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【長編は短編とは別物だと心得よ!】物語の複雑さが鍵|メイン・サブプロットが相互にからみ合う長編小説の書き方

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短編とは書き方がちょっと違う 長編の小説作法を知ろう

長距離走と短距離走では走り方も必要な筋肉も違うように、長編と短編では文章量も物語の複雑さも違う。長編を書くなら、まずこのことを知っておこう!

短編をただ長くしたものではない

短編の等比変形だと思うと失敗する

短編しか書いたことがない人が長編を書こうとすると、一文一文をふくらませて全体を太らせようとする。これをやると話が間延びするだけで中身が薄くなる。

下記は原稿用紙10枚ぐらいのごく短い短編ならすっ飛ばすところだが、ここではマッチを擦る理由を詳しく書いている。

文章を横に広げるのではなく、情報を付加するなどして縦に掘るようにして書く。これが勘所!

場面を書いた部分は文章量が長くなる

物語が動いているか(時間が進んでいるか)どうかを動画になぞらえると、小説の文章には再生、早送り、一時停止がある。

長編と短編を比べた場合、早送りと一時停止の文章量はあまり変わらない(ただし長編は世界観の説明など説明の文章が長くなることはある)。違いが出るのは場面を書いた再生の文章の量。ここは長くなっていいが、ほかの二つは長くなりすぎないようにしよう。

長く描写した文章の例

 くわえタバコで客を引くことが、綾子にはどうしてもできなかった。
 物欲しげな男は薄闇の中でもそうとわかる。だから街の女たちはそのつどタバコをくわえて、マッチの上明りに顔を晒す。あたしでいかが、と。
 露天商が店閉いを始めるころから、終電までの間が稼ぎどきだった。一人目は丸ごとショバ代で、二人目からがてめえの食い扶持、お茶を挽いても待ったはきかない。だから女たちは早い時間にマッチの火を並べて、とにもかくにも一人目の客を拾おうとする。
 腹がくちくなり、わけのわからぬ酒を飲んで気の大きくなった男。風体などはどうでもいい。そういう人間が闇市の先から近付いてくると、傾いた電信柱や焼け残ったビルに寄り添う女たちの手に、ひとつずつマッチの火が灯されていった。
 今さら恥も外聞もないものだが、綾子には捨てきれぬ矜持があった。ほかの女たちと同じように、この体が売り物であるという合図を送ることができなかった。
(浅田次郎『帰郷』)

小説の文章の三つの種類

再生(場面)

「どうですか?」
 問われて、おしづははっと顔をあげた。政右衛門がにが笑いしている。
「あまり気がのらないご様子ですな」
 顔は笑っているが、声にたしなめるようなひびきがあった。無理もない。政右衛門はここ数年もの間、ぽつりぽつりと縁談を持って来ては、そのたびにことわられている。恩着せがましいことは一度も言わず、そぶりにも見せたことはないが、政右衛門はいい加減うんざりしているはずだった。
「お齢はいくつですって?」
 おしづはあわてて問い返した。
「三十四です。さっき申しました。おしづさんが六になられましたから、ま、釣り合わない齢じゃありませんな」

早送り(行為の説明)

 おしづは笑った。こういう話は、聞いているだけならたのしかった。母と相談して、いずれ返事するとおしづは言った。
「おや、おどろいた。まだ降っている」
 帰るという政右衛門を送って出ると、ひと足先に外に出た政右衛門が大きな声でそう言った。外が雪で真白になっていた。

一時停止(経緯の説明)

 おしづの家は雪駄問屋で、店は日本橋北の品川町にあった。黒漆喰塗りの店蔵が目立つ店で、界隈では指折りの繁昌店だったが、八年前におしづの父近江屋幸右衛門が急死するとたちまち潰れた。
 父が死んだあと、なぜあんなに沢山の借金取りが来たのか、おしづにはいまだにわからない。来る日も来る日も借金取りが押しかけて来て、母と番頭の清兵衛を相手に大声をはり上げ、むしり取るように金と品物を持ち去った。それで済んだのではなく、ある日大八車を三台もひいた男たちが来て、箪笥、長持、建具のはてまで運び去った。奉公人は四散し、親子は店を追われた。店も抵当に入っていたのである。
(藤沢周平『日暮れ竹河岸』所収「夜の雪」)

短編とは物語の複雑さが違う

長編は全体を書く 短編は切り口を書く

短編は一瞬を切り取るように書く。いきなり始まっていきなり終わり、その前後は推測してもらう。ストーリーはシンプルで、メインプロットだけで構成される。それで成り立つ。

しかし、長編の場合はそれではもたないから、メインプロットのほかに、これを支えるサブプロットが必要となる。

メインプロットとサブプロットは、大きな容器の中に小さな容器が入っているような入れ子構造になっていることが多く、メインプロットを展開した先にサブプロットがあり、サブプロットが解決することでメインプロットも解決したりする。

サブプロットはこのようにメインプロットと不可分にからみ合っていることが必須。単に主人公のバックストーリーを書き、サブキャラクターのメインプロットを重ねるだけでは×。

また、サブプロットを導入部にすると、メインプロットと勘違いさせてしまうので、やるならそうならないように注意しよう。

横山秀夫『ノースライト』を例に長編小説のプロットを分解

映像化もされた横山秀夫の傑作ミステリー『ノースライト』を例に、長編小説がどのように構成され、どのように複雑なのかを見ていこう。

サブプロットがあり、複雑にからみ合う

「あなた自身が住みたい家を建ててください」と依頼され、実際に建てたが、施工主は住んでおらず、行方不明。いったいなぜ?

これがメインプロット(Aストーリー)だが、これだけではシンプルすぎて長編ではもたない。『ノースライト』では、主人公は旧友の設計事務所に拾われ、かつての同僚とコンペで対決(Bストーリー)。これに離婚した妻がからみ、さらに旧友の家庭の問題も関与してくる。また、相関図にはないが、主人公の父親と実在する工芸家タウトもキーになっている。

物語を複雑にすればするほど収斂させるのが難しくなるが、長編にはこれぐらいの複雑さが必要だ。

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ワーク:メインプロットとサブプロットが相互に関連し合うようなあらすじを考えてみよう。

※本記事は2022年1月号に掲載した記事を再掲載したものです。