【読者を惹きつける主人公の作り方】目的と弱点を盛り込め! 長編小説が一気に面白くなるキャラクター造形の極意


読む人を魅了する強い主人公を作ろう
長編小説はストーリーと人物の魅力で物語を引っ張っていく。人物の魅力が加わることで、ストーリーもより面白く感じられる。そんな人物を造形しよう!
どんな主人公にするか
主人公には強い目的と欲求が必要
主人公には目的を実現させたい強い意志が要る。そのために任命者や贈与者(「スター・ウォーズ」でいうオビ=ワン・ケノービやヨーダ)が要るが、いない場合は主人公を目的に向かわせる、必死にさせるように仕向ける必要がある。
また、目的は原始的で本能的でありたい。「ダイ・ハード」もテロリストを倒すだけでなく、妻と再会したいという目的があるから盛り上がる。本能的な目的となると俄然高揚する。それが人間だ。
やっぱり弱さ、弱点のある主人公が〇
強い主人公とはヒーローという意味ではない。なんでもできるスーパーマンのような主人公も魅力的だが、それよりなんといっても惹かれてしまうのは弱点があったり、過去があったりする人物。
藤沢周平「盲目剣谺返し」の主人公は盲目。島本理生『ファーストラヴ』の登場人物はみんな人に言えない過去を背負っている。
弱点や秘密はぽっかり空いた穴のようなもので、あれば覗いてみたくなる。それが人情だ。
キャラクターを立てるかどうかは、ジャンルと枚数による
すべての小説がキャラを立てるわけではなく、ジャンルと枚数による。純文学ではキャラがテーマ性をじゃまするし、ごく短い小説ではキャラを立てている紙幅がない。ただし、どんな小説でも全くの無個性の人物では生きた人間の話にはならない。

性格をどう表現するか
何を選択したかで性格がわかる
〈彼は勇敢だ。〉と書いても、それだけでは読む人には伝わらない。
性格は出来事に対してどんな選択をしたかで測られる。暴漢がいれば、戦うのか、逃げるのか、戦うにしてもどんな戦い方をしたかで性格がわかる。常に出来事を通して表現するようにしよう。
地の文に書くか、セリフで言わせるか
一人称で〈私は勇敢だ。〉と書いたら自慢しているよう。三人称で〈彼は勇敢だ。〉と書いてもいいが、説明っぽい。
それより出来事を起こし、選択させたあと、〈「あいつ、なんて野郎だ」〉のように誰かに言わせる手も。いろいろ試してみよう。
性格表現の公式 出来事 × 選択
藤沢周平「 盲目剣谺返し(映画「武士の一分」原作)にみる性格と行動
『隠し剣秋風抄』 (「盲目剣谺返し」所収、文春文庫・814円)
STORY
新之丞は失明、家禄(給与)を没収されるところ、まぬがれたが、それは妻が上役に体を任せたからだとわかり、新之丞は妻を離縁。上役に果たし合いを申し込む。
行動
加世は家禄を没収しないよう頼みに行き、その代償に手籠めにされ、新之丞に離縁される。新之丞が「徳平(下男)の料理はかなわん」と言っているのを知ると、飯炊き女に身をやつして家に入る。〈加世は献身的〉とは書かれていないが、行動を通じてそうとわかる。
人物の履歴を考える
現在の状況と、内面を作った出来事
人物の履歴を作るときは、内面を作った過去の出来事と現在の生活から考えよう。
過去の出来事は、幼少期、10代、大人になってからの各年代で、どんなことがあり、結果、どんな性格になったかを考える。この出来事をうまく隠すと謎めいた人物に。
現在の生活は、社会生活、人間関係、プライベート(一人のときに何をしているか)で考える。
ほか、市販の履歴書にある項目も埋める。なお、映画やマンガと違い、外見はあまり重要ではない。
島本理生『ファーストラヴ』にみる人物の謎
『ファーストラヴ』(文春文庫・781円)
STORY
環菜は父親を殺害するが、動機が不明。臨床心理士の由紀はノンフィクション執筆のために取材する。
真壁由紀(主人公・臨床心理士)
由紀は殺人犯の環菜と接見し、話を聞くうちに自分にも環菜と同じトラウマがあることに気づくが、それは謎。
庵野迦葉(主人公の元恋人・弁護士)
迦葉と由紀が惹かれ合ったこと、別れたことには理由があり、それは迦葉の生い立ちに起因しているが、それは謎。
聖山環菜(犯人)
環菜は「動機はそちらで探してください」と言う。殺害に至った原因は幼少期のトラウマにあるが、それは謎。
真壁我聞(主人公の夫)
報道写真家だった夫、我聞は家事もするよき夫。迦葉と由紀のことは知っていて結婚したが、その胸の内は謎。

脇役とキャラかぶり
キャラ分けをする鉄則を知ろう
キャラクターは役割でもあり、全く同じ性格の人物は二人はいらない。いわゆるキャラかぶりというもので、もしも二人いるのなら構想段階で一人にまとめる。
キャラ分けは性格で分けるのが定番だが、それよりも持って生まれた気質で分けるほうがよい。
クロニンジャー博士のパーソナリティー理論によると、人間の気質は「新奇探索傾向(チャレンジャー)」「損害回避傾向(リスクヘッジャー)」「報酬依存傾向(認められたい)」「固執傾向(こだわり、オタク性)」の四つ。
主人公にはチャレンジャーかリスクヘッジャーが向き、脇役にはそのほかの気質を当てるとよい。
スティーヴン・キング『スタンド・バイ・ミー』にみるキャラ分けの実例
『スタンド・バイ・ミー』(新潮文庫・825円)
STORY
森の奥に子どもの死体があるという噂を聞いた少年4人が旅に出る。スティーヴン・キングの半自伝的作品。
ゴードン・ラチャンス 〈人格は損害回避傾向〉
主人公。性格は内向的で真面目。物語を作る才能がある。
クリストファー・チェンバーズ 〈人格は新奇探索傾向〉
自分の将来を悲観している。正義感があり、友達思い。
バーン・テシオ 〈人格は報酬依存傾向〉
太っていて、のろま。臆病でうっかり者。甘えたがり。
セオドア・ドチャンプ 〈人格は固執傾向〉
粗野で無茶な性格。父親の影響もあり、軍隊オタク。
ワーク:上記の「人物の履歴書」を埋めて、主人公と副主人公の人物造形をしてみよう。
※本記事は2022年1月号に掲載した記事を再掲載したものです。