璧を求めることは、自分に対してでも、他人に対してでも苦しいものになるでしょう。作歌に割く気力や時間が大幅に奪われます。
短歌で類想を繰り返している人は、悪意がある盗作なら反省するべきです。しかし度重なる盗作を指摘されても、平気で繰り返したり、名前を変えてまで繰り返したりする人もいますね。許せません。でも、残念ながらインターネット越しにそういう人を「更生」させることは不可能です。友人だって家族だって、過ちを正しく指摘するのは、どれほど難しいことか。
もし類想を無意識に繰り返してしまう場合、同じ作者・歌人の作品を読みすぎていたり、ひとつの媒体からしか短歌を読んでいなかったりする可能性が高いと思います。自分が「うっかり類想歌を詠む」ことを避けたいのであれば、検索するのはもちろん有効ですし、加えて意識的に複数の歌集、複数の媒体から、他者の短歌を読むといい気がします。盗作をしたかどうかは、本人が一番わかっていることではないでしょうか。
作品や質問のご投稿ありがとうございました。
今月は、テーマ詠「恋」を募集しています。
テーマ詠は、お題の単語を短歌のなかに入れても入れなくてもOKです。そのテーマにあった短歌をお待ちしています。
どこかに応募した作品も、未発表も作品もぜひご投稿ください。(著作権がご自身にある作品に限ります)
分かち書き、句ごとの改行はしなくてOKです。採用されている短歌の書式をご参考に!
| 応募規定 | 短歌(57577)を募集します。 テーマは「恋」。 応募点数制限なし。 応募フォームに柴田葵さんへの質問欄を設けています。短歌のことや、作品づくりについて選者:柴田葵さんに質問があればご自由にお書きください。匿名で質問内容とその回答を記事に掲載させていただく場合があります。必ずしも回答があるわけではございませんので、ご了承ください。 |
| 応募方法 | 応募フォームからご応募ください。 ※X(旧Twitter)での応募はなくなりました。 ※応募者には、弊社から公募やイベントに関する情報をお知らせする場合があります。 |
| 賞 | 最優秀賞1点=Amazonギフト券3000円分 優秀賞2点=Amazonギフト券1000円分 佳作数点=ウェブ掲載 ※該当作品なしの場合があります。 ※作品を記事内で推敲する場合があります。 ※発送は発表月末~翌月頭を予定しております。 |
| 締切 | 2025年12月31日 |
| 発表 | 2026年2月1日 |